長髪
暗闇の中だったが、男のランプで、男の姿はよく見えた。
女性のように髪を長く伸ばした、男だ。
山ではもちろん見られないが、おそらくコクライノでもここまで長髪の男は珍しいのではないか。
チェコには、男が髪を長く伸ばす理由が判らない。
だが、男が、かなり整った顔立ちなのは理解できた。
しかし女性のよう、と言うのとは違う。
男はスマートだが、筋骨はたくましく、男らしい、とも感じる。
その長髪男は、チェコたちを訝しげに眺めていた。
「なんで俺の邪魔をするんだ、と聞いているのだが?
俺は、その子供を誘拐して、宮廷錬金術師から身代金を脅しとるつもりだったのに!」
全部白状している…。
悪事を働いているという自覚はないのだろうか?
チェコの方が、よく判らなくなってきた…?
「俺は、パトリックのボディガードだ!
パトリックは取り返させてもらう!」
とにかく、カイは男に説明することにしたらしい。
「お前は知ってる。
だが金色の髪の子供、エルフ、それに兵士とメルトリークか?
お前たちはなんなのだ?」
なんだか、あくまで追求するつもりのようだ。
「えっと。
お兄さん、誘拐は悪いこと、って判ってないの?」
チェコは、仕方なく男に聞いてみた。
「金がないのだ。
だから俺は、悪事を商売にしている。
働くことは悪か?」
改めて、そう聞かれると返答に困る…。
「俺たちはパトリックの友達だ!
パトリックに悪さするつもりなら、相手になる!」
ヒヨウも語りだす。
男は目を細め、
「邪魔をする、というのか。
それならば!」
男は、ボートを蹴ってジャンプをし、ヒヨウの近くに鮮やかに着地した。
と、同時に!
長身の男の蹴りが、ヒヨウに突き刺さった。
が、ヒヨウは一瞬早く、屈んでキックを交わし、そのまま男の足に、己の足をかけた。
男は、一瞬、ぐらつく。
が、腰を落としてヒヨウの顔にパンチを放った。
ヒヨウは、下から腕を上げてパンチを弾き、踏み込んで男のみぞおちに肘を打ち込んだ。
男は、よろめくように背後に下がり、
「やはり、エルフはなかなか強いな」
薄く笑った。
キキッー!
唐突に、メルトリークが叫び出した。
そのただならぬ様子に、男は、
「仕方ない。
今回は諦めるが、いいか、覚えておけよ」
男は、本当に、子供にものを教えるように語った。
「俺の邪魔は許さない。
いいな」
いうと、きびすを返し、男はボートに飛び乗り、汚水を下って行った。
チェコはヒヨウの傍に走った。
「なんなの、あの人?」
ヒヨウも、肩をすくめ、
「さあな。
ただ、なかなかの武道の達人だ。
なめてると、ひどい目に合うだろう」
とにかく、パトリックを取り返し、チェコたちは屋敷に戻った。
「パトリックは大丈夫かなぁ?」
チェコたちはパトリックを家に送ってから屋敷に戻った。
パトリックの父は、警備を雇う、と話していたが…。
「…たぶん錬金術師はみんなケチ…」
と、パトスも呟いた。
「まあ、仕方がない。
貴族に混ざって暮らすだけでも、相当の金がかかるんだ。
領地も無いのに兵の都合をつけようとしても、大変な出費になる」
ヒヨウの話しに、チェコが、
「え、領地も関係するの?」
「むろんだ。
領地があれば、土地に兵の家族を住まわせられる。
それなら、おそらく半分の給料で雇えるのだ」
なるほど、住居込みだと割り引かれるわけだ。
下水道を歩き回っているうちに夕方になってしまった。
チェコは、微かな異臭をアンに気づかれて、パトス共々、泡だらけに洗われた。
「はー、何だかんだで、結局夜だよ!」
チェコは、自室のベッドで呟いた。
付加の実験も、中々はかどらない一日だった。
とりあえず、ウサギに付加をかけていく。
取り替え、は緑二アースのウサギになった。
小さくなーれは、緑青の三アースになる。
実用に足るかどうかは微妙なところだ。
毒矢は、二アースのウサギになったが、これは使えない相手が多いので元々微妙なカードだ。
実験、の要素が多い。
道しるべ、はなぜか緑一アースでできてしまった。
どうも、フンが道しるべになるという…。
ちょっと悪ノリだったかな、とチェコ本人もなんとなく後悔した。
「ん、ちょっと待って!
声マネキもトレースした召喚獣だよね」
四/八と防御型だが五アースで出る。
大きさ的には悪くないが、良くもない、感じか…。
いまいち五十枚には入らない奴だが、うまく付加できれば意味も出るかもしれない。
チェコはパトスの忘れられた地平線、を借りてみた。
「…時間の無駄…」
パトスはいうが、付加してみると…。
「あれ、五アースのままで、付加できちゃった…」
チェコもパトスもりぃんも、唖然と、忘れられた地平線つきの声マネキを無言で見下ろした。