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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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教会

翌日は学校は休みだった。

なんでも、神に祈るための日であるらしい。


老ヴィッキスに連れられて、チェコとヒヨウは地域の教会に行った。


地域の教会、とは、この場合はコクライノ大聖堂の事である。

南大門から坂を上がったところにある、コクライノの観光名所であり、二つの尖塔はチェコも船から見えたので、よく知っていた。


まだ儀式の始まらない早朝、チェコとヒヨウは、まず洗礼という、教会の信者になる儀式を受けるのだ。

これを受けないことには、祈りの儀式に参加できない、という決まりが教会にはあるらしい。


チェコとヒヨウは、白い衣装に着替え、裸足で戒壇の前に立った。


牧師は、ヨボッヨボの明日にも死にそうな老人だった。

ヨタヨタと歩き、意味不明にバイブルを読んだ。


どこを読んでいるのか、というより何語で喋っているのかすら判らない。


「ヘシャイシュウ?」


なにか、水の張ってある石製の台の向こうで、老牧師は語った。


チェコは、ポカンと老牧師を見ていたが、


「歯が抜けて聞き取りずらいが、お前を読んだんだ…」


と、ヒヨウがささやき、チェコは、驚いて前に出た。


「チヒョウホーホーヘハヘリハハヘ…」


チェコはポカンと老牧師を見上げる。


「チヒョウホーホー…」


「右手首を水盤にかざすんだ…」


ヒヨウに言われて、おお、と右手を出す。


「カバリヒーヘーニョハハヘリロリニ、イハエハマヘ…」


牧師がたらり、とチェコの手首に水をかけると、手首が青く光った。


「ラ…、ラヒヘツクチョウロー!」


チェコが首をかしげると、


「どうも主は既に洗礼を受けていたようである。

ただ、問題は、主の手首の紋は、王爵の印で、臣下の印では無いことである」


あれ、祖父さんもヘマをやったな…、とチェコは困った。

教会の事など何も知らないので、どれ程の非常事態なのかも判らない。


と、老ヴィッキスが牧師に歩みより、


「これはプロヴァンヌ家の機密事項なのです…」


と、囁くと、


「ヒボゥウキリヒ?」


と歯の無い牧師は老ヴィッキスに問い直し、


「さようです」


と、声を潜めて老ヴィッキスが答えると、老牧師は、


「ヒョウラアナフ、アーヒョウナ…」


と、囁き、


「アヒョケケルマ、レーヒョウカゥ…」


「お前は主のお許しが出た。

今度は俺だ」


ヒヨウが囁き、チェコは後ろに下がった。


ヒヨウにたいしては、老牧師は盛大に、


「タラチナガュウーキ、アラウウカウコホー」


と祈っていた。


しばらく大聖堂の奥の貴賓室でチェコたちは休み、やがて、ぞろぞろと信徒が聖堂をうめてくる。


貴賓室にも、着飾ったエズラ・ルァビアンや、ドレスを着たリース・コートルタールなどが貴賓室にやってくる。


「あら、チェコもこっちだったのね」


とニンマリ笑うエズラ。


「ん、他にもあるの?」


リコ村には、教会は一つしかない。


「そうよ。

一番の名家はこのコクライノ大聖堂。

過去百年ほどで成り上がった者たちは、東のコクライノ教会。

パトリックとかは舟屋通りの市民教会に通うのよ」


そう言えばバトルシップに行く途中に、結構立派な城塞のような建物が立っているのが見えた。


チェコは、知ってる、と言いそうになったが、老ヴィッキスに知れたら怒られることを思い、へぇ、というにとどめた。

タッカーが育ったのは市民教会なのだろうか?


貴賓室には他にも、偉い人々が次々に詰めかけ、エズラは挨拶に忙しい。


「やあ。

君も朝から大変だね」


と、ドレスを着たリース・コートルタールが声をかけてきた。


「リースも名家なんだね?」


アハハとリースは笑い、


「うちは、まあ没落貴族と言ったところさ。

細々とやってる」


「そうなの?

立派なドレスだけど?」


「このドレスは母が娘の頃に着たもので、それでもあちこち家の者が手直しをして着せてくれているのさ。

最低限の貴族の身だしなみだね」


話したところで、時間です、と声がかかり、チェコたちは列を作って廊下を歩き、他の信徒より一段高くなったところに座った。


美しい音楽が響き、子供が歌を歌う。


そして、先程の死にそうな老牧師が、子供に支えられて壇に上がった。


「皆さん、おはようございます」


「あれ、普通に喋ってる!」


チェコは驚くが、ヒヨウが、


「よく見ろ、入れ歯を入れているんだ」


と教えた。


見ると、確かに、老牧師は幾分か若く見え、口に白いものが入っている。


「さっきは忘れていたの?」


「象牙の入れ歯は高級品だからな。

割れるのを恐れて、普段は外しているのだろう」


「ふーん。

象牙の入れ歯の修理ぐらい、簡単なのにな…」


チェコは呟くが。


「チェコ!

お前、割れた象牙の修理が出来るのか?」


ヒヨウが驚いた。


「…入れ歯の修理や農工具の補修はチェコの仕事だった…。

象牙も扱う…」


と、パトスも請け負った。


「これは驚いたな」


ヒヨウは呟き、す、と席を立つと、壇の端に立っていた若い牧師に何事か囁いた。


やがて説法が終わると、チェコは奥の間に呼ばれた。


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