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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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「チェコ君。

デュエルに大人も子供も関係は無い。

命がけのデュエルに君が勝ち、父は負けたんだ」


カッ、と革靴を鳴らし、ミッチェルは敬礼をする。


「君は素晴らしいスペルランカーだ。

可能ならヴァルダヴァ軍に入ってもらいたい!」


チェコは驚くが、


「も、もちろんだよ!」


言うチェコを、チェコの胸からの野太い声が遮った。


「待つのである。

今や主はプロブァンヌの貴族。

元々、ヴァルダヴァの生まれとは言え、ヴァルダヴァ軍に入る事は、叶わないのである!」


「え、そうなの、エクメル?」


チェコが驚けば、パトスが。


「…確かに、もうお前はプロバァンヌの人間…、いや、育ちはリコ村とは言え、元々、生まれもプロバァンヌ…」


とパトスも唸る。


「やーん、このワンコ、喋ったわ!」


とエズラとフロルが、パトスを略奪する。


「…放せ、俺は精獣…!」


叫びながら、パトスは女の子たちに囲まれていった。


「何でプロバァンヌの貴族がドリュグ聖学院に入ってんだよ」


と皮肉屋のアドスが突っ込む。


「あー、俺は訳ありで、ちょっと命の危険があったんで黒龍山の麓のリコ村で育ったんだ」


と、チェコは笑った。


今、チェコが住んでいる屋敷は、庭園を入れればリコ村より広いかもしれない。


「君なりに大変だったんだね。

だから、その若さで卓越したスペルランカーになれたんだ」


と、さっきまで泣いていたレンヌが、チェコに同情の表情を見せる。


チェコが思い抱いていたのは、


なんとか友達を作りたい…!


その一心だった。


リコ村では、チェコの友達はパトスと八匹のウサギだけだった。

今となっては、まあ、懐かしい事もないでは無かったが、あのハブられかたは、二度と経験したくはない。


だから彼らにウケるなら、別に英雄でも道化師でも、チェコは全く構わなかった…。


「まあ、厳しい教育は受けてきたけどね…」


と、チェコは伏し目がちにダリアを思い浮かべていた。


「俺は認め無いぜ!」


へ、と振り向くと、ひときわ体の大きい男子が、シャラ、と腰の剣を抜いていた。


「止めろよタラン!」


レンヌが止めるが、うるさい、とレンヌを突飛ばし、タランはチェコの前に立った。


「この距離なら、スペルなんか怖くねーぜ!」


確かに…。


チェコとタランの距離は、ほぼ五歩。

一番早いスペルでも、鍛えた剣士なら発動前にランカーの首を跳ねられるかもしれない距離だ。


「アドス、彼は?」


アドスは冷ややかに笑い、


「こいつもレンヌ同様、山でお前にコテンパに兄がやられた男さ。

タランってガワラ男爵の次男、今は長男だ」


なるほど、と呟きながら、しかしチェコは山の時のようにはうろたえていない。


腰の剣、青鋼をスラリと抜いた。


「僕が憎いかい、タラン…」


「憎いんじゃねぇ!

お前なんかに負けるわけがねえ、と思ってるだけだ!

その涼しそうな英雄面をひんむいてやるぜ!」


え、とチェコは驚いた。

俺が英雄の顔をしている?


チェコは、肩書効果など全く知らなかった。

貴族の衣類を着て、三十分、他人にブラッシングしてもらい、国主のブァルダブァ候さえチェコを英雄として扱う中、知らず知らずにチェコが不思議なオーラを纏っているように周りには見えてきていることなど、チェコは知る由もなかった。


「じゃあ、俺を倒して自分の強さをアピールしたい、って事だね、タラン。

良いだろう。

じゃあ、俺が勝ったら、俺と君は友達だ!」


ちょっとドキドキしながら、チェコは語った。

何とか、友達認定をもらいたかった。


「け、俺が貴様みたいなチビに負けるかよ!」


叫んでタランは鋭く切り込んだ。


チェコの、臨時ストレートヘアの中の一本が、人知れず右に飛び、チェコはギリギリでタランの剣を交わした。


「タラン、良い踏み込みだ。

ただ、もっと相手を良く見た方がいい」


と、踏み込み過ぎてよろめくタランに、


「どうした、タラン。

俺は剣を抜いているよ。

君にスペルは使わない。

これは剣の勝負だ」


くそ、と叫んでタランはよろめき、屈んだ姿勢から、一瞬で鋭い突きを放った。


チェコは、カン、と青鋼の刃の無い方で剣を弾いて、ひらり、と闘牛のようにタランを交わした。


どて、と倒れたタランの首筋に、チェコの青鋼の尖端が、微かに触れる。


「チェコの勝ちだ!」


とレンヌが告げた。


と、


「痛っ!」


タランは、己の剣で、手のひらを切っていた。


「大怪我だ!」


とレンヌが叫ぶ。

が、チェコが皆を制して。


「ほら、見せてごらん…」


チェコの手には、楕円形の平べったい石が握られていた。


チェコが、指を走らせると、タランの傷は、血を止め、やがて傷跡一つ残さずに治癒された。


「まあ、それは賢者の石ではないですか!」


と叫ぶのは才女フロル・エネルだ。


「うん。

俺を育ててくれたのは腕のいい宮廷錬金術師だったからね。

このぐらいは簡単だよ」


治癒はとても高度な錬金術の技で、チェコがそうそう身に付くものでは無かったが。


興味の無いものには、全く知力を発揮しないチェコだが、山での経験が薬になったのか、ほぼ治癒の技だけはコクライノの錬金術師に習い、短期間に習得していた。


「驚いた、確かに今の傷は腱を切断していたはずだ。

タラン、指を動かしてみろ!」


レンヌに言われ、タランは指を動かすが、嘘のように自由に動く。


「驚いたぜ…。

七つの時に骨折してから曲がっていた中指まで、綺麗に治っちまっている…」


元々、緑のアースは治療に向いた色だった。

チェコはまた、黒のアースも持っており、これは魔物に対して有効な色、と町錬金術師に習った。

どうも、チェコとミカがちさと会ったのは、二人の黒のアースが引き合わせたのかも知れなかった。


「ああ、ごめん、余計なものまで治したかい?

素人錬金術でごめん…」


と、謝るチェコの手を、ガバッ、とタランは握り、


「ありがとうチェコ!

もう剣を握れなくなるところだった!

今日から俺は、お前の親友だぞ!」


タランはチェコの手をブンブン降った。


チェコは涼やかに笑っていたが、心の中では、


親友…!


という響きが、無数に反響し続けていた。




ハハハ、と生徒会副会長のナレンは笑い、


「どうだね会長。

今年のクラスは、既に英雄君のクラスになってしまったんじゃないかい?」


と福々しく笑った。


「そーだねぇ…」


と言いながら、美貌の生徒会長は、冷たい目で新入生を見つめていた。





チェコは、帰りの馬車の中で喜びのあまり発狂したように、夢中で老ヴィッギスに成功の報告をしていた。


パトスはプンプン怒っていたが、まあチェコにしては及第点だと誉めていた。


「それは良うございましたな、チェコお坊ちゃん。帰ってアンにも教えてやってください」


「あ、その前にさ、ヴィッギスさん。

ダウンタウンに行きたいんだ。

バトルシップって、有名なカードショップがあるはずなんだよ!」


チェコはおねだりするように老ヴィッギスの膝に手を置いたが。


「いけません!」


「へ?」


「良いですか、貴方は今や、天下のドリュグ聖学院の生徒なのですぞ!

ダウンタウンになど、とんでもない!

カードショップなら、三百年の伝統を誇る老舗、春風亭にお連れします!」


チェコは、まさか憧れのコクライノで、カードショップを禁止されるとは思っていなかった。


だが春風亭は、薄暗い威厳に満ちた老舗スペル店で、とりあえずチェコの欲しかったカードはなんでも揃っており、また世界中からカタログでありとあらゆるカードが取り寄せることが出来た。


チェコは山のようなカタログを手に、リコ村より広いラクサス家に戻った。

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