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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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犯罪者

ダリアは激怒して叫んだ。


「ホエイとは、ホエイ·ガルパの事か!

奴は、確かに優秀な錬金術師ではあるが、死体泥棒、詐欺、人身売買などに手を染めた犯罪者だぞ!

プロブァンヌに足を踏み入れたら、即刻、投獄の極悪犯だ!」


死体泥棒は、主に墓地から埋葬された死体を盗む。


その手の変質的な死体愛好家も存在するらしいが、ホエイはホムンクルス制作にのめり込むあまり、ホムンクルスの器として死体を利用した、という。


死体であっても医療錬金術で整形や防腐などは可能なため、目視でホムンクルスを確認する必要が無いのならばガラス瓶代わりに使うことも出来る。


動物の皮が防水性に優れているように、錬金術で縫い目も無く作られた人の皮は、充分にガラス瓶の代用になりうる。


詐欺や人身売買がなんのために行われたのか、研究資金集めなのか、もっと酸鼻を極めた目的のためなのかは完全には解明されなかったが、ホエイの、人体を使ったホムンクルスは、生きているのと変わらない内蔵を全て備えていた、という。


「じゃぁ、金髪は、もしかしたらハニモリー先生の人工骨の中じゃなくて、本物の骨に入っているかもしれないの?」


チェコは驚いた。


流石にそれは想像を絶していた。


ダリアは口をへの字に曲げ、


「義眼の奥にホムンクルスの目が見えたのなら、おそらく人工骨なのだろう。

死体のホムンクルスは、見えているのかは不明だが本物の眼球を持っていたからな」


金髪については、チェコにもわからない部分の方が多かった。


チェコはせいぜいぴよこを作ったぐらいだし、ダリアも専門外なのだ。


「だが、奴は元々、死体を使っていた奴だ。

人工骨を新たに組み入れたとして、完全に死体や人間の臓器を使わない、とは思えんな。

その金髪とやらは、おそらく奴の技術の全てを注ぎ込んでいるだろう」


確かに、元々の自分の得意を封印する理由はない。


と、同時に、金髪には魔法陣が使われ、腕もおそらく義手のはずだ。


「魔法陣の研究は奥深い。

ワシも余暇に研究は続けているが、ホエイがどれほど魔法陣を極めているのかはわからんな。

せめて、その金髪とやらの魔法陣が見られればな」


「しかし魔法も武器も弾き返す魔法陣があるのなら、それで鎧を作ったほうが安上がりかな?」


ウェンウェイは首をひねる。


「ところが、魔法陣というのは、作る人間の技量に影響されるのが最大の欠点でな。

複雑なものなら、一つ革鎧に刻むのにもそれなりの時間がかかる。

印刷する、という訳にはいかないのだ」


チェコも本で読んだ事だった。

名人上手の世界なのだ。


「だけどおかしくない?

ヴィギリスは、大量生産を目論んでるんでしょ?」


エズラが首をかしげる。


「よくできた魔法陣には及ばないが、魔法文字でも似たような効果は出せる。

量産するなら人工皮膚の裏に魔法文字でも書けば、使い捨ての兵士には充分だろう」


一段、トーンを落として、未来の君主にダリアは説明した。


大量生産されるホムンクルス兵士、という悪夢がチェコの頭に映像として浮かび上がった。


まどろむぴよこが、どす黒い悪夢に汚された気がした。


「ホムンクルスをそんな悪事に使っちゃ駄目だよ!」


チェコは珍しく怒っていた。


ダリアは。


「おそらく実用は不可能だろう。

ホエイはなるほど、強い戦闘ホムンクルスも作る技術は持っている。

が、お前も子供用とはいえホムンクルスを作ったなら判るはずだ。

誰にでも作れる程、単純な作業ではない。

ホエイか、それとも、そのハニモリーならある程度のものは作れるかもしれないが、どのみち量産には向かない」


チェコたちがホムンクルスについて語っている間、プーフは別の考えを巡らせていた。


「もしクメルと、そのハイロンとか言う貴族がゴブリンの陵墓を狙っているのなら、ここは、もう少し守りを固めたほうがいいな」


確かに、ただの貧民窟では、一憲兵のドリアンにもいいようにされてしまう。


「そこは本国からコクライノに書簡を送らせるかな」


ウェンウェイは、既に能士としてプロブァンヌ政界に足場を築いていた。

そしてエズラを預かるということは、マザコンのパトリシア候から引き離し、プロブァンヌの未来を託している、ということでもあった。


ウェンウェイに、プーフとダリア、それに臣下に落としたチェコがいるのなら、エズラさえ健康を回復すれば、充分にパトリシア候を廃することも可能だ。


「とりあえずエルフを集めます」


ヒヨウは、プーフに頷いた。


「そうしてくれ。

出来ればハイエルフクラスに守らせたい。

無論、本国からも兵を呼ぶ」


貧民窟が手厚く守られるのは、チェコにとっても家族が守られるように嬉しかった。


「皆様、よろしければそろそろ屋敷へ参りましょう」


老ヴィッキスが慇懃に誘った。


チェコは陵墓のゴブリンに守りを託す話をし、長髪の男クレアにも武器を揃えるよう、話し、何枚かの金貨を渡した。






「おお、これがホムンクルスか!」


エズラはぴよこが気に入ったようだ。


「なかなか上手く育てているな」


ダリアも、珍しくチェコを褒めた。


ホムンクルスには否定的だが、その育成には、ダリアがチェコに身につけてほしい、慎重な観察と繊細な管理が必要なのだ。




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