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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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ホエイのホムンクルス

書くペースが落ちていて申し訳ありません。

スペルランカーはこれから山場なので、魔法を考えたり、やがて来る戦乱の筋道を考えたりで、少しゆっくり進むと思うのですが、必ず完結しますのでよろしくお願いします。

「雨乞いをしているうちにさ。

なんか、黒い影が、奥の茂みに敵がいるのを教えてくれて…」


チェコは雨に濡れた頭も拭かずに、今起きた神秘を語った。


「で、雷の落とし方も教えてくれたんだよ!」


興奮して、嬉しそうに話すチェコだが、ダリアは顔を曇らせる。


チェコの出自が森の女王に近い血筋を持つもので、チェコ自身、それらに惹かれやすいのは、カゲヌリのちさや、鬼になる一歩手前で、力を持つ霊となったりぃんと、まるで友人のように付き合っているのでも判る。


だが、知識と計算により世界と向き合う錬金術師から見たら、それはとても危うい。


だからチェコには、厳しく、正しく事実を計測し、決して勘や怪しげなものの囁きで動かないように教え込んだのだが、どうもチェコもゆっくりとだが思春期を迎え、同時に不可知の力を感知する能力にも目覚めつつあるようだった。


学校で正しい知識を得れば、少しは変わるか、と考えたのだが、知識が身につくのは五年、六年ぐらいからだろう。

だがチェコの神秘への感受性は1年である今でも、どんどん膨らんできているようだ。


そういう不確かなものに頼るな、とダリアは言いたいが、ダリアが口を開く前にウェンウェイが、


「水の精霊かもしれないかな。

チェコは精霊に愛される性質かな」


褒めるように言う。


チェコからみたらダリアもウェンウェイも同じ老人だが、ウェンウェイはダリアより十年上だった。


何処か孫でもあやすようにチェコに甘いところがある。


ダリアは小言を諦めた。


やがて痛い目をみるときもあるはずだ。

その時に忠告したほうが良いだろう。


今は、曲がりなりにも成功していた。

こういうときに反対意見を述べても、反感が先立つものだ。


貧民窟の住人たちには、チェコはまるで愛すべき領主のように慕われ、チェコも嬉しいのだろう、あれこれと貧民窟の改革に着手していた。


裏庭でウサギと遊んでいた子供が、いつの間にか水の浄化を行い、畑を作り、魚を養殖して、かなりの成功を収めていた。


「チェコ、浄化の石を作れるな?」


ダリアが用心深く助言すると、ああ、と気が付き、川底の石を浄化の石に変性させた。


小川の石が浄化の石になれば、自ずと水は浄化され、飲水としても、作物を育むとしても、何ランクも質の高いものになる。


何よりも、やはり微かには漂っていた下水臭は、ほぼ消えた。


「おー、全然違うよ!」


チェコは単純に感動するが、ブーフは、


「重要なゴブリンの陵墓を下水の出口にするとはな!」


呆れ果てていた。


「これだけ臭いが治まれば、ハイロンも文句言わなくなるかもね」


「ハイロン?

誰だ、そりゃ?」


エズラが首を傾げた。

チェコはドリアンの事しか話していなかったのだ。


改めてハイロン準爵の密輸や、クメルの暗躍、ドルキバラの抗議などをチェコは語った。


「全く、お前ときたら話の筋道も立てられん!」


ダリアは怒ったが、ブーフは唸る。


「おいおい。

もしかするとクメルとドルキバラの狙いは、ゴブリンの陵墓なんじゃないか?

これを手に入れたら、奴ら、凍った領土から抜け出せる、とか、いかにも考えそうだぞ!」


魔王戦争でバピスト軍を領土に入れなかった精強なドルキバラ軍。

彼らが、魔王戦争の集結の決定的な要因である陵墓を手に入れたとしたら、どれだけ強くなるか想像もできない。


なぜ、こんな貧民窟をあれこれ目の敵にするのか、とチェコも首を傾げていたが、貧民窟の地下の正体にドルキバラとクメルが気づいていたのなら!


途方もない戦争になる予感も、一気に漂い始めていた。


「戦争って言えば、ヴィギリスのホムンクルスもコクライノにいて…」


チェコの、次から次へとでてくるトンデモナイ話に、ダリアたちも目を丸くした。


「そうか…。

ヴィギリスが影で手を引いていたのか…。

あそこは常に領土に目を光らせているからな…」


「え? ヴィギリスって、凄く遠くじゃないの?」


チェコは驚いたが、ウェンウェイが、


「この大地のはるか北にはリゥウ川という大河があり、その支流を辿ると遠吠え川に辿り着くかな。

ヴィギリスも船での交易は得意な国であり、はるか南国まで交易し、また北の海から河川でドルキバラにもやってくるかな。

特に彼の地の上質な毛皮は、寒いドルキバラが喉から手が出るほど欲しい宝物であり、また南から運ばれたお茶もドルキバラでは珍重されるかな」


地の果てのように思っていた国が、以外にも隣国と繋がっていることにチェコは驚いた。


「あ、家にもぴよこってホムンクルスがいるよ」


学校の授業で作ったものが一匹だけ生き残った、と語った。


「ホムンクルスか!

それは見てみたいな!」


エズラは驚くほど興味を持った。


「お前!

ホムンクルスなんぞに手を出したのか!」


ダリアはついに発火した。

同じ錬金術ではあるが、ホムンクルスは不毛で邪悪な命の弄び、とダリアは考えていた。


水から出せない生命が、やがて人間に役立つ知識になるとは考えられない。


医療錬金術も日進月歩であり、怪しげなホムンクルスなぞによらなくとも人工の手足や、一部内蔵も作れるようになっているのだ。


ホムンクルスは、だから不毛な、行き止まりの錬金術だった。


「えっと、ハニモリー先生って大学の先生がいて、人工骨の器の中にホムンクルスを作ることで、人間そっくりの、外を歩くホムンクルスを作れたんだよ。

これは、ダリア爺ちゃんの魔法陣の研究も使っていて、皮膚に魔法陣が書いてあって、剣も魔法も弾いて、とても強いんだよ!」


ダリアも言葉を失う。

何だその、従来のホムンクルスを凌駕した化け物は…。


「確か大学の図書館にハニモリー先生の論文はあるんだって。

ただ、ホムンクルスをウィギリスの援助で作ったのはホエイとか言う錬金術師らしいけど」


「ホエイだと!」


ダリアは叫ぶように怒鳴った。

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