互角
戦争の時、投石機はまろびとの村の地上にある建物をことごとく砕いた恐ろしい兵器だったが、まさか同じほどの破壊力があるとは思えない。
が、白側の召喚獣は例え一のダメージでも即死のようなものばかりだ。
その割に、白の少年は薄い笑みを浮かべていた。
ゲルニカなど、アースを必要としない召喚条件を持った天使や竜などがあるのかもしれない。
あるいは、投石機では農奴たちにはダメージは無いのだろうか?
そんな高級な能力を持っているとは、とても思えないが…?
「続いて白頭鷲!」
「四/四の飛行召喚獣だね」
これはチェコも売っているのを見たことがある。
緑の代表的な飛行召喚獣と言っても良かった。
「それでは殲滅」
白の少年がカードを切った。
白頭鷲は瞬時に消える。
「えっと、殲滅はゲームから除外されるから再び召喚することも、地獄の門とかで出すことも出来ないんだよね?」
チェコが思い出しながらいうとエズラは頷き、
「強いカードだ。だが、どんなに強くても五枚しかデッキには入らないけどな」
そこだけは公平なのだが、パワーは不公平この上なかった。
「チェコなら打ち消せばいいじゃないか。
サルにカウンター勝負で勝ったんだ。
緑使いとは違うだろ」
だが、チェコも最初は緑だけのスペルランカーだったので、理不尽さは痛感した。
「それじゃ最後にこれね」
赤毛の少女はニヤリと笑い、
「忘れられた地平線」
え、とチェコは思わず声を出したが、それはチェコだけではなく観戦者の多くが驚いていた。
おそらく青アースの魔石を持っているのか、毛皮の少女はすんなり万能エンチャントを場に張った。
白の少年は、計るように少女を見ていたが、殲滅は使わなかった。
「あれ、エンチャントやアイテムでも壊せるんだよね?」
チェコの問いにエズラは、
「ああ。
だが、所詮緑使いが無理して張っただけ、と思ってるんだろう。
一度は止められても、何度も使える訳じゃない、とね」
なるほど。
確かに忘れられた地平線は、始動にも青を必要もするエンチャントなので、なかなか緑使いが僅かな青アースでは自在に力を発揮できる訳ではない。
少女は満足げにターンを終わった。
「とはいえ、やりにくくなるね」
チェコは言うが、エズラは。
「殲滅は全てのスペルを破壊するからな。
いかに忘れられた地平線でも限度がある」
そうだ。
召喚獣を破壊するスペルならエンチャントに標的を変えれば消えてしまうが、殲滅なら、それを破壊してしまうのだ。
「そうだね。
あまり、意味がないかも…」
「まあ、五枚しかないのだから数で上回れば大きな意味が出てくるのだが、所詮緑使いだからな」
無論緑にもチェコが持ってるようなリスやウサギもいるのだが、好んでトーナメントデッキにはいれないだろう。
緑は大型獣を揃え、押し潰していくイメージが強い。
現に白頭鷲は即座にやられていた。
「それでは僕は、全ての白の召喚獣をプラス一する白の守りを場に出す」
豪華な衣服の少年はエンチャントを張り、農奴たちが守備、攻撃共にプラス一になった。
「更に、王国の鎧、白の守りによって力を得ている全ての召喚獣は王国の鎧を身に付け、守備力がプラス二される」
あっ、と言う間に少年の召喚獣はそこそこの軍団に成長した。
「そして風車」
チェコはまたも叫んでいた。
どちらも青をまぶしていた!
赤毛の少女は少し考えていたが、スルーした。
にっ、と白の少年は笑い、
「忘れられた地平線…」
チェコは思い知った。
この夏の戦いは、多分、どのデッキも風車と忘れられた地平線は入って来るのだろう…。
「スペル無効化!」
赤毛の少女が、後ろで縛ったアライグマの尾のようなポニーテールを揺らし、叫んでいた。
そうだ。
青を持っているなら、当然、これは入れている。
一アースで使える唯一のカウンタースペルなのだから。
白の少年は、軽く舌打ちしただけだった。
カウンターを入れてないのか、まだ温存するつもりなのか?
「それでは奴隷商人を召喚」
「ん、なんだろ?」
チェコはあまり白を研究していなかった。
「三/三の召喚獣だ。
タップで奴隷トークンを発生させる」
エズラが教えてくれた。
どうやら多産の女王の白バージョンらしい。
弱いし、一体だがトークン召喚獣を生める。
そしてエンチャント効果で本来一/一のトークンも即座にニ/四とバカにならないサイズに育った。
「これはめんどくさいね…」
チェコが言うと、エズラは。
「大量に召喚獣を張るデッキらしいな」
過去にも沢山の召喚獣を出して、アースにしたり、
生け贄にして何かを召喚するなど、する戦略は色々あった。
だが天使という切り札を持つ白にしては珍しい、といえる。
緑や青に多い戦法だ。
しかし、白の少年と緑の少女は、今のところ互角の戦いを見せていた。




