白と緑
「もっと手こずると思ったけど…」
チェコはエズラの側に戻って言うと、
「ちゃんと相手の使ったカードを覚えておく方がいいな。
あいつは、五枚のスペル無効化を使い切っていた。
チェコは、結果、上手く戦えてたんだ」
とエズラが教えた。
「その前のターンで風車を撃退していただろ。
あれが堪えたのさ。
チェコは一番いいタイミングで敵を攻撃したんだ」
なるほど、だからダメージ転移を打ち消せなかったのか…。
「俺は長くなると不利になるから、打ち消されるのを覚悟で仕掛けたんだよ」
と苦しい手の内を語った。
「結果、その積極性が勝利につながったんだ。
打消しを怖がっていたら、奴の思うツボだったろう」
だがダリアは、
「フン、そんな計算もできんで試合に臨むとはな。
ちゃんと記録しろ、と教えたろう!」
確かにこれからの戦いでは、いかに相手のカードを覚えるか、も勝敗を分けそうだ。
舞台では、次の戦いが始まっていた。
白を使う少年と、緑を使う少女の対戦のようだ。
白の少年は司祭のような白衣を着、白い先の尖った頭巾をかぶっている。
白衣や頭巾には金の縁取りがあり、更に輝く金のボタンがついていた。
全体的に子供が身に付けるには、豪華すぎる着衣だった。
指にも、透明な宝石を幾つかつけていた。
一方、少女は獣の毛皮らしきものを身にまとっていた。
豊満な胸をヒョウの毛皮で覆い、下腹部は熊の毛皮だろうか、長い獣毛の毛皮でおおっている。
足のブーツは、爬虫類の革で出来ていた。
「男の方は貴族の師弟のうち、教会に入ったものだろうな」
エズラが教えた。
「え、貴族なのに教会に入るの?」
チェコは驚いた。
貴族は、優雅に何の苦労もせずに暮らしていると思っていたのだ。
「貴族だって何人も子供がいれば、あぶれる者も出てくる。
貴族の収入も限られているしな。
だが教会で出世すれば王にも対等に話せるような権力を持つことも出きる。
特に法王ともなれば、王より上の立場になる。
だから、あぶれた貴族の師弟のうち、優秀なものは教会に入り、出世を目論むんだ」
「へー、貴族も大変なんだ」
「そうでもないさ。
見ての通り、実家から資金援助はたっぷり受けているし、同時にその教会の司祭たちにもワイロが回るので、彼らは実家で肩身の狭い思いをするよりは、ずっと優雅に暮らせるのさ。
この大会に出たのも、まあ一種の箔付だな。
自在にスペルを使いこなす英才、という訳だ」
「女の子の方は、なんか山の民もしないような衣服だね」
少女は真っ赤な髪の毛を切らずに、頭の後ろで自らの髪で縛っていた。
あまり手入れをしていないので、動物の尾のようだ。
「山には山民と呼ばれる、狩りをしながら山の中を移動して暮らす者がいる。
どうも彼女はそこの出のようだ」
ヒヨウが教えた。
「へぇー、まだそんな人たちもいたのか!
あの戦争の時はいなかったよね?」
「山民を味方につけるのは難しいだろうな。
交易はするが、なにしろ定住してないからな」
なるほど、日々移動するのでは、パーフェクトソルジャーも山の戦争も関係ないのかもしれない。
赤竜山が戦いになったら黒龍山に移動すれば良いわけだ。
「エルフとは仲良くしてるの?」
「まあな。
お互い山の民、助け合わねば命に関わることもあるからな。
が、彼らは基本、他の部族に関わらないように移動生活をしている」
「でも、そんな人が、何で大会に出てるんだろ?」
しかも大都会コクライノの大会だ。
「おそらく、定期的にこの辺にも交易に来るんだろうな。
彼らは山民とは言うが、平地でテント暮らしをすることもある。
主に河原に夜営をして暮らすのだ。
そのときは川魚を採って干物にする」
そういえば、たまにチェコも、河原に見慣れない集団がいることがあるのを見た記憶はあった。
話しているうちに、白の少年がコインを投げ、先攻を選んだ。
チェコは白のデッキは始めて見る。
興味深く、観戦した。
「では私は、農奴を召喚」
一/一のボロボロの衣服のくたびれた男が、現れた。
「そして奴隷戦士の召喚」
今度はくたびれた鎧を着た二/二の中年が召喚される。
「なんか、すごい地味だね…」
白に過剰に警戒していたチェコは、拍子抜けする。
「白で強い召喚獣は限られている。
だが、あの奴隷たちも召喚の布石だ」
エズラは言うが、チェコには意味は判らなかった。
白の少年は、他に奴隷、僧兵、鷹匠を召喚してターンを終えた。
全て、一/一や一/二の召喚獣だ。
「ほな、あたしの番やね」
少女は明るく言うと、
「山黒豹!」
四/四の獣を召喚した。
「あれ、あんなの売ってたかな?」
チェコは緑の召喚獣はよく調べているはずだった。
「おそらく、お前と同じ、トレースした自分だけの召喚獣だろうな」
と、ヒヨウ。
「そして投石機」
それはチェコが戦争の時、壊しまくった、あの投石機のように見えた。




