二回戦
銀色に近い金髪の少年は、薄く笑って時限爆弾にカウンターを乗せた。
カウンターを十にするのは、チェコのデッキなら容易な事だ。
「ウサギの巣穴」
チェコはエンチャントを展開した。
「ふーん、珍しいエンチャントだね?」
金髪の少年が聞いた。
「うん、あんまり売れなかったみたい…」
チェコはキャサリーンを思い出して、笑った。
「ウサギとウサギの巣穴か…。
コンボと言うほどのものでもないな」
相変わらず冷笑する金髪の少年。
服装はスリーピースの、仕立ての良いスーツを着ており、首には豪華な光沢のあるグリーンのネッカチーフを巻いて、首元の留め具は猫の手ほどあるルビーを金の繊細な細工で装飾していた。
そのルビーだけでも、リコ村なら畑つきの家が買えそうな品だ。
あれ、そういえば随分金持ちそうだな、とチェコは少年の靴を見る。
老ヴィッキスいわく、靴の仕立てで金持ちの程度が判るそうだ。
宝石のように艶やかに光る黒の革靴は、おそらく、かなりの高級品に見え、しかも足にぴったりとフィットしていた。
子供の足などすぐ大きくなるのに、その度に採寸し、作っているようだ。
かなり大きな靴工房でなければ不可能な仕事であり、当然、それだけ余分に費用もかかる。
おそらく貴族、しかも裕福な大貴族の子弟のようだ。
だけど、うちの学校の生徒じゃないよなぁ?
王族などなら、家庭教師がつく、という場合もある。
そのランクの貴族だろうか?
「召喚、声マネキ」
実はウサギは飛行が付加してあり、声マネキも忘れられた地平線が付加されている。
その辺に気づかれないうちに、チェコは自分のデッキが動けるようにしたかった。
「また、変わった召喚獣ばかり使うんだな」
金髪の少年は鷹揚に笑っていた。
しかし、時限爆弾のカウンターはしっかり動いている。
「ああ。
二つとも、俺が自分でトレースしたんだ」
トレースした召喚獣を使うことは、珍しい事ではあったが、認められていた。
かくゆう猛犬ハヌートなども、愛犬をデュエルに使いたい、と言う話から生まれたカードだった。
金髪の少年は、カウンターが増えるだけで大喜びのようだった。
防御には再生召喚獣を出しており、声マネキなど問題にもならない。
カウンターさえ動けば、あとは些少なこと、と考えている様子だった。
風車を出していることからして、大量の無効化カードを備えているのだろうか?
どのみち、チェコの思惑のように大量の召喚獣を出してエルミターレの岩石でアースを受けとるのは、時限爆弾をなんとかした後の方が良さそうだった。
蛇とウサギ、声マネキなら捕食と月齢のコンボも使える。
ただし、それは相手も同じことで、時限爆弾を五枚入れて、あくまでも勝負カードにこだわるのか、何パターンかの戦いようを持っているのかは、不明だ。
無論マイヤーメーカーのように火にこだわるランカーもいれば、相手のデッキを読みながら対応する無効化カードを多量に入れたデッキに組む場合もある。
チェコは、その折半といった形だが、そもそも三つのアースが使えるので、そうなった、と言う感じだった。
問題は、金髪の少年のアースが青だけなのか、他の色が入っているのか、で変わりそうだ。
青だけならば、おおよその戦い方はチェコにも判るつもりだった。
「最後にウサギをもう一匹出して、以上」
三アースほど残してはいるが、デッキの形は作った気がする。
金髪の少年のデッキが、主力が時限爆弾ならば、必ず大量に召喚獣を出すはずだった。
少年は異様なほどニッコリ笑い、
「それじゃあ、幻影の魔道師」
それはチェコの知らないカードだった。
「最新鋭のカードなのである。
自分、または特定の自分の召喚獣をゲームから除外させ、また戻す能力を持つ」
死亡復活でカウンターを乗せる以外にも、この魔道師が暗躍すればカウンターが動くのなら、十ダメージぐらいはすぐ溜まりそうだ。
三アースしか残さなかったのは失敗だったかもしれない。
しかし、見過ごす訳にはいかなかった。
「スペル無効化」
まずパトスの青一アースで打てる消去スペルで厄介な幻影の魔道師を落とした。
白金の髪の少年は、微かに眉を動かしたが、
「なかなか勉強しているようだな。
このカードは知らないと思っていた」
と、不意にチェコを褒めた。
そういえば彼は、ずっと余裕ある態度を見せていて、あまりランカーらしくなかった。
急に褒められたチェコは面食らうが、
「まー、俺は真剣にランカーになりたいからね」
と微笑む。
「ランカーね。
君は貴族なんじゃ無いのか?」
「え、どうして判った?」
少年はクスリと笑い。
「そんな服を来ていれば、およそ見当がつくよ」
白金の髪の少年と比べれば地味だが、チェコも仕立ての良い服は着ていた。
老ヴィッキスは下町のバトルシップに出入りすることは反対していたが、ランカーの大会に出ることには反対はしていなかったので、そこそこ無難な服を選んでチェコに着せていたのだ。
やはり、平服を着たかったな、とチェコは思ったが、まあ老ヴィッキスの意向を無視するわけにはいかなかった。




