第二戦
一ターンキルだ!
バトルシップが沸き返った!
前からルーンやピットには使っていた手なのだが、ゴーレムデッキの子供やゴブリンデッキの奴には、チェコは意図的に使用を避けてきた。
なので、チェコの黄金虫の一ターンキルを初めて見た子供たちも多かったのだ。
ランカーは、五十枚のスペルをもって戦いに挑むが、一ターンに五十枚使うアースは、さすがのプルートゥにもない。
だから一ターンで雌雄を決してしまったら、さすがに対応が効かない。
とはいえ、それはチェコが相手より多くのアースを持っている場合に限る。
マイヤーメーカー相手に、さすがにチェコも一ターンキルは不可能だ。
ただし、一ターンキル出来る能力も持っている、と対戦相手に思わせるのは、相手が頭の隅で思うだけでも有効はある。
記録係がチェコの勝利を書き記した。
こうして少しづつランクが上がっていくんだな…。
ほぼ同じ時期に、ヴァルダヴァ国内だけでも何十の会場でデュエルが行われているのだろう?
チェコも、その何十の会場に集う何百人かのランカーの一人だった。
戦いはすぐに終わったので、チェコはしばらく待つのかと思ったが、ちょうど終わった相手がいる、と言うので、テーブルについた。
相手は、変わった目の色をした少年だった。
赤のような、青のような、深い色合い。
少し年下かもしれないが、チェコも小柄だが、彼もそうなだけかもしれない。
「フフフ、一ターンキルをしたんだって?
黄金虫と二つ頭、昔からある平凡な手だね」
意外と低い声だ。
見た目より歳は上なのかもしれない。
「ああ。
まあ、あれは遊びみたいなもんだよ」
チェコも何気なく答えた。
「遊びで、一番始めに使わなければ役に立たない屑カードをデッキに入れるの?」
黄金虫は、他に場に召喚獣がいたり、いないにしても、前に出ていた場合には使えない。
だから、一ターンキルが決まれば凄いが、それ以外は役に立たないカードなのだ。
「決まれば面白いし、決まらなくても相手の動きが判る。
それだけでも充分な働きと思うよ」
なんとか阻止せざるを得ない状況を作れるのだから、少なくとも何らかのカードは消費するはずなのだ。
「ま、僕には通じないけどね」
少年は、肩すれすれまで伸ばしたストレートの白髪に近い金髪をサラリと掻き上げ、笑った。
チェコも、自分よりアースの多い奴には通用しないことぐらいは判っているので、曖昧に笑った。
コインを投げると、少年の先攻だ。
「じゃあ、まず君の黄金虫を潰させてもらうよ。
召喚、再生する蛇…」
(再生する蛇は、三/三の青の召喚獣である。
再生を持つ厄介な相手だが、毒はない)
エクメルが囁いた。
最初に召喚出来なかったので黄金虫は使用不能になる。
青使い、と言うことは、例の風車デッキだろうか?
とチェコは考えた。
「続いて…」
少年は微笑み。
「時限爆弾」
ん、なんだったかな?
と、チェコは考えた。
前に見た気はするが、覚えてない。
(召喚獣が出たときと死んだとき、カウンターが乗るのだ。
タップで、任意のプレイヤーか召喚獣に、乗ったカウンター分のダメージを与える)
チェコも思い出した。
パトスやりーんとカタログを見ていて、強いな、と思ったカードだ。
何より、自分も敵もなく、場にでた全ての召喚獣が対象なので、数ターンで致死量のカウンターが乗る可能性がある。
当然、対戦相手は、自分が対象なのは判っているから、手を控えたり、打ち消したりする。
余分にカードを使わせる効果もある訳だ。
「そして、冥府の使い」
(タップで、死んだ召喚獣を再度、場に出せる、二/六の召喚獣である)
二/六か…。
さすがに簡単には除去できないサイズであり、場に出すと、ブロック要員として存在感を発揮し、タップで、召喚獣を再生させる。
時限爆弾とは、かなり相性のいい召喚獣だ。
「スペル無効化」
チェコは召喚を阻止した。
この二枚はコンボとして機能してしまう。
「それじゃあ、水車」
チェコは迷ったが、水車は場に出した。
アースが増えるのは厄介だが、水車デッキとなると、他に防がなければならないカードがある。
無論、忘れられた地平線だ。
これを張られたら手の打ちようが無くなるので、さすがに大量に打ち消しスペルを備えているわけではないチェコは、全てを落とす訳にはいかない。
「以上」
少年は、髪を揺すりながら、宣言した。
しかし、時限爆弾をメインにするなら、なぜ再生持ちを出したのだろう?
最低限のブロッカーか?
しかし、それにしては飛行に対する防御は皆無だ。
「召喚、ウサギ」
チェコは飛行ウサギを召喚した。
「ウサギ?
聞かないね?」
「俺がトレースしたんだ」
チェコは教えた。
「ふーん、臆病なウサギをトレースするなんて、君って変人だね」
その頃のチェコにはウサギとパトス以外、友達はなかったのだが。
「そんなに弱くないよ」
とチェコは余裕で笑う。




