デュエル大会の始まり
二週間後、バトルシップで予選大会が始まった。
これはヴァルダヴァ王国各地で行われる予選の一つなので、特に挨拶もなく、一時になると共に、ガチャガチャと対戦表を見て机に向かい、そこにいる相手と戦う、という静かな、というよりはあっけない立ち上がりだった。
「あれ!
俺の名前がない!」
チェコは焦った。
参加希望は出しているはずで、誰でも隔たりなく戦えるはずなのだ。
「…馬鹿チェコ、お前は既に…ランキングに入っている。
今、戦っているのは、まだランクのない子供たちだけ…」
パトスが教えた。
対戦表を見ると、チェコは三戦あとにバリという奴と七番テーブルで戦うと決まっていた。
この二週間、ハイロン側に動きはなかった。
と、同時にピットも見かけない。
貧民窟は順調に開発が進んでおり、外からの見た目はそのままだが、山あいに段々畑が作られ、粟を栽培していた。
他にも、北面で作れる芋などの丈夫な野菜は、何が適しているのか調べる意味を込めて、少しづつ畑を作っている。
また、地下の池と地上の池が自然に繋がったため、池を拡大し、段々畑の途中で幾つか、綺麗になった水を使って川魚を繁殖させた。
チェコとしては、養豚や牧畜もしたいのだが、それなりに臭いと鳴き声が出るため、ハイロンに見つからずにするのは難しい。
ただし、野生のウズラを捕獲、繁殖はし始めていた。
とはいえ、入り口はドリアンに見張られ、奥はハイロンに気づかれないよう注意しながらの作業のため、工事の進行は遅い。
なのでチェコは、地下の下水道に、ところどころ汚水処理用の池を作る作業に力を注いでいた。
水路の横に水を引き込み、池にしばらく水を貯めることで、汚れを沈殿させるのだ。
下水が何ヵ所かで浄化されれば、水も澄んで噛みつきカエルなどの生物も見やすくなり、定期的な清掃などを行えるようにもなる。
すると、コクライノの丘のどこかにある謎の宝も発見しやすくなるはずだった。
デュエルは、おおむねゴーレムデッキかゴブリンデッキの戦いだったが、他に風車デッキとも呼べそうなデッキスタイルのものも現れていた。
常に毎ターン一アースの青を出す風車が幾つかあれば、青のアースが少なくとも青デッキを使える。
防御に忘れられた地平線を張れば、ゴブリンやゴーレムを押さえながら、
水責め 魚以外の召喚獣を行動不能にする。
とか、
洪水 一ターン、全てのアースを出なくする。
などで相手の動きを止め、魚で仕留めるデッキのようだ。
ただ、今のところランク外の選手の戦いなので、どのデッキも甲乙つけがたい感じだった。
風車を張ってるうちにゴーレムに襲われたり、ゴブリンで優勢に戦っている、と思うと、一枚しかない弓ゴブリンがやられると、ガタガタとゴーレムに潰されたり、し烈な戦いが続いた。
ルーンは、チェコやパックと戦っていたため、三つのデッキを組み合わせたデッキを操り、勝ち星を重ねていた。
「どのみち、全てのデッキのキーカードは忘れられた地平線と風車、ゴブリンだから、別に組み合わせても良い訳だ」
とチェコは、上から目線で感心する。
やがてチェコは、七番テーブルでバリと戦う番になった。
バリは、三、四年生ぐらいの人で、黒い髪の毛で片眼が隠れていた。
コインを投げるとチェコの先行になった。
チェコは早速、黄金虫を召喚した。
「ゴーレム化!」
バリはゴーレムデッキらしい。
「スペル無効化」
チェコが素早く阻止するが、
「ゴーレム化」
二発目のカードを切ってきた。
スペル無効化は五枚入っているが、多分バリも岩のゴーレムは五枚入っているだろう。
バリに浮かんでいるアースは五つだが、彼はゴーレム化を使い尽くしても、まだ岩のゴーレムがおそらく五枚残っている。
むろんチェコも打消し呪文は一種類ではないのだが、初手を諦め相手のデッキの妨害に方向転換するか、あくまでも黄金虫にこだわるか、考えどころだった。
「闇の消去」
敵に、打ち消しは青だけではない、と悟らせた方が有利、とチェコは考えた。
バリは、
「火球!」
赤で対抗してきた。
赤使いとなると、打ち消しの使用度は上がりそうだ。
召喚獣と違い、対抗出来る召喚獣では押さえられないからだ。
「打ち消し」
パトスも使っていた、青の二つ目の打ち消し呪文だ。
二アースかかるのだが、一アースは何色でも良いので、チェコも使いやすい。
うぐっ…、とバリは黄金虫を睨んだ。
だが次の手はなさそうなので、チェコは、
「黄金虫で攻撃」
バリは無言だ。
「二つ頭」
チェコは一ターンキルを狙った。
「ゴーレム化」
バリは再び黄金虫のゴーレム化を狙った。
「闇の消去」
チェコは相手のスペルを打ち落とし、黄金虫でアタックした。
バリは一ターンで敗退した。




