スペルランカー
金髪の剣を、チェコは左耳の上の髪の毛をバサリと持っていかれながらも、避けた。
カーマとの毎日の特訓と、この前の武道会での戦闘経験が、チェコの血肉になっていた。
金髪の剣は、まるでナイフのように細かったが、パワーは物凄く、チェコの背後の、デュエル用のテーブルを斜めに切断した。
パックがガタンと立ち上がるが、
「パック、これは金髪と俺の決闘なんだ!」
チェコは青鋼を抜きながら、叫んだ。
「馬鹿め、ラクサス、俺は筋力を二倍に増強しているんだ!
貴様の剣など砕いてくれる!」
金髪は楽しげに叫び、もう片手の剣を突き立てた。
剣は正確にチェコの心臓を撃ち抜く。
だがチェコは、カーマにもらったガントレットを右手につけていた。
カン、と金髪の剣を横に弾き、チェコは左手に持ち変えた青鋼を、金髪に突き出した。
金髪は、なんと二メートル近く飛び上がり、片手を天井に着けて、素早くチェコの真横に移動した。
「凄いな!」
こんな剣技、見たことがない。
「ふん、俺には他愛の無いこと!」
言いながらも、金髪は剣を横に振り抜いた。
チェコは避けようと背後に飛んだが、机に背中がぶつかった。
「しまっ…」
一気に冷や汗が吹き出すが、机ごと横に倒れた。
吹き飛んだ机を、金髪は一気に切断する。
凄い腕力だった。
机は、斜めに切られたため、足が二本と、板材が二つに立ちきられ、空中で踊った。
チェコは横に転がり、素早く立ち上がった。
お客たちは、机や椅子をひっくり返しながら外へと逃げていく。
パックとヒヨウは距離を取って、戦いを見守った。
「さすがに強いね!」
チェコは、本人は気がつかないまま、笑っていた。
「チョロチョロ逃げる」
金髪も、なにげに楽しそうだ。
だが、これは殺し合いだった。
チェコは、金髪を傷つけたくなかったが…。
何より人工骨を割ってしまえば、金髪は空気に溶けてしまう。
そんなのは嫌だった。
チェコは、なんとか金髪をハニモニー先生に見せたかった。
そうすれば、悪い錬金術師の呪縛から金髪を救えるはずだ。
そうすれば、おそらくホムンクルス兵の量産計画も頓挫するだろうし、全てがうまく行く、と考えた。
だが、そんなことを口にすれば、金髪はますます怒ってチェコを殺しに来る。
スペルも通用せず、腕力も人間離れした金髪が、怒り狂ったら、おそらく今のチェコでは太刀打ちできない。
今、金髪は、無論殺しには来ていたが、薄く笑って上機嫌だ。
少し遊ぶつもりもあるだろう、とチェコは感じた。
この気分を持続させて、うまく捕まえられれば、チェコの勝ちだ。
「それ!」
金髪は誘うように右手の剣で突きを放った。
さっきガントレットで剣を弾いたのは見ている。
何か思惑を持った動きだった。
思ったが、あえて同じようにガントレットで受けに行く。
鋭い突きが、瞬間、ガントレットの側面を叩いた。
チェコは、金髪の強力な腕力で、横に飛ばされた。
剣の刃先で引っ掻けたらしい。
予想外の戦い方だった。
チェコは机とぶつかり、上に弾けた。
瞬間、机を蹴ったのだ。
チェコのすぐ下を、剣が唸りを上げて、横切った。
金髪は、先の剣でチェコを空中に飛ばして、浮いている間に切るつもりだったのだ。
ちょっと常人には思い付かない剣技だった。
チェコは体をひねり、奥の机の上に立った。
金髪は、進路を塞ぐ幾つかの机を、ケーキのように切断しながら、チェコに向かってきた。
どう戦う?
頭を悩ませながら、チェコはとりあえず机の上を飛んで逃げた。
金髪を捕獲するためには、ヒヨウやパック、ジモンなどとも協力し、金髪を殺さないようにする必要があった。
が、声に出せば、当然、金髪にも聞こえてしまう…。
ちさちゃん…。
チェコは囁いた。
ちさにヒヨウに伝えてもらい、ヒヨウからパックやジモンに話してもらう作戦だ。
「、、チェコ、相手は数段、強いわよ、、、」
ちさは心配した。
「強いし、戦い方も普通じゃない。
だけど、悪い奴じゃ無いんだよ。
俺の鳥の事も心配してくれた」
ちさは一瞬、不安げにチェコを見上げたが、ピョン、とチェコの肩から飛び降りた。
「ほら小僧!
何、逃げ回っているんだ!
決闘だぞ!」
「むろん、判っている!
かかってこい、泣き面を見せてやる!」
チェコは叫び、机を飛んでいく。
が、金髪は早い。
どんどん机を切りながらチェコに迫る。
しかしチェコも、何か反撃を考えないと、ただ逃げるだけでは、金髪に飽きられる可能性があった。
戦いは、瞬間瞬間の細かい心の動きで左右されることをチェコは学んでいた。
どこかで仕掛けないといけない。
チェコは机を蹴って金髪に飛ばした。
金髪は、簡単に机を粉砕するが、その破片に紛れて…。
チェコは青鋼を金髪に振り下ろした。




