出現
森林のこだまは、森地形ではないときは、樹木トークン三/三を三体出し、普通に次ターンから動くらしい。
だから森地形にするのがミソなのだが、森地形は火に弱い。
地形カードは全て、長所と短所が明確だった。
地形カードは破壊できないが、上書きできる。
水地形になれば魚系の召喚獣はプラス二/二の強さになるが、雷などのカードに弱くなるため、特に使う者はない。
誰も使わない地形カードだから、その状況で出せば圧倒的に強いのだが、水地形になった途端、森林のこだまは、三/三に縮み、二体は消滅する。
本気で地形戦を挑むのなら、相手も五十枚の手札から五枚は地形にする必要があるため、今の岩のゴーレム対策にも意味はあるのかもしれない。
チェコは興奮気味に、制服に着替えながらヒヨウに語るが、
「二つの地形を使ったらどうする?
相手は倍の地形で圧倒できる」
ん、とチェコは考えるが、
「でも、手札がその分、減るから有利とも言えないよね?」
「だが、一ターンキルが可能なら、相手の地形を尽きさせてから仕掛ける事もできる」
「よほど精巧なデッキを組めたら、それも可能かも!」
チェコは盛り上がるが、パトスが。
「…馬鹿め…。
一枚地形カードを入れておけば防げる…」
森林のこだまであれば、攻撃にかかったところで地形カードを変えて、火の攻撃をすれば、逆に瞬殺される訳だ。
おー、なるほどー。
とチェコも納得したらしいが、
「逆に俺も一枚ぐらいなら地形カード、持てるかも?」
と、まだ未練はある様子だった。
翌日、チェコは鳥を見て歓声を上げた。
全ての瓶の小鳥が、動き、瞬きし、命を育んでいた。
「チェコ君、判っていると思うけど、その子達はもうすぐ…」
パーカー先生は言葉を濁す。
次の授業で観察を終えたら、さすがに生徒はその先は見ない。
アルバイトをしているチェコが、悲しい仕事をすることになる。
「先生、ハニモリー先生の骨の器に移し変える、とかは無理なんですか?」
パーカー先生は悲しそうな顔をして。
「そんなもの、いくらかかると思ってるんだい。
簡単に作れるものなら先生だってそうしているに決まってるだろ?」
確かに。
ハニモリー先生は、チェコと同じようにホムンクルスに愛情を感じている。
だが、骨の器に入れてやることはできないのだ。
「骨の器って、どうやって作るんだろう?」
労力だけで済むものなら、チェコは少しぐらい寝なくても平気だと思った。
「ハニモニー先生の論文は、魔法図書館で閲覧は出来るよ。
ただ、本当に骨ほど軽くて強いものを作るとなると、まず骨のホムンクルスを作り上げ、大気に晒さずに人口筋肉や皮膚で密封する必要がある」
「え、今からでは…?」
「そうだ。
間に合わないんだよ。
無論、専用の器具の製作から始めなければならないから莫大な費用もかかる」
それはとても片手間で出来るような作業でもなく、チェコ程度の財力でなんとか出来るものでも無いようだった。
鳥のホムンクルスたちは、チェコの目の前で、くるり、と体を捻ったり、夢見るように瞬きをしていた。
それは、決して目覚めない夢だった。
チェコは肩が重くなるような喪失感を、今から感じていた。
午後の授業もそろそろ終わろうという頃、パトスがチェコの手を噛んだ。
ん、とパトスを見るチェコに、パトスは鼻先で窓を指した。
窓の片隅にジモンがいた。
チェコはトイレに立ち、外に出た。
かなり厳重な警備がされているはずの学園だが、ジモンの足は止められなかったようだ。
「例の金髪の餓鬼がバトルシップに現れた。
パックの奴はひきつっているが、今のところ人の目もあるし、特に接触はない」
とはいえ、永遠にバトルシップにいる、という訳にもいかない。
多分、修理の終わった戦闘ホムンクルスは、完璧に前より強くなっているはずだ。
「学校が終わるまで待てるかな?」
「判らんな。
まず、バトルシップで仕掛けてくることはないとは思うが、向こうが前と同じ三人とも限らん」
確かに…。
もっと戦闘員を増やすのが、むしろ常道と言える。
「パトス、貧民窟に行って何人か助太刀を頼んでみて」
パトスは返事もせずに走り出した。
ああ見えても力も強いし走る速度も子犬ではない。
「俺はヒヨウにも言って、出来るだけ早くバトルシップに向かうよ!」
忙しくジモンと別れて、ヒヨウ、キャサリーンにチェコは相談した。
「呼べるエルフは集めよう」
ヒヨウも席を外す。
「チェコ君。
あなたは確かに武道大会では優秀な成績を残したけど、大人と真っ向勝負をするのは、まだ無理よ。
本気の戦いなら、絶対、正面から戦ったら駄目よ」
キャサリーンは忠告し、
「信頼できる憲兵を集めるわ。
みながドリアンのようじゃないから」
と言い、チェコは早退させてもらった。




