地形カード
学校に戻ると、もう日課になっている鳥のホムンクルスを保温室に見に行った。
まだ、鳥ともなんとも言えない頭の巨大なものが、瓶の中で、時折、うごめく。
命だった。
明らかに、この鳥たちは、瓶からは出られないが、命を宿していた…。
しばらく熱心に観察してから、チェコは教室に戻った。
「よー。
商売しすぎて怒られたか?」
アドスが薄笑いを浮かべて聞いていた。
チェコは昨日の子犬の怪我の事を話した。
クラスには、あの時ラクサク家に子犬を連れてきた者も含まれていたので、
「じゃあ、犬は大丈夫なんだな?」
と聞き、安心した。
「だけど、体の中でホムンクルスになるなんて、怖いね」
レンヌは青ざめる。
チェコは頷きながらも、生体内にホムンクルスを作れば生きられるなら、瓶より可能性があるのでは…、と考え、慌てて自分の夢想を否定した。
命をもてあそぶなど許されない。
ただ、瓶で作るものも命と呼べるのなら、研究そのものが命のもてあそび、という事になる。
例えば、犬の首が二つになるのなら、死にそうな犬を選んでつけることは不可能だろうか?
同じように腕や足が生えるなら、移植可能なのではないか?
無論、パーカー先生の剣幕からみて、駄目な事なのだろう、とはチェコにも判るのだが、つい夢想してしまう。
とはいえ、チェコはいつまでも夢想していられるほど暇ではなかった。
午後は選抜メンバーは剣術の特訓であり、チェコは基礎体力の向上をメインにした、走ったり跳んだり、の練習をみっちり行った。
夕方、解放されたチェコは、バトルシップに向かった。
しばらくバトルを見ていない。
大会もあと数週間というのに、これではスペルランカーどころではなかった。
今あるランクも失ってしまう。
ランカーは、ランクでお金をもらえるわけではない。
そのランクを売りにして、パックたちのように戦ったり、用心棒などをして、お金を稼ぐのだ。
ランクを上げるのは、無論、本当の決闘の場合もあるが、多くはトーナメントで勝ち残る事で上がっていく。
トーナメントに不参加でもすぐにはランクに響かないかもしれないが、トーナメントごとにランクは変動するので、しばらくなにもしなければ、少しづつランクは下がっていく。
トップクラスの名を持つランカーは、ほとんど動かないだろうが、チェコぐらいなら大会に出なければ確実に少しは下がるだろうし、やがてはないも同じになってしまう。
だから、この大会には、どんなデッキが出てくるのか、はどうしても知らなければいけない事だった。
馬車で私服に着替え、通りの外れからバトルシップに歩いた。
バトルシップは、異様に盛り上がっていた。
「よし、一ターンキルだ!」
盛り上りの中心にいるのは、見たことのない青年、いや、ぎりぎり少年といった、あどけない顔をした、体は小柄な大人のような男だった。
奥にパックを見つけて、チェコは何が起こっているのかを聞いた。
「地形カードだよ」
ぼそっとパック。
「え、地形カードなんて使えないんじゃなかったの?」
「まあ、大昔のカードなんだが…」
と気むずかしげにパックは、
「森地形になっているとき、森林のこだまというカードを出すと、大木トークンが五つ出る。
これらは、五/五の樹木召喚獣でもある、って言うんだ」
地形カードは、基本ゼロアースで場に出る。
そして森林のこだま、は森地形の場合に限り、射程に関係なく敵を襲える、という。
「え、でも打ち消せば?」
「森林のこだまは打ち消せないんだってさ、ハハハ」
いつの間にか、ルーンも来ていた。
「打ち消せないなら、破壊すれば?」
パックは舌打ちし、
「森林のこだまは瞬間スペルなので、打ち消す以外に止めようがない!」
ん、とチェコは考え、
「瞬間スペルは瞬間スペルで対抗できたよね?」
瞬間スペルなら相手のターンでも使えるはずだ。
「五/五が五体だぞ。
どうやっても防ぎきれない」
パックは腹立たしげに言った。
「え、自分も森林のこだまを使えばいいんじゃないの?」
パックもルーンも肩をすくめて、
「この辺じゃ売ってないんだ。
奴しか持っていない」
それでは独壇場になってしまう。
「だけど、ムチャなカードだね?」
「まー、そのうち、この辺でも売るようになるだろうし、そしたら、そう危険なカードでもなくなるのさ」
とルーン。
「あれでトーナメントを勝てるほど甘くない。
ただ、これから、ああいうカードが色々出てきては、小銭を稼ごうとするのさ。
トーナメントまでの数週間で、カード会社は荒稼ぎをするんだ」
確かに、相手もカードを持っていれば一ターンキルにはならない。
それでも一度に五/五が五体出てくるのはコスパ最高だが、森地形を失くしてしまえば、戦える壁、ぐらいの存在かもしれなかった。




