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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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危険

翌朝、チェコは走るようにパーカー先生の元へ向かった。


「え、子犬にホムンクルスの溶液を使った!」


誉められると思っていたのに、ただならぬ剣幕でパーカー先生は叫んだ。


「チェコ君、それは不味いかもしれない。

子犬の中にホムンクルスが生まれてしまったら面倒なことになる!」


「え、どう面倒なんですか?」


パーカー先生は、とにかく子犬のところへ連れていけ、と歩きながら。


「ホムンクルスは通常、瓶の中で育つのだが、生物の体内も、瓶とそれほど変わらないのだよ。

一見、元気になったように見えたかもしれないが、子犬という瓶の中で、別のものが育っていく…」


チェコは、初めてゾッとした。


「べ、別のものってなんなんですか?」


「魔物と呼ばれる怪物があるね?」


「えと、コカトリスとか?」


「それは普通に獰猛で猛毒の鳥だ。

だが、犬だとオルトルスやケルベロス、あれは怪物の部類になる」


チェコは青くなった。


「え、あの子犬に、もう一つ頭が生えちゃうんですか!」


「一日でそんなには育たないだろうが、極めて危険だ!」


ラクサク家の馬車で子犬の持ち主の家に向かう。


子犬は、健やかそうに寝息を立てていた。


「どうですか、先生?」


チェコは聞くが、パーカー先生は、


「私は専門家ではないからね。

この子を連れて大学に行こう。

事故が起こるといけない」


専門家というと、あのハニモリー先生だった。


あの先生は、手元に置きたい、とか言いそうだな…、とチェコはだんだん冷静になって考えた。


まだ寝ている子犬を毛布に包んで、チェコたちは相変わらずの喧騒の大学に入った。


今は、何か色のついた液体を校舎じゅうに撒いているようで、チェコから見たら大人の歳の大学生たちが、キャアキャアと、とても楽しそうに液体だらけになっていた。


チェコは子犬をかばいながら、


「何ですか?」


「うん、多分、シラミが発生したんじゃないかな。

大学は、年に何回か、そんなになるのさ。

みな、研究に没頭して、掃除もせずに何日も寝泊まりしてたり、だからね」


チェコやパトスにしてみれば、シラミ程度で大騒ぎか?

という感じだ。

農村では、平和に共存しているようなものだった。


地下の通路を下り、ハニモニー先生の部屋に向かうと、先生は瓶を洗っているところだった。


「え、先生、その瓶はこの前の…」


あの顔だけのホムンクルスが入っていたもののようだ。


「ああ。

一ヶ月生きたからね。

長生きな方さ」


虫眼鏡のようなメガネが、暗く曇っている。


「で、どうしたね?」


パーカー先生が事情を話した。


ハニモニー先生は子犬を調べ、


「鳥の育成は君がしたんだったね?」


チェコは、


「はい」


「この犬に、どのくらいの液体を投入したのかね?」


「スポイトで一回分ぐらい…」


ハニモニー先生は犬の肛門まで調べ、


「まず、問題ないだろう。

最低でも卵ぐらいの量がなければホムンクルスにはならないよ。

まあ、危ないから今後はそういうことはしないようにね」


チェコは、この際、


「怪我をしたとき、何も食べられなかったら、どうすればいいですか?」


と、訊いてみた。


ハニモニー先生は、


「強引に体に入れるのは危険だからね。

生き抜けなければ、それは仕方がないのさ」


と重く答えた。





「ホムンクルスより先に、血を作れないもんなのかな?」


チェコは、帰りの馬車の中で、ホムンクルス研究の在り方に疑問を持った。


「血だけ作る、というのも無理があるよ」


とパーカー先生。


「体があり、そして血があるんだ。

一足飛びに血だけ、とか腕一本、とか考えがちだが、命はそうしたものではない。

地道に命を育て、長く生きられるように工夫するしかないのさ」


嫌っているはずのパーカー先生だが、ここはホムンクルス研究を擁護した。


子犬は目を覚まし、馬車の中でふざけている。

全く怪我など無かったようだった。


「だいたい、どう血だけを研究するのかね?

その度、こんな命を実験台にするのかい?」


確かに。

ホムンクルスは短命で、研究は辛く、悲しく、そして、かなり不気味ではあったが、研究は少しづつは実を結んでおり、かなり無茶な理論だがハニモニー先生の人工骨理論で、確かに金髪は生きて動いていた。


「あれ?

じゃあ右手は、どうなってたんだ?」


山での戦いで、ほとんどアイテムに体を作った、元人間とチェコは戦った。

彼は、ほぼ機械の体をしていた。


チェコが話すと、パーカーは。


「多分、二目と見られない姿にはなっていたのだろうが、生命維持に必要な部位は存在し、命が続いていたから、周りをアイテム人間にしたんだろうな。

大変、高度な技術だが、今や機械人間はそのぐらい、お金を惜しまなければ出来るのさ。

僕は、ホムンクルスよりは、そっちの方に未来を感じるね」


まー、確かに。


右手の方が、今のところ、強かったかもしれないが…。


ただ、アイテム破壊のスペルがあったら、それで壊れてしまうんだよなー、とチェコは考えた。


本当に良い人工の血液や内蔵があれば、その方がいいんじゃないのか…?


漠然とチェコは考えた。

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