停止
また、魔方陣にはアースを生み出すシステムがある、と前章で書いていたが、別に魔石と組み合わせれば、より確実な起動も可能だ。
アレンジ次第で多角的に動く例、として三つの魔方陣を組み合わせる、魔石で起動させるものが載っていた。
魔方陣を三角の意匠的な形で包むことで、三つの魔方陣を一つのものとして動かせる。
その結果、魔方陣の描かれた対象に対するスペルを防止し、直接攻撃を無効化し、動きを精密にする、と書いてあった。
「これ…、効果だけなら、あの金髪と同じだ…」
俄然興味は出るが、果たして、あの時、金髪の足に光っていたのが、この魔方陣だったのか、と言われても、一瞬の事でチェコにも判らない。
その夜は遅くまで読書に明け暮れたチェコだった。
翌日、チェコはなぜか小銭を稼いでいた。
オーダーメイドで髪染め剤を売り、ニキビを治し、癖毛を治し、脱毛剤も売りまくって一財産稼いでいた。
上級生にもチェコの名が知れ渡ったため、すぐ呼び止められては、
「爪をピカピカにしたい」
とか、
「足の爪が嫌い」
とか、変な依頼も受けるようになっていた。
「見てくれ!」
と、四年生がズボンを捲る。
「何です?」
足が太い、とか言うのかな? とチェコは首を傾げたが、
「脱毛し過ぎてピカピカなんだ!
もっと、自然にしたいんだよ!」
「肌の環境を変えれば、ある程度は治ります。
でも、また薬を使えばこうなりますよ?」
四年生は耳打ちしてきた。
「脱毛しないで、なんとかならないのか?」
「産毛には出来るんですが、成長ホルモンは出ているので、その後、どうなるかまでは僕にも経験はないです」
全身を産毛にすると、結構な資金が手に入った。
また、
「なー、ブルーをきれいにしたの、お前、いや君だろ?
こっちもお願いするよ」
ブルー先輩は、チェコの広告塔になり始め、ああなりたい男女がチェコを呼び止めた。
もう一つにはパーカー先生の助手として腕を見せているのも、チェコの名を高めていた。
「俺、結構稼いでる!」
チェコ自身が驚いていた。
中には毛深くなりたい男子もおり、簡単に筋肉をつけたい人もいる。
「お尻だけ、少しボリュームを上げたいんだよ」
お陰でチェコは一日にして、カードを買い散らす前の資産を回復していた。
剣術の訓練の後、裸のチェコは、ジークに呼び止められた。
「汗をかきすぎるんだ」
「多少は調節できますが、汗は必要だからかくものなんですよ」
体温調節などもあるし、手汗足汗などは、物をしっかり持ったり、踏ん張ったりするのに必要なのだ。
「少し、やってみてくれないか」
あらゆる人が、何らかの問題を抱えているらしい。
そして帰宅したチェコを待っていたのは、
「君か、髪の毛を生やせると言う少年は!」
十人を越える年齢も様々な男たちが、髪を復活させ、チェコの資産を倍増させた。
「…ハゲは儲かる…」
パトスは唸った。
パトスは本の続きが読みたかったが、それだけの金銭を手にしたチェコがバトルシップに行くのを止める術は無かった。
前に黒鎧に遭遇していたので、チェコはチェコ・ラクサスとしてヒヨウと共にバトルシップに行った。
「え、パック、大丈夫なの!」
なんと黒猫獣人少年パックが、普通に子供たちとデュエルしていた。
「ガニオンが、あのガキに興味をもってな。
ジモンも隠れて張ってる。
俺は囮って訳さ」
なるほどガニオンクラスになれば、あの金髪がただの人間ではないのは察しがつく。
手に入れれば、確かに一財産だ。
チェコは、もうパックは街を去っている、と思ったので、少し嬉しかった。
「新しいカードとか出てないよね?」
パトスもうるさいので長居はできないチェコは、忙しく聞いた。
「ゴブリンぐらいだな。
赤は強くなるが、ゴーレムとどっちが優勢か、もう少しコンボとかが出揃わないと判らないな」
どっちにしろ、忘れられた地平線は重要なキーカードになりそうだった。
「おい、新カードだぞ!」
皆が騒いだ。
「なに、なに!」
チェコもパックも、他の子供に混ざって売り場に殺到した。
「能力を一つ封じる瞬間スペル、停止だ!」
どこかの子供が代弁して教えてくれる。
「え、忘れられた地平線は?」
難しい解釈は、店の者が説明する。
「その一回に限り、能力は停止する。
だが同じターンでも別の対象には、もう効かない」
うーん、とチェコは唸る。
せめて一ターン、地平線を止められれば、かなりの威力だが…。
ただ、ゴブリンの射手が相手を仕留めるとき、など決定的な場合は、デュエルを決める一手になるだろう。
チェコは余裕があったので五枚購入した。




