方法論
「もし、仮に、ホムンクルスの全身を作って、外の世界に生きさせるとしたら、ハニモニー先生はどうしますか?」
遠回しに、チェコは聞いてみた。
「僕が知りたいぐらいだが、今僕が考えていることを話そう。
つまり、頭の形の瓶を作る。
内蔵の詰まった完璧な体内を作る。
手や足も、同じようにその形の瓶を作って、ホムンクルスを産み出し、骨と筋肉で補強する。
それならば、長く生きるホムンクルスを作ることが出きるだろう」
「でも、転んだら、死にますよね?」
チェコが聞くと、ハニモニー先生は、
「瓶次第だ」
と答えた。
「瓶の素材を鉄とかにするんですか?」
チェコの問いに、ハニモニーは、
「いいや。
人工骨を瓶にする。
そして、始めから組み上げた形の通りに、骨を繋げ、外皮を筋肉の外に張り巡らすんだ。
そうすれば事実上、長生きする全身を持ったホムンクルスは出来るはずだ。
僕は、論文を書き、出資者を募ったのだが…」
肩をすぼめた。
その話の姿は、確かに、あの金髪に似ているように思えた。
「それで、どの程度動けると思いますか?
兵士にできますか?」
ハニモニー先生は、チェコをくりん、と首を曲げて正面に見て、
「君は子供に見えるが、よくヴィギリス王国の噂まで知っているね。
答えはYesでありNoだ。
僕がやれば、有能な兵士も作れる。
だが三流錬金術師が束になっても、せいぜい歩ける程度のものしか作れまい」
チェコは考えた。
「何か秘策をお持ちなんですね?」
ハニモニー先生は頷き、
「手や腰から下の部分は、自動人形や義手の技術を使うんだ。
それは義手や義足、いや、義下半身だが、筋肉と人工皮膚で覆ってしまえば、まるで生きている人間に見えるはずだ」
まさに…。
チェコは金髪の秘密を知った気がした。
「しかし先生」
とパーカーは口を挟む。
「それは、とても高価になりますよ。
とても安上がりに工場で出来る兵士にはなりますまい」
「当座はね」
ハニモニー先生は、薄く笑った。
「最初から生産ラインに乗せるものは、当然できない。
最初は、小型の、いや、子供の全身でも作って、実際に動かしてデータを取る。
どの程度の義足、義手が必要か?
どのみち、外側に人口筋肉と皮膚をつけるのだから、案外簡単な自動人形程度のものでもいいかもしれない。
兵士も、色々タイプを作ればいいだろう。
力持ち、身軽で器用、外見が人間そっくり、とかね。
おそらく、頭と内蔵の一部以外、例えば義手に血液は不要だから、代わりにアースを安定供給出きるようにすれば、ホムンクルスの脳は、スペルをセレクトすれば、思うように動けるようになる」
チェコは青ざめていた。
あれは、まさにハニモニー先生の夢想した悪夢だった。
「そ、それ、先生以外に誰か出きる錬金術師はいますか…?」
「いないさ…」
とハニモリー先生は笑った。
「ホムンクルスのスペシャリストで自動人形のスペシャリスト。さらに多分、医療錬金術や外科のテクニックも必要になる。
そんな人間、僕以外にいるわけがない!」
どこかにいるのだ…、とチェコは確信した。
「なるほどねぇ。
骨を瓶にしてホムンクルスを作れば、なるほど人間と変わらないわけね」
キャサリーンは唸った。
「あの腕、義手だったから、簡単に外れたんだよ!」
今になって、チェコは狂気の淵を覗くような恐怖を感じていた。
アースを血液として動く、生きた自動人形だ。
彼らは、瓶から出す必要がない。
だから、長生きする!
「とわいえホムンクルスの最長寿命は、確か数ヵ月のはずよ。
とても生産ラインには乗らないと思うわ」
だが、チェコは確かに狂気の淵から、その中を覗いていた。
「パーツを交換したら? キャサリーン先生。
寿命がきたら、人口骨の瓶ごと交換するんだよ」
キャサリーンもおぞけた。
「いま、頭の中で、見てはいけないものが見えたわよ、チェコ君。
だけど安くはないわよ。
それだとしても…」
「大量生産は、多く作るほど安くなる。
同じ人工骨なら機械でゴロゴロ作れるはずだ。
割りと採算は合うかもしれない」
ヒヨウも言い出した。
「とはいえ、相手の構造が判れば、大兵団ならともかく、一人の子供なら戦いようはあるだろう」
「…ただし、戦うことで、データが揃って行く…」
パトスが唸った。
「あー、変なことを考えるやつが、どうしてこうも多いのかね!
そんなに戦争がしたいのかな?」
チェコは悲鳴を上げた。
「したいのよ。
必ず勝てるのなら、いつでもしたいのよ、どの国も」
とキャサリーン。
「八侯二四爵なんて、仲良く国を分け合ったように思えるでしょうけど、本当は、誰でも全てを自分のものにしたいのよ。
ただ、睨み合いが、長い平和と呼ばれているだけ。
軍事的に圧倒できるなら、その均衡なんてすぐに崩れるから、エリクサーが存在しているのよ、チェコ君、ヒヨウ君、パトス君も。
力を貸して頂戴」
キャサリーンは、深刻なため息と共に語った。




