スペルランカー
昨日半分書いたところで邪魔が入り、中途半端な時間の更新になりました。
古来、魔法使いたちは魔術を紙に込め、戦っていた。
昔の絵に描かれる魔法使いが、全身を覆う長いローブや、巨大なマントを身に付けているのは、それらの紙、羊皮紙の束を丸めて身に付けていたためだ。
魔方陣も、その頃の魔法使いの常備品であった、とダリアは述べる。
ローブや、マントにも、魔法を込める方が、ただの背負い袋や、ポケットに紙束を持つよりも、はるかに効果的で機能性が高かった。
つまり、魔方陣は、それが正確に描かれている間は、魔法が持続するのだ。
ローブは紙束、巻物の入れ物であると同時に魔法使いの鎧であった。
また、現代ではエンチャントと呼ばれる持続的な魔法も、マントとして背負う以上に確実な使用法は無かった。
この時代、魔方陣は最新の魔術であり、それは紙束が少しづつ小さくなり、やがてカードになるまで続いた。
が、魔法使いがカードをボックスに入れて携帯するようになると、動きにくいローブや、引きずるようなマントは動きを鈍らせる以外の何者でもなくなった。
また、現代では革鎧にも直接魔法文字を書き込めるようになり、その恩恵は魔法使いに限らず、受けられるようになっている。
高価な鎧には、魔法文字が描かれ、かつての魔法使いのローブのような、特殊な防御も可能になっている。
魔法文字が発達し、またその刻印方法などの加工技術が進歩するに従い、逆に簡単な図形の中に魔法を閉じ込める、魔方陣が廃れていくのは、当然の事だった。
だが、とダリアは言う。
魔方陣にも、まだまだ発展する可能性はあり、また自動人形や加工の難しい素材などに容易に刻める利点も見逃してはならない、と。
この、一見、もはや過去の産物と思われる物は、未来への扉を開く鍵であるかもしれないのだ。
可能性としてダリアが語るのは、例えば刺青。
魔法文字では成長と共に魔法文字はぼやけるが、魔方陣なら崩れることはない。
また、ごく小さい場所でも、魔方陣ならば簡単に収まる。
毛根に魔方陣を納められるならば、毛の伸びるカツラも不可能ではない。
不幸な事故で肉体を失ったものに、成長する義手もつけられる可能性があり、ごく小さな魔方陣を骨や、筋肉に刻むことで、人の力を超越した力を持つものも将来的には生まれる可能性があるのだ。
あの金髪少年の力の根元は!
チェコは息を飲んだ。
あの皮膚に刻まれた魔方陣なのかもしれないのだ。
チェコがこれほど真剣に本を読むなど、今までに無いことだったが、パトスもダリアの著作に夢中になった。
魔方陣の有益生の一つに、アースがかからない、というものがある。
なんと魔方陣は、その図像のうちに、アースを発生させる仕組みが組み込まれており、それゆえに存在そのものが魔法なのだという。
そのカラクリは、図像の形と、使うインクの素材によるものだという。
かなり風変わりな植物や動物の名が並んでいたが、パトスはチェコと共にそれらを採取していた。
本は大学生用の魔方陣の解説書なので、図鑑形式に様々な典型的魔方陣やその細部の機能が解説されているが、図像に魔法が宿る、という思想が、現代を生きるパトスには不可思議に感じる。
ただ、魔法文字も、その原型は魔方陣の図像に求められる、という。
いくつかの例が乗っており、確かに図形として描くか、文字として線書きするかの違いはあるものの、確かに共通する形はあるのが理解できた。
「爺さん、こんなマイナーな本書いているから、貧乏なんだよなぁ…」
チェコは呟く。
ま、未来には、もしかしたらバイブルになるかも知れなかったが、魔法文字が主流の現代では、好事家の暇潰し、みたいなものだ。
例として上げられているのも、どこかの陵墓にあった、とか、数世紀前の魔術師の遺品とか、そんなものだ。
「これ、あった気がする!」
チェコはいつになく真剣に、ノートをとっていた。
ダリアが見たら、驚愕のあまり倒れるかもしれない。
ただ、チェコの気持ちも判らないではない。
あのパーフェクトソルジャー事件に関わった多くの人間なら、ウィギリスの暴挙に肝を冷やすのは当たり前であり、だからキャサリーンも、午後の授業を抜けて、図書館に行く許可を出したのだ。
あんなものが完成し、子供ではなく、戦士のホムンクルスなどが量産されたら、世界はメチャクチャになりかねない。
また、過程で悪魔でも呼ばれたら、今度こそ世界は終焉を迎えるかもしれないのだ。
「パトス、パトス!」
チェコが興奮して本の一文を指で示した。
それによると、魔方陣が輝くのは、主に魔石が使われた場合が多い、と書いてあった。
「やっぱり、あの金髪、体に魔石を入れているんだ!」
それはつまり、彼が作られた存在、ホムンクルスである証拠だと、チェコには思えた。




