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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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アンリ

もはやカードバトルものとは違う感じですが、そのうちデュエルも出ますので、よろしく気長に読んでくださいね…。



「やれやれ、これは派手にやられたのぅ」


奇怪な姿の医師だった。

片目は、肥大してしかも瞳が三つついている。


顔を始め、身体中に縫い傷があり、ところどころパーツの大きさが違う。


医師の筒袖の上着を着ているが、それは血に汚れてどす黒くなっていた。


「痛てーよぅ!」


金髪少年アンリは泣きわめいている。


薄いシャツを切って剥ぎ取ると、人口皮膚がめくれて、人体とも機械ともつかない、千切れた革ベルトが垂れ下がっていた。


ホムンクルスであるアンリは、身体中を別々に生産され、後に、錬金術師であると同時に外科医師でもある、このホエイによって、縫い合わされ、錬金術で傷を消して少年の姿に完成された。


痛みは、ある。


なければ、繊細な触覚を得られないからだ。


無論、賢者の石を使えば、痛みは押さえられるのだが、ホエイは確かめるように、痛みを押さえもせずに、アンリを縫い合わせていく。


無論、正常な痛覚を得られるか確かめる意味もあるのだが、別にホエイの変態性も内在している、と黒鎧の男ジンは思っていた。


特にアンリのように美しいものが苦しんでいるのが、ホエイには、ある種の変態的な喜びなのだ。


老人ガスやジンには、普通の治療をするのだが、アンリは、この変態に、特別に気に入られていた。


ホエイはウィギリス王国の天才的な錬金術師ではあったが、しかし異端中の異端でもあった。


大学で教えていた時期もあったが、あまりのおぞましさに学校を追われ、国直属の錬金術部隊を仕切ることになった。


アンリは、完全なホエイのオモチャであり、二つのパーツを持っている。


つまり、男にも、女にもなれるのだ。

無論ホムンクルスだから短命だし、外見的に男にも女にもなったとしても、生物ではない。


擬似的に生物の外見を錬金術で合成しただけのものだ。


国家は、このアンリを母体に、工場で兵士を生産する、という奇怪なプロジェクトに大乗気なのだが、実のところは外人部隊でも雇った方がはるかに安上がりというのが現状だった。


もしも現実をひっくり返せる、としたら、短命ではないホムンクルス。


人よりはるかに戦闘力を持ったホムンクルス、を作らねばならない。


だからアンリは、こうして生かされているのだ。


もう三年、アンリが生きている、と他国が知ったら、その知識の争奪戦が起こるだろう。


その秘密は、絶対に秘匿されるべき軍事機密であり、だからジンとガスは、アンリを抱えて逃げたのだ。


子供辺りにならアンリの秘密は判らないだろうが、あまり大っぴらにアンリの存在が知れ、錬金術師の知るところとなるのは避けねばならなかった。


が、同時にホエイは、アンリを、より強く、より長命にしなくてはならなかった。


だからヴァルダヴァ公国辺りまで遠征し、小銭仕事をしているのだ。


筋肉を、生きた革のベルトにし、人体のどこの部分にも応用できるようにしたのは、ホエイの天才性だが、アンリを必要以上に美しく、華奢に作ったのは紛れもない変態性だった。


修理が終わると、やっとホエイはアンリに賢者の石を使い、痛みを取った。


「今度は魔方陣を強くしたからね、アンリ」


とホエイはアンリをなで回し、


「でも弱点はあるんだから、気を付けるんだよ」


左腕と他の部分が別部品なのもアンリの弱点であり、偶然チェコには関節などないアンリの肩に関節技をかけられ、無惨な敗退をとげたのだが、それは本当のアンリの弱点も露呈していた。


アンリは魔方陣に守られた外皮に覆われていなければ、ただのホムンクルスと変わらない脆弱な存在なのだ。


おそらく、三日と生きられず、今までの時間を考えれば、数時間で寿命は尽きるかもしれないのだ。


無論、本来のアンリは、パーツごとに作られた部品なので、人工骨格や人工筋肉に覆われており、そういった何層もの膜が瓶の代わりをしてアンリの寿命を長らえさせているが、一番の機密は、魔方陣だった。


皮膚に、筋肉に、骨格に彫り込まれた入念な魔力が、アンリの命を守っているのだ。





チェコは図書館にこもっていた。

あの、金髪少年の足に浮き上がった魔方陣が何なのか判れば、敵の新たなパーフェクトソルジャー計画を頓挫させられるかもしれない。


とはいえ、チェコはダリアの下働きとして石の操作は習っていたが、さすがに魔方陣などわからない。


単純に言えば、スペルガードに描かれている魔法文字を習得するのでも、おそらく六年では足りないだろう。


基礎的なパターンを覚えて、スペルカードに組むとなったら、大学の先まで考えなくてはならない。


それでもキャサリーンレベルであり、魔方陣は、実は古い魔法の形に属していた。


簡単に言えば大学で魔法考古学を専攻すれば、今、チェコが開いているような大判の本と格闘することになる。


だがアンリに使われているのは、ホエイが新しく組んだ魔方陣であり、そうだと判るにも、大学から師について魔方陣の迷宮をさ迷った末の事となる。


「…判らん…!」


チェコは叫んだ。


それが聞こえたらしく、司書の女性のような華奢な男性が、大きなメガネをかけた顔で、


「それは、専門の大学生でも判らないと思うよ」


声もどこか女性的だ。


「うーん、でも兄ちゃん、俺、見た魔方陣の意味が知りたいだけなんだよ」


と、訴えた。


小柄なメガネの男性は、うーん、と悩み。


「大学生用の図鑑があったね。

一覧で見れば、もしかしたら、少しは役に立つかもしれないね」


言うとチェコを従え、本の迷宮を分け入り、チェコには帰り道も判らなくなった頃、


「あ、これこれ」


巨大な本だった。

華奢な男性は軽々と持っていたが、チェコは落とさないよう、必死で本を抱えた。


「解説が細かく書いてあるから、大きくなるんだ。

でも高名なダリア先生の著作だから、大学生なら判りやすい、良い本なんだよ」


とにかく、近くの机まで本を運び、表紙をめくった。


確かに、ダリアの名が刻まれていた。


「これ、俺がすいた羊皮紙だよな…」


ぼやきながら、チェコは本を眺めていく。


さすがに一年が判る部分は少ない。


だが…。


「ねえ、ちさちゃん!」


魔方陣自体は判らないものの、それが三つの特徴的な枠で囲まれていたのは覚えていた。


「えーと…」


たどたどしく、チェコは解説を読んだ。


「この印は水の印の最も守備的魔力の強いものであり、外からの攻撃を防ぐと共に、内部に包まれた生物の時間を長くとどめる」


「君、そんな魔法文字、良く読めるなぁ」


「判らないところは、勘で推測するんだよ。

使っている物を知ってるんだから、そのぐらいは何とかなるさ」


あのホムンクルス…。


この、魔方陣の描かれた皮に覆われているから、長生きしているんだ…。


チェコは、さらに本に顔を埋めた。

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