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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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屋根の上の戦い

チェコはスライディングで、なんとか少年の剣を交わした。


この金髪少年は、明らかに何かがおかしい。


両手に持ってる長ナイフは、幅が指先ほどだし、第一、薄いシャツと革の半ズボン、ブーツは十センチ近いヒールがついた女物で、ここは屋根の上なのだ。


黒鎧が明らかに重装備なら、彼は、まるで防御など気にしていないようだ。


ナイフにしたところで、もし石にでもぶつけたら、多分簡単に折れるだろう。


「雷!」


チェコは少年にスペルを放った。


パンッ!


チェコは、目を見開いた。


雷が、少年の頭上で弾け、空中に消えたのだ。


少年は、薄く化粧した顔に微笑を浮かべ、


「僕にスペルは効かないよ」


指先で、細いナイフをクルリと回した。


「チェコ!

こいつは怪物だ!

下手に戦っちゃダメだ!」


パックが叫んだ。


「裸なのに、手も足も、全く刃が届かないんだ!」


スペルは弾く、刃も通さない?


「アハハハハハ!

人間風情が僕に傷なんてつけられないんだよ!」


爆笑しながら、しかし少年は、まるでヒールなど履いていないかのように素早く動き、チェコの顎をピンポイントで蹴りあげた。


チェコは吹き飛び、屋根を転がる。


今、足の裏側に…。


ほとんど見えない、金の筋で書かれたような魔方陣が、見えた…。


しかし、チェコに魔方陣の知識などない。

キャサリーンならもしかすると判るかもしれないが、しかし魔方陣は、同じようなものが本何冊分もあるはずだ。


闇の中、一瞬だけ見たような図形が判る訳は無かった。


チェコは、屋根を転がり、雨樋に掴まった。


ふんっ、と力を込めて、上半身を屋根に上げると、パックが少年に攻め込まれていた。


そうだ、奴を対象にとらなければ…。


対象を魔法から守る魔方陣かなにかを、体に刻んでいるとして、そこから外れたスペルは効く可能性があった。


パックと接近戦の最中ではあったが、このままではまもなくパックは少年に殺されてしまう。


チェコは、できるだけパックが避けられる位置に、


「油だまり!」


スペルをかけた。


「あっ!」


少年はいましもパックに踵を落とそうとしていたが、つるりと滑り、屋根から落ちた。


パックは一瞬、少年が落ちた方向を見た。


が、


「チェコ!

走るぞ!」


言うと屋根の上を飛ぶように走る。

チェコには、そこがどここも判らなかったが、パックを信じてついていった。


「巻き込んで悪かったな」


走りながら、パックは謝った。


「いーよ、俺たち友達だろ」


チェコも、こそばゆい、だが、一度は語ってみたかった言葉だった。


そして、前を走るパックも、生まれて初めて、そんな言葉を耳にした。


無論カニガンは厳しいが誠実にパックを育ててくれている。


ジモンも、はっきりと言葉で表すタイプではなかったが、パックを弟のように扱ってくれていた。


だが…。


友達…。


そんなものは、作り話の、ご都合主義の言葉だと思っていた。


だが…、確かに…。


俺はチェコを友達だと思ってたんだ…。


それに、チェコはちゃんとこたえてくれて…、そして…。


パックの欲しかった言葉もくれた!


一瞬、ウルったパックだが、すぐ危機は全く終わっていないことを悟った。


「あいつ、下を走ってきている!」


チェコのスペルに驚いたのだろう。


少し用心しながら、しかしパックをおいかけている。


「あいつと、後、黒鎧の男がいるんだ!」


チェコは、変装して乗り合い馬車に乗った話をした。


「二人か?

もう少し、いるかも知れないな…」


パックは考え込んだ。


「ま、ともかく、カニガンとジモンの匂いを見つけた。

そこまで走るぞ、遅れるなよ!」


「判った!」


チェコとパックは、夜のダウンタウンの屋根の上を走った。


だが!


斜め横から、何か飛行物体が二人を襲った。


パックは俊敏にジャンプし、後ろのチェコは、


「うわぁ!」


としゃがんだ。


そのチェコの頭、スレスレを、独楽のように回転した手斧が通りすぎていく。


「ケケ、素早いの!」


手斧は大きくカーブして、チェコやパックより小さい老人の手に戻った。


背中に、ミノを背負った白髪の老人で、髪は長髪、まるで男か女か、判らない。


「なんだ、お前は!」


パックは叫ぶが、あの二人の仲間なのは、自明の理だった。


が、幼児のように小さく、手斧を自在に投げてくる長髪の老人は、こんもり背負ったミノもあって、夜には見たくないような、奇怪な妖怪性を漂わせていた。


「へへへ、もう押さえたぜ!」


あの金髪少年も、屋根に上がってきた。


そして、前の店の屋根には、黒鎧の男が立ち上がった。


「囲まれたか!」


パックは唸る。


「…ったくお前は、いつも厄介事を持ち込みやがって…」


魔眼のジモンが、黒鎧に棒を打ち下ろした。


槍の、金属の刃が抜け落ちたもののようだが、黒鎧に命中した音は、金属音だった。


あの長さの鉄の棒なら、相当に重い…。


チェコは、ジモンが頼れる、と判断した。


踵で回るように、金髪少年に向かい、青鋼を抜いた。


「ケケ、忘れたの?

僕には、刃なんて効かないよ」


「どうかな?」


チェコは、自信ありげに剣を構えた。


手斧の老人に、パックが向かう。


ダウンタウンでは、わびしげなバイオリンのメロディが流れていた。




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