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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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屋根

どこからかバンドネオンの陽気な音楽が聞こえている。

演奏にあわせて手乗り猿が様々な芸をする見世物だ。


酔客は道にテーブルや椅子を出し、賑やかに宴会を行っている。


大小の劇場は喜劇や悲劇を上演し、コントやパントマイムなどの専用劇場や演奏会なども盛んだ。


ダウンタウンの夜は町中に人が溢れ、歌ったり騒いだり、突発的に喧嘩騒ぎが起こったり、混乱が尚、人々を引き付ける陽気な空気を醸し出していた。


売れない芸人は路上で芸を披露する。


ジャグリング、腹話術、漫才や寸劇など、出店でおつまみと酒を買えば、安い芸なら見放題だ。


路面電車が次々と新しい客を吐き出し、ダウンタウンは唸るように震えだす。


手にチーズパンとビールを持った男女のグループの間を抜けて、チェコはパトスの後を追った。


露天で宝石を売っている店が大繁盛していて、


「さあさ、金でも銀でも好きな針金で二人の名前を細工してやるよー!」


カップルが大挙して露天に集まっていた。


人混みを避けて横に回ったチェコの前に、黒い鎧の男がたっていた。


「あ、お兄さん…」


思わず立ち止まるチェコに、鎧の男は、薄く笑い、


「チェコ、まだ会ったな…」


チェコは、ポカンと男を見上げた。


足元でパトスは毛を逆立てる。


「…チェコ、お前は、この男に名乗ってない…」


そう、チェコは名前だけならそこそこ有名だった。

変装して、うっかり山の英雄の名を語るほど、チェコもアホではなかった。


「俺、あんたの名も知らないよ?」


自分も名乗らないし、相手の名前も、あえてチェコは聞かなかったのだ。


元々、金貨を一枚、子供の道案内に使うのはかなり不自然な行為だった。

馬や牛を買ってもお釣りが来るほどの金額なのだ。


人が良さそうに見えた男だが、瞬間、目を細めると、突然、酷薄そうな人相に、男は変貌した。


おもむろに男は真っ黒な兜をかぶり、背負った剣を抜く。


漆黒の、剣だった。


「あれ、もしかして、ダークミスリル?」


プルートゥがゴロタに使った金属だ。


小石ほどでも莫大な金額がかかるはずだった。


「、、たぶん、そうだわ、、

あの男、尋常ではないわ、、」


傭兵とはいえ、大砲のカニガンとは少し違う傭兵だ。

チェコは、前の旅を通して、その程度の世知は得ていた。


カニガンは若者をスカウトし、働かせながら育てている。

パックもジモンもカニガンに懐いているし、カニガンも厳しいながら、二人に無茶はさせていない。


教えながら、育てている。


だが黒鎧は嘘をつき、チェコに近づき、梅小路まで誘導した。


あの弟も、ただ者じゃ無かったんだろうな…。


今にすると、回りの子供たちと、少し違う空気をまとっていたように思う。


色町、という独特の空気が、それをまぎらわしていたのだ。


「あの剣、青鋼じゃ受け止められないよな…」


チェコが呟くと、


「…馬鹿…、お前がまともにやりあえるような奴じゃない…」


パトスが冷静にチェコを叱咤した。


そう。

この男からは、あの狂った傭兵プルートゥと同じ匂いがする。


まともに剣を交えたりしたら、チェコは一瞬で切り殺されるだろう。


なんとか男を交わして、パックと合流する。


それしか、チェコの助かる道は無かった。


広くはないダウンタウンの道の片側は露店商と大量のカップルが大騒ぎしている。


黒鎧は、チェコの行く手を塞いでいるが、左側、店と店の間に、チェコなら通れる隙間が空いていた。


路地というにも細すぎる隙間で、当然、巨体の黒鎧は入り込めない。

コクライノの丘自体が複雑な地形のため、たまにこうした隙間ができる。


通りに面しては二軒の店が並んでいるようだが、奥には段差があったり、到底動かせない岩があったり、そんなことでできた隙間だ。


ただし、その隙間まで、チェコの足では何秒かかかるだろう。

剣の達人なら、あっさり追い付く時間だ。


チェコはスペルを使うか、迷ったが。


「スリがいるぞ!」


人混みで叫びが上がった。


わっ、と人々が騒ぎだした。


チェコは、黒鎧とチェコの間にカップルたちが入った隙に、隙間に走った。


黒鎧は、剣を使えない。

仮に、ドリアンの仲間だったとしても、この賑やかな往来で剣を振り回しては、咎められない訳もない。


人並みから、肩から上が露出するほどの大男は、混乱する人に遮られた。


チェコは隙間に飛び込んだ。

入り口こそ狭いが、奥は荷物の木箱が山積みになっていた。


外からでは判らないが一軒は張り出した崖の上にバルコニー席が作られ、見晴らしの良い一等地、隣は崖下に下り、入り口は三階になっていたらしい。


さすがにバルコニーを堂々と横切るわけにはいかないので、チェコは屋根に上がるため、ジャンプした。


一階づつ昇ると、屋根の上に出る。


気配を感じ、振り向くと、そこに細身のナイフが振り下ろされた。


あの、金髪の弟が、両手に指ほどの太さのナイフを持って、ギラつく目でチェコを睨んだ。


「餓鬼がシャシャリ出て来んじゃねーよ!

とんま!」


声変わり直後の声で叫んだ。

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