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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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アフマンは、別に今まで見学していたわけではない。


チェコたちと同じように勝ち抜いていた。


ただし、ほとんど一瞬で勝負はついた戦いだったが…。


力のグレータと呼ばれ、技のアフマンとも言われてはいたが、グレータ不在の今、アフマンは力でも頭一つ、皆を抜いていた。


技の冴えはますます見事で、対戦者の攻撃は全て、あっさりと交わされ、一撃で仕留められていた。


勝った!


チェコとカイの喜びは、すぐに対アフマン戦の重圧に取って変わる。


アフマンは、ほぼ完璧な戦士であり、チェコやカイのような、いわば変則戦士にとっては、もしかしたらグレータよりずっと強敵かもしれなかった。


自分の力が通用するのか…?


アフマンは、芝に小さなチェストを出して、チェコたちを見つめていた。


「おいおい、固くなるなよ」


レンヌがチェコとカイをどついた。


「一年が、この学園最強のアフマン先輩に勝てるわけがないだろ。

それより、全力で負けてこいよ!」


レンヌらしい、乱暴な励ましの言葉だった。


「チェコは強いよ」


フロルは静かに語る。


「でも、さすがにアフマン先輩に比べたら、まだまだ子供だよ」


「チェコ様!」


ブリトニーは、どん、とチェコに張り手をして、


「あたくしはチェコ様の勝利を信じていますわ!

相手だって六年とはいえ、まだ十代の若造なのです!

勝ち目は、きっとありますわ!」


「ま、カイなら、もしや、ってところだな。

いかにアフマン先輩でも、最初からヨーヨーに対応は出来ないだろう。

うまく短期決戦に持ち込めれば、もしや、もあるかもな」


カイはヨーヨーを握りしめ、


「人の急所に違いはない。

そこに当てられるか、どうか、それだけだ」


と決意を固めている。


ただ、チェコの見るに、普通に攻めて急所にヨーヨーを当てるのが不可能なのは、多分カイも気がついている、と思った。


なぜなら、今までの敵にしても、簡単に急所に入れさせるような奴はいなかった。


まず、相手を崩さないことには急所にヨーヨーが入ることは、アフマンでなくとも、ない。


我が事のように唸っていたチェコの肩を、ポンとカイは叩き。


「俺の戦いを、見ていてくれ」


囁くようにカイは呟いた。


目が…。


白銀の輝きを帯びていた。


何かする気だ…!


そう、チェコは感じた。






午前中の戦いの、血を吸い汗を飲み、濃い緑の芝は、重く湿っていた。


その芝を鉄板入りのブーツで踏み、カイは学園最強の男の前に進み出た。


アフマンは下級貴族の家柄だが、代々文官として高い地位を保っていた。


その一族にしては、アフマンは長身であり、グレータと並べば見劣りするものの、長身の肉体にはしっかりとした筋肉が漲っていた。


子供の頃から、学問と共に武芸にも光るものを見せ、剣だけでなく槍も弓も、トップクラスの成績を保ち続けていた。


身につけた鎧は、華美なものではない。


カイと同じ、中古の兵隊用の鎧だ。


カイは、その事に昼前に気がついた。


俺と、構造が同じものだ…。


下級貴族とはいえ、司政官として高い地位にある家柄なので、そんなに貧乏をしている、ということはないハズだった。


ただし、給料は良くても、貴族として拝領している土地は狭く、痩せた僻地であるハズだ。


とはいえパトリックの家が、地代を払って住んでいるのに比べれば、無料の上に、僅かながらも収益もあるハズで、文官の給料と合わせれば、そこまで兵士の中古を着るほど貧乏ではないハズだった。


まあ、経済の詮索はいい…。

それよりも…。


兵士の鎧なら、脇腹は金具で補強してあるとはいえ、薄い革のベルト式のハズだし、ももや、ふくろはぎの部分も、それほど頑丈ではない。


いくつか、攻める場所はある…。


華美なオーダーメイドの鎧を仕立てたものは、疎いかもしれないが、俺なら、この鎧の弱点は精通している…。


無論、アフマンも精通しているだろう。


だが、射程はヨーヨーの方が長い。


だから勝てる、などとは考えないが、攻められる場所は、チェコのためにも、攻めるべきだ。


だから、チェコには、戦い方を見ておくように話した。


「やあ…」


アフマンは、カイに笑いかけた。


「君は変わった武器を使うようだね」


長身で、鍛え抜かれた均整の取れた細身の肉体のアフマンは、ルックスも、どこか少年の香りをまだ残した、あどけなさの残る美貌で、髪は明るい茶色。


その髪を、耳が隠れるように、男としては長くしていた。


武官を目指す男子は、短髪が普通であり、洒落っ気を残していたとしても、せいぜい眉にかからない程度の髪だったので、アフマンが文官志望なのは誰が見ても判る。


それでいて、強いのだ。


「君とは戦いたかったから、勝ち残ってくれて嬉しいよ」


「光栄です…」


本当に、光栄だ。

何しろ俺は、貧民窟の腐った水を飲んで育ったんだからな…。


カイは、腹にたまった鬱積と喜びを、同時に味わっていた。


だが、自分のこれからを考えれば、決して、ここで手を抜くことは許されない。

これから俺は、六年間、常に決勝に出続ける。

そうでなければ、いつ学席を失ってもおかしくはないのだ。


幸い、パトリックの家系には戦えるものがいないので、カイに期待が集まっているだけだ。


だが、程度が知れてしまったら、もっと有能なものを金で買えばいい、ということになってしまう。


こいつは、どこまで強くなるのか、と思わせ続けなければ、そこでカイは終わるのだ。


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