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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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闘い

今週はレノボと猫に振り回され、なかなか書けませんでした。


猫の文太は、どうやらパソコンに嫉妬しているようです…。

チェコは、どっしり腰を落としている。


こうして対峙してみると、クラスで一番小さいとはいえ、チェコは虎の子のような、ヒヤリとする狂暴性を発散させていた。


無論それは、チェコが戦争に出て、大人と殺し合いをした上で、勝ち残っている、という事実も加味されているのだろう。


子犬のパトスにも頭が上がらないような少年であり、クラスにいても、子供っぽいポカをやらかす、あどけない子供に過ぎない面も、確かにある。


だが、戦いに臨んだ、この目の輝きはどうだろう。


百通りの切り刻みかたを吟味して、居合いが最良とセレクトした、と、言うような閃きかたはどうだろう。


彼は、どう、あたしに勝とうとするのだろう…。


フロルは、自分とチェコの間に剣を置きながら、ゆっくり右に回った。


無論、そんなことで崩れるチェコではないのは判っている。


動くことで、微妙に間合いが狂ったり、足運びに乱れが出るようなレベルの男の子じゃない。


そう見えたとしたら、おそらくそれは、チェコが意図して作った作為の隙のはずだ。


だが、チェコはおそらく、フロルにそんなブラフは行わない。


時間をかけても、真正面から戦うはずだ。


チェコが、居合いの形のまま、ずっ、と前に出た。


不意打ちの動きに、フロルは慌てて、跳んで背後に動いた。


今、どう動いた?


フロルは混乱した。


居合いは、動かない剣のはずなのだ。


一瞬で相手に合わせて剣を抜くカウンターアタックであり、相手に向きを合わせるぐらいは出来ても、まさかその居合いのまま、前進する、など考えられない…。


が、今、まさに、チェコはそれをしてのけた。


もとより、歩きながら抜き打ち、振り向きながら切り込むのが、元々の居合いである。


動けない、という訳では決してない。


が、一旦、手に柄を置き、こうして対峙したならば、普通、居合いは動かない。

柄を握るまでは自由でも、一旦、構えたならば不動の姿、それが居合いのはずだ。


相手の動きに即応するのが、居合いだからだ。


無駄な動きを、極力省いた姿なのだ。


だから、動かない。

自ら動いたりしたら、フロルの動きに、合わせられなくなってしまうからだ。


が…。


居合いが、前進するのだとしたら…。


フロルの常識が揺らぎ始めた。


前に動けるのなら、居合いの射程は、ぐんと広がる。


決して、構えた剣に劣らない射程を手に入れられるのではないか?


また、動くということは、すなわち剣の速度も前進速度が加われば、より早い居合いとなる。


のだが…。


フロルはチェコが居合いの形をとってから、細かい所作を見ていなかった。


動かないものを見ても仕方がないからだ。


いったい、チェコはあの形から、どう動いたのだろう?


足を踏み出せば、剣を抜かざるを得ないはずだ。


剣術に、下半身だけが動く、などという行為は不可能だ。


足と手の動きは連動してこそ、最高のパワーを発揮するのであり、別に動いたら、ただの手打ちになってしまう。


これでは、草を刈ることすら不可能だ。


が、今、現にチェコは前に出た…。


フロルは、何が行われたのか、全く判らなかった。


戸惑ったフロルだが、心のどこかで、冷静に考えろ、と合理性の声がした。


そう…。


既に剣を手にかけているのだ。


足を左右に動かす訳はない。


剣と逆の足で踏み出すから、こしがまわり、力のある太刀筋が生まれるのだ。

逆の足が前に出る訳はなかった。


そうであれば…。


推測ではあるが、細かい摺り足を素早く繰り返し、姿勢を崩さずに前進したのだ。


武道では、する意味も無いため行わないが、プロのダンサーレベルの劇舞踊では、動かないような姿のまま、実は相手に合わせて動いている、というような躍りもある。


おそらく、これに近い、なにかが行われたのかのだろう。


普通はしないことだ。


動いている途中に攻撃されては、ひとたまりもない。


だが、あえてチェコはやった。


敵の混乱を誘うためだ。


と、考えてみるが…。


チェコは、たぶん、あたし相手にそんな事はしない。


彼は、勝てる手だけを打ってくる。

そんなハリボテの作戦は、絶対しない…。


フロルにも、そこは判った。


フロルは唾を飲み込んだ。


チェコは居合いの形に構えているが、そこから、打って出てくる。


たぶん…。


あの時、飛び退かなかったら、フロルはやられていた…。

チェコは、本気だ。


ドキン、と胸が高鳴った。


怖く、でも、嬉しい…。


チェコは、あのナルタのように、フロルを花扱いしない。


勝つために、剣を交える対戦相手として、見ている。


ひやり、とした殺気と共に、涼やかな深山の冷気が、彼と共に漂っている。


虎の子供。


猫の子のような赤ちゃんではなく、さりとて山の主のような大人でもない、若い、虎の少年。


そんな香気が、チェコにはある。


常に、ではない。


アドスとふざけ、パトスに怒られている彼は、普通の子供だ。


だが、時折、微かに見える…。


初々しい、若虎の闘気…。


フロルは、前に構えていた剣を、ゆっくり頭上に振り上げた。


闘う!


彼は本気なのだ!


だから、あたしも本気になったとき、二人の心は、きっと触れ合うだろう…。


それは真剣に漂うような、甘美な死の匂いだった。


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