表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
130/197

タックル

一つのヨーヨーは、大きく弧を描きドリーの頭上を越えようとしている。


普通であったら失投だが、相手はカイだ。


ここから、思うように変化させて来るだろう。


そのヨーヨーを目で追ったドリーだが、その視線の端に、カイが左腕で投げるヨーヨーが見えた。


どっちだ…!


むろん、カイは歳は十三とはいえ、もはやヨーヨーに関しては名人と言って構わない強者だ。


どちらも本物なのだろうが…。


先にドリーに届くのは、もしや左からのストレートか?


それとも、この上空からのゆっくりとした攻撃だろうか?


頭上のヨーヨーは、もはや顎を上げなければ目で追えない高さに達していて、左手のストレートは、まっすぐドリーに向かってくる。


ストレートだ!


どう考えても、左手のストレートが予想以上の伸びを得て、ドリーの顔面に向かってきた。


だが…。


剣で身を立てようとする以上、顔面の攻撃を恐れていては、武芸者の名折れだった。


昔、大変な剣の達人がいたが、ある槍使いが顔を狙ったところ、美貌で知られた達人は、思わず顔をかばった、という。


その達人はむろん、無惨な屍をさらし、同時に愚か者として今日まで汚名を語り継がれている。


ドリーは、まっすぐ顔に向かってくるヨーヨーを、切った。


切った瞬間、判った。


それはヨーヨーではなく、ただの石だった。


単純な、トラップだったのだ。


しまった…。


思った瞬間、ドリーの後頭部に、見事にコントロールされたカイのヨーヨーが突き刺さった。


一本の杭のように、ドリーは倒れた。


カイは、しかし素早くヨーヨーを手元に引いた。




ぴくり…。


ドリーの指が、微かに動いた。


カイのヨーヨーは、遅いスピードであったため、意識を奪うまでは、至らなかったのだ。


ドリーは、震えながら、起き上がろうとした。


カイは、剣を抜いた。


もはやヨーヨーで意識を刈らなくとも、剣を突きつければ終わる戦いだった。


「駄目だ、カイ!

六年を侮るな!」


チェコが叫んだ。


え、とカイが瞬間、戸惑ったとき、ドリーは一気に立ち上がり、一瞬で剣を振り上げた。


意識した行動ではない。


勝てる!


瞬間、そう思っただけだ。


勝つんだ!


それは、この六年の鬱積の蓄積が原動力になった行動だった。


天才グレータやアフマンには、どうやっても勝てなかった。


クアラムはあからさまにドリーを見下していた。


実際、グレータが闇討ちにあったとき、ドリーは、むしろ喜んだのだ。


五年にも、四年にも負け、二年でさえ天才エンクには土をつけたことはない。


彼らの閃きや、超人的な身体能力は、ドリーがどんなに望んでも手に入らないものだった。


体も、鍛えてはいるが、思うほど大きくはならない。

力も、下級生にも劣っている。


そんな中、ドリーは基本だけを反復してきたのだ。


瞬発力は無いものの、長く走ることだけは出来るようになった。


だが、剣に必要なのは瞬発の力だ。


才能がないことは判っていた。


だが、剣にすがるしかなかったのだ。


勉強が出来ないわけではなかったが、ドリーには魔力は乏しい。


文官としては、どうしても人の目に止まる力は、ドリーにはなかった。


ただ幼い頃から続けていた剣だけは、むろん天才の名を欲しいままにするような怪物には、どうやっても敵わなかったが、ある程度の成果は出せた。


親類もいる軍への進路も見えてきていた。


だから、だ!


だから、ここでだけは勝たなくてはいけない!


一年に負けた、と言われては、ドリーの進路は険しくなるのだ。


カイは、中途半端な動きをしてしまった。


剣は抜いたが、戦う形にはなっていない。


ヨーヨーは、ポケットに納めていた。


ドリーは、意識は朦朧としながらも、既に剣を撃ち下ろそうとしていた。


基本に忠実な剣士の一撃だ。

弱いわけはない。


カイは、とっさに膝タックルに活路を見いだした。


腰より下への、相手を倒すためのタックルだ。


普通、そこから足関節を狙う技に繋げることが多い。


最悪、片足だけでも捕まえれば、アキレス腱を攻められる。


ドリーの渾身の一撃は、カイの低いタックルによって、空振りになった。


カイはドリーの膝に背中から当たるようにタックルした。


膝が頭などの急所に入れば、己のパワーで意識を飛ばすこともあるから、痛くても筋肉の厚い背中を使うよう師匠のイエガーに教わったのだ。


当然、丸太のように背後から膝にぶつかるタックルとなり、そこから手を伸ばして足を取っていく。


ただし、ドリーも格闘技は得意だった。


ただ、体格が中背でやせ形だったため、力負けすることは多い。


とはいえ、一年に力負けはしない。


ただし、ドリーの両手は剣を振り下ろしている最中だったので、塞がっていた。


膝タックルは、格闘技でも、珍しい形なのだ。


普通は、固い膝を避けて、もう少し上か、下にタックルをする。


うまく頭に膝を入れられれば、それが側頭部でも膝の方が強い。


だからドリーは無警戒だった。


カイは、ドリーの左足を掴んだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ