決着
パトスは、唸っていた。
自分の陣には浮遊する壁と忘れられた地平線、対するチェコの陣には、ハンザキ二体と慟哭する巨人、しゃれこうべに闇と森の修験者、スズメバチ。
ただし、ダメージは忘れられた地平線で流せるので、打ち消し、を適切に使えれば、まだまだ戦いようはあるはずだ。
しかし、忘れられた地平線の維持は、思うよりめんどくさい。
次にデッキを組むのなら、もっと便りになる召喚獣を多く入れたい、とパトスは思った。
「よーし、俺のターンだな!」
チェコは起き上がると、
「黄金蝶!」
くっ、とパトスは呻いた。
振り返ると、どうもこれを落とす事にこだわりすぎたかも知れない。
ただ、チェコの五十枚のデッキのうち、何枚か入っているであろう赤のカードを警戒し、執拗に打ち落としていたのだ。
だが打ち消しも、あと三枚。
それだけがパトスの持ち手では無いのだが、チェコのおそらく最後の黄金蝶、残り少ないカードの使い方には気を配らなくてはならない。
「打ち消し…!」
だが、やはり黄金蝶を出させるわけにはいかなかった。
何より、その作戦で、継続して黄金蝶を潰し続けているのだ。
カードが少ないから、と手を緩めるなら最初からしない方がよかった。
チェコは、
「やるねー」
と唸ったが、無論この馬鹿は、ちゃんとパトスの残りカードぐらいは数えている。
もとより、赤のカードは、属性分解ですぐ出せる。
一アース余分にかかるだけだ。
その上チェコは、昔、トカゲ人間のテントで買った灰色カードも持っているはずだ。
だから、無理に黄金蝶を出す理由もなく、潰す理由も無いのだが、パトスはなにか、嫌な気がしたので、狙い撃ちにしていただけだ。
特にチェコのデッキは、多くアースが出ると、色々回って、決め手は多彩なはずだった。
「じゃあ俺は、パンジードラゴンだ!」
ぬ、と唸った。
召喚獣に打ち消しを使う余裕はない。
だが、既にチェコの前には、慟哭の巨人とハンザキ二体が並んでいる…。
そもそも、こいつの持っている召喚獣はトレースしたものが中心なので、市販の召喚獣より低コストでオーバーパワーだった。
ここに四/四の飛行が加わるのは、浮遊する壁があるとはいえ穏やかではない。
「…場に出た二体の召喚獣を、スペルボックスに戻す…」
やり直し、青アース二の瞬間スペルだった。
が。
「スペル無効化」
チェコは余裕でスペル無効化を、マイヤーメーカーよろしく、ベッドの上に投げた。
足元を見られた!
確かに、スペル無効化で勝ち上がるには、長い経験と駆け引きの巧みさが必要なようだった。
チェコは、以上、と言って自分のターンを終わった。
「…大いなるドレイク、を出す…!」
飛行、三/三、サイズはさっきと同じドレイクだ。
「大いなるドレイク、今までに俺が出し、殺された召喚獣の数のカウンターが乗る!」
「なにそれ!」
チェコが慌てた。
「いさな、波打ち際のドレイク、モリ打ち魚、獣の臭い…」
「くそぅ、七か…」
チェコが唸るが…。
「…そして…、忘れられた地平線が二枚…」
あ、とチェコは叫んでいた。
自分であれを召喚獣にしたのだった。
「…プラス六、大いなるドレイク、九のパワー…」
とんでもない怪物が出てきてしまった。
「強いけど、なんか負けてた方が、より強くなる奴だね…」
チェコは、呆れたように言うが、パトスは勝ち誇る。
「…言っておくが、今、ライフは俺のが上…。
俺が勝ってる…」
パトスがニマリと笑った。
犬ではないが犬型のパトスが、こうも悪い笑顔が出来るのか、という笑いだった。
「…瞬間スペル、闇討ち…。
このターン、防御不可になる…」
チェコは、キャア、と悲鳴を上げて、
「それ!
悪ど過ぎるよ~!」
「…知らん…。
思いしれ…!」
なにを思いしるのかは判らないが、パトスも色々思うところはあったのだろう。
「…攻撃…!」
チェコは九のダメージを受けた。
チェコは、どて…、と倒れながら。
「ダメージ転移…」
「…ちょっと待つ…!」
パトスが
飛び上がるが、
「マア、マダ終ッテナイ」
りぃんも、いつの間にかチェコとパトスの観戦をしていた。
確かに、パトスはライフ一で、まだ生きており、手元には九/九という化物サイズのドレイクもあり、壁も出ていた。
しかし…。
チェコはしぶといプレーヤーな事が、パトスにも判った。
しかし、打ち消しを失敗したり、忘れられた地平線の対象を間違えたりしなければ、勝てたはずでもある。
いや…。
パトスは思った。
ここを守りきれば、まだ勝てる。
「…以上…」
「よーし、それじゃ、草原の祈り」
チェコが出したのは全てのエンチャントを破壊するカードだった。
対象は全てなので、変えようがない。
「打ち消し!」
「スペル無効化!」
まだ持ってやがったか!
パトスは思ったが、ここをしのげば勝てるはずだった。
「…打ち消し…!」
「闇の消去!」
パトスの、忘れられた地平線が、破壊された。
「ほい、全部の召喚獣で攻撃!」
パトスが、どて…、と倒れた。
「ぱとす初メテノでゅえるデ、ヨク戦ッタ」
が、パトスはベッドの上に倒れて、
「…勝ちたかった…」
と呻いた。
だがチェコは、
「良いじゃんパトス、ほら、デッキをスペルボックスにいれて!」
チェコはパトスの首輪にボックスをつけた。
「…俺、アース一つだけ…」
「馬鹿だなぁ、俺たちはチームだよ。
無論、俺のアースもパトスのものだし…」
んふふ、とチェコはあくどく笑い、
「百万リンあるんでしょ?
安い魔石なら買えるよ」
当然、チェコのアースも潤沢になる。
パトスは、まんじゅうのようにつぶれた。