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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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戦い

ドリーの目の前から、カイが消えた。


しまった!


カイが、度々スライディングをしているのを、ドリーは目にしていたが、勝ちを急いでしまった。


カイは必ずスライディングしている。


が、それを目で追えば、その時点でヨーヨーの餌食になる。

どんな態勢でも打てるのがヨーヨーの強みなのだ。


ドリーは横に跳んだ。


そのドリーの頬を、カイのヨーヨーが掠めていく。


転がってすぐに立ち上がりながらも、ドリーは唸っていた。


見た感じ、一年としても、決して恵まれた体格とも、発達した筋肉とも言いがたい少年だ。

六年のドリーから見れば、本当に、まだ子供にしか見えない。


だがこのヨーヨー使いは、本物だった。


ここまで自在に飛び道具を操れるものなのか?


矢なら、本数に限りがあるし、手元で変化などしない。


ツブテ使いのうちには、投げるツブテを変化させるものもいると聞くが、どのみち、重い石を、そう何十も持てるものではない。


だが、カイは無限に、自在に変化させるヨーヨーを投げ続け、一年にして決勝まで勝ち残ったのだ。


六年として、これ以上、今年の一年の好きにはさせたくないが、ヨーヨーを自在に操り、思うように変化させられる。

と、なると、小柄で素早く、スライディングも得意という敏捷さが、とても厄介になってくる。


そう考えると、彼は決して、ただのヨーヨーの得意な子供、ではない。


現に天才エンクや槍使いユリヤをヨーヨーで倒しており、時に槍の上に乗り、時に天才の剣を交わして勝ち抜いてきている。


本物、と、考えていいだろう。

ドリーは、少し簡単に勝てると思いすぎていたのだ。


ドリーは剣を構え直した。


ドリーは基本に忠実な剣士だ。

だが、好きで基本に忠実になったわけではない。

同学年に、力のグレータ、技のアフマンという、ほとんど芸術的な剣使いが二人もいたことは大きい。


また、槍使いクアラムの存在も大きかった。


射程の長い槍と戦うためには、細かい技をいくつも覚える必要があった。


それでもドリーは、よく五年に負けたし、クラスでベスト五に入ったこともない。


だが、今日は体調も良く、六年間で初めて五位までの中に入った。


光栄だが、しかし運だけとは思ってはいない。

基本を突き詰める。

その長く単調な作業が、一つの実を結んだ結果なのだ。


だから、ここで一年には負けられない。


なぜなら、僕はここに来るのに六年をかけたのだから!

カイは、来年は必ずドリュグ聖学園の主要メンバーになるだろう。


ならなければいけない。


そのためには、基本を押さえた僕が、ヨーヨーを封じる!




ドリーの雰囲気が変わったのが、カイには判った。

貧民窟に住み、ダウンタウンで盗みをしながら生きていれば、こうした変化には敏感になる。


人は、慈しみ育てた家畜を、潰して食べる動物なのだ。


必ず、その表情には表と裏がある。

どちらも、嘘ではない。


赤ん坊を育てるとき、誰もが笑顔で動物をあやす。

動物もなつき、呼べば寄ってくるようになる。


餌を与え、ブラッシングをし、病気になれば看病し、親よりも頼りになる養護者であり続ける。


首を締め、肉とする、その日までは、である。


そういうことは、ダウンタウンでは少なくない。


子供好きのおじさんと思っていたら、器量のいい子供を盗み、売り飛ばす人買いだったり、中には本当に食肉にする鬼畜も存在する。


子供のうちは可愛がり、女になった瞬間に襲いかかる女郎屋もあれば、子供の臓器が薬や魔術の道具であったりもする。


カイは、ダウンタウンの腐った裏側を、良く見ていた。


ドリーさんが、俺を本気で倒しにきた…。


ありがたいことなのだが、可能なら、そうなる前に倒したかった。





ドリーは、剣を構えた。


飛んできたヨーヨーは、変化する前に叩く。

そうすれば、最低限、ヨーヨーに傷をつけられるはずだ。


運が良ければ、割れる可能性もある。


まず、相手の武器から潰す。

ドリーらしい地道な作戦だった。


動きを止めて、ヨーヨーを見極めようとしている。


カイは、どうしたものか、と動きを止めた。


ヨーヨーに限らず、飛び道具は、動いている相手に合わせた方が当てやすい。


無論、練習では動かぬ的を百発百中で当てる力がカイにはあったが、剣を構えている相手、となると見られるほどやりにくいのだ。


相手は、ヨーヨーそのものを狙っている。


無論、カイのヨーヨーは、簡単に切れる物ではないが、時にどんな固い金属もタイミングで欠けたりヒビが入る事がある。

するとコントロールが狂うし、同時にカイの計算も狂うのだ。


少し、珍しい技を使うか…。


カイは、高くヨーヨーを上に投げた。


ぬっ、とドリーは、微かに動揺した。


もう一つのヨーヨーがカイの手元にあるし、かといって、己の頭上に高々と上がった鉄球を見過ごしにもできない。


ドリーが戸惑った瞬間、カイの左腕がしなり、ヨーヨーがドリーに向けて、発射された。


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