スペルランカー2

カイとドリー

カイは、コインを手にした。

このコインを投げれば、全てが決まる。

カイと戦わない方が、フロルと戦うのだ。

カイの心は既に決まっていた。

どちらでも、いい。

どっちだとしても、俺は勝てる！

カイは、コインを高く放った。

弧を描き、コインが緑の芝に、ボトンと落ちた。

国旗が見えていた…。

「決定ね！

カイとドリー・ラワンの戦いよ！」

「そして第二戦は一年生同士の戦い。

チェコ君とフロルちゃん。

どちらも有名人だから、みんな、知ってるわね！」

キャサリーンに煽られ、会場は燃えた。

「おー、初めて二番目だよ！

頑張れよ、カイ！」

チェコは励ましたが、カイは、もう戦いの中にいるように目をギラつかせて、

「必ず倒す…！」

ほとんど殺気を己の内部に高めていた。

「ちょっと入れ込みすぎじゃねーか？」

タランは危惧した。

「まー、決勝なのですから仕方ありませんわ」

とブリトニー。

「思いっきり、やってらっしゃい！」

とカイの背中を、やや強すぎるほどにバンと叩いたが、カイは気がつかない様子だった。

カイは、入れ込んだまま、芝生の中央、戦いの場に進んでいった。

「やれやれ。

あれは硬すぎるぜ」

タランは心配する。

フロルは、既にチェコとの戦いに思いを馳せていた。

「俺だって、もードキドキだよ。

カイがああなるのは仕方ないよ」

チェコも、平静を装ってはいるが、かなり興奮しているのが自分でも判った。

なんと言っても勝てばアフマンと戦えるのだ。

六年最強のアフマンに勝とうとまでは思ってはいないが、ぜひ対戦キップは手に入れたかった。

カイは、ドリーと対面した。

六年でも強い剣士は次々倒れ、ドリー・ラワンが勝ち残った。

基本に忠実な戦士であり、飛び抜けたところがある、というよりは穴のない戦士だった。

カイとは真逆、と言ってもいい。

カイは、イエガー先輩の下にはついていたが、剣は諦め、ヨーヨーで勝ち抜いている。

一応の基本は、丁寧に教えてもらったが、無論、目の前のドリーを指して言う基本と、カイが始めに教わった基本では、全く意味が違う。

カイが足運びや剣の振り方を教わったのに比べて、ドリーは戦いの全てを基本を崩さずにしてのけ、勝利する、そういう基本だ。

カイが穴堀りだとしたら、ドリーはそこに土台を作り、梁を建て、大きな城を作り上げている。

基本の意味が違っていた。

だが、動きだけなら、俺にも判るはずだ。

ドリーの試合は見ていたが、カイも理解は出来る。

ただし、そのドリーがヨーヨー使いと、どう戦うのか、は推測の域を越えていた。

ドリーは幸か不幸か、主に剣士と戦い、勝って来ていた。

無論、あれだけの剣術使い、飛び道具を弾くなり、避けるなり、は容易いのだろうが、実際にカイの技が勝るのか、劣るのかは想像できなかった。

一発、入れば…。

カイは、そう考えるだけだ。

ドリーは、口を一文字に結んで、ただ、立っていた。

考えていることは、ここまで来れば、みな同じだった。

勝ちたい…。

それ以外であるわけがない。

審判が歩み、

「試合開始！」

と片手を上げた。

同時に、弾けるようにドリーは斜めに走った。

止まっていれば格好のヨーヨーの餌食だ、と考えたのだろう。

警戒されている！

それはカイにとっては、いい兆候だった。

カイも追うように走りだし、まずドリーの頭にヨーヨーを放った。

ドリーは、剣の刃を守るためか、剣の鞘を取り外し、それでヨーヨーを防いだ。

が、ヨーヨーは鞘に当たらず、不意に下に落ちた。

ドリーの腹部に、ヨーヨーは当たった。

だが、ドリーの鎧は、腹から腰にかけて、頑強に守られていた。

ガツンと大きな音がしたが、ヨーヨーはカイの手に戻る。

カイは間をおかずに、連続して両手でヨーヨーを投げた。

ヨーヨーは、大きく弧を描きながら、左右からドリーの頭部を襲う。

ドリーは後ろに、跳んだ。

右手のヨーヨーは、直角に近く曲がって、背後に下がったドリーを追尾した。

左手のヨーヨーは、そのまま跳び去る前のドリーの軌道に沿って走ったが、ドリーの前で、急激に折れ、正面を襲った。

と…。

ドリーは、剣の鞘を正面にして、カイに突っ込んできた。

きたか…。

剣使いであれば、接近してくるのは必定、特に基本に忠実なドリーであれば、どこかで攻めてくるのは判りきっていた。

カイは左手のヨーヨーを引き戻す。

ドリーの眼光が鋭くなった。

剣の間合いに入れば、即座に攻めてくるだろう。

カイはヨーヨーを手のひらに戻し、ドリーの攻撃に備えた。

一発当てれば…。

それがカイの勝算だ。

だが、その前に、ドリーは正攻法の、優れた剣士だった。

鞘を左手に持ち、ドリーはカイの真正面に突進して行く。

ぱ、ドリーはカイに向かって、鞘を投げた。

しまった…！

カイは、ドリーの鞘に目隠しされた格好だ。

目は、どうしても接近してくる鞘を見てしまう。

だが、その背後に隠れて、ドリーは精密機械のように、一瞬で剣を頭上に掲げ、カイに向かって振り下ろす。

鞘が、バリンと割れた。

手応えが、ない…！

ドリーは驚いていた。

カイは、鞘の影から、姿を消していた。