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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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コイントス

決勝五人が決まった。


チェコ、カイ、フロルが名を連ねていた。


後の二人は順当に六年であり、一人はアフマンだ。

もう一人は、子爵家のドリー・ラワンという名門の男子だった。


派手さは無いが基本に忠実な剣士で、寝技も得意な、ある意味泥臭い戦いをする、しぶとい人だった。


「皆さん、今日はありがとう。

本当に良い試合ばかりでした」


と芝生に立って拡声器カードに声を張り上げるのは、この学園の校長である白髪の伯爵、カーマイン三世だった。


「特に一年生の頑張りは特筆に値します。

それぞれ、タイプの違う三人ですが、みな、とても能力の高い戦士なのは明らかです」


チェコたちは、ソワソワと校長の話を聞く。


「また、今日は破れましたが、高い能力を示した生徒もたくさんいました。

しかし、これが最後ではない。

次の機会があります。

今日勝った人たちも、負けたみなも研鑽を怠らず、己を高めてください」


チェコは自分が誉められなかったのでガッカリした。

が、まあ片手剣の本当の威力を披露するのは、残念ながらこういう衆人環視の場ではない。


確実に相手を仕留めて、誰も目撃者がいないときなのだ。


「さて、これより、最終対決になります!」


チェコは、もう終わりか、と思っていたので、おお、と観衆と共に沸いた。


「最終対決は、アフマンをシードとして、四人が戦い、勝った二人とアフマンはそれぞれ戦い、決着をつけます!」


もしかすると、くじ運次第では、チェコにも勝ち目があるのかもしれない戦いだった。


アフマンは二戦するので、最初の戦いで疲弊すれば、もしかすると最後の相手となったチェコにも、勝ち目はあるかもしれないのだ。


「それでは最初に戦う四人は集まって」


とキャサリーンが芝生にチェコたちを集める。


「このコインを投げるわよ。

同じ面が出た二人が戦う。

いいわね?」


チェコたちは唾を飲みながら頷いた。


ドリーも嫌だが、フロルやカイと戦うのも気持ち的には乗らない。

互いに剣を交えるのは良いが、この場では勝ちに大きな意味が出てしまう。

かといって、手を抜く気は、チェコには全く無かった。


優勝までは、さすがに狙えないにしても、アフマンとは戦ってみたかった。

学園最強、とはどれだけのものなのか、それを知りたい。

一年のチェコがアフマンと戦う機会を得るのは、もしかしたらこれが最後かも知れなかった。


チェコはコインを受け取り、高々と上に投げた。


コインは乱回転しながら、芝にトスンと吸い込まれた。


何代か前の国王の肖像の面だった。


「表ね」


とキャサリーン。


次にドリー・ラワンがポトリと落とすように投げた。


ヴァルダヴァ候国の紋章が描かれていた。


「裏よ」


カイとフロルは視線を交わした。


どちらかがチェコになり、どちらかは六年のドリーになる、と決定したのだ。


キャサリーンも判っていて、


「さあ、どちらから投げる?」


と二人に聞いた。


チェコは同じ一年だが、山で戦争を経験し、何人も殺した山の英雄だ。

六年も、ジーク、クアラムという実力者を下してここに立っている。


だが一方のドリーも、徹底的に基本に忠実な、つまり隙の無い剣術家で、格闘技も相当の技量だ。


色々波乱のあった武道大会だったが、決勝まで残っているのだ、もちろん強いに決まっていた。


だが、フロルはチェコと戦いたかった。


優しいチェコは、練習では本気を出してはくれないだろう。


本気のチェコを見るとしたら、まさに、この決勝しかない。


今はまだ、フワリとした子供の顔をしたチェコだが、戦いになると、時折、山の英雄の素顔を見せることがある。

たぶんフロルの髪を酸っぱくさせるのは、その獣の表情だ。

たぶん…、今なら、フロルはいつチェコが好きになったのか、言うこともできる。

ブルー兄の顎を砕いた日、フロルは二階の窓から、偶然に彼を見たのだ。


あの目。


あれは、おそらく、野生の狼の目だ。

魔力のこもった、本当の戦士の瞳…。


フロルは、そのチェコの目を、間近で見たかった。

それに…。


負けたにしても、フロルはチェコと二人だけの時間を共有したことになる。




カイは、目を瞑って考えた。


どちらなら、勝てるのか…。


従者から生徒に出世したカイには、勲章が必要だった。

今の勲章も、もちろん小さくはないが、優勝なら…。


それは無理にしても、準優勝なら、カイは大きな勲章を得ることになる。


パトリックと同じ制服で学校に行き、同じ食卓についてはいても、カイは、無論、他の使用人と同じ様に屋根裏に寝ている。


一人部屋には移され、待遇は良くなったが、同格だった使用人には白い目で見られている。


無論、貧民窟に比べたら、そんなことはなんでもないのだが、これから、カイが独立して生きていくためにも、勲章はいくつあっても良かった。


そしてドリーとチェコを比べたとき、実戦経験のあるチェコのしぶとさは目を見張るものがある。


俺のヨーヨーが一発…。


カイは、目を開けて空を見上げた。


高い空に、真っ白い雲が輝いていた。


一発、俺のヨーヨーが急所に入れば、チェコもドリーも倒れるだろう…。


まだ、カイは、ヨーヨーの技をほとんど見せていなかった。

だから、たぶん二人のどちらにでも、どういう展開になったとしても、一発、入れることはできる。


二人とも、急所に入れば、倒れるだろう。


問題は…。


そこから立ち上がるのはどちらから、と言うことだ。


実戦に磨かれたチェコか?


基本を体に叩き込んだドリーか?


まあいい。


カイは、考えた。


立ち上がったら、二発目が入るだけだ。


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