変則剣
一年が六年のジークを破ったのは、むろん一年生たちの興奮を勝ち取った。
「こいつめ、やりやがって!」
とタランは興奮してチェコをヘッドロックした。
ブリトニーも大喜びだが、カイとフロルは、むしろ緊張してしまったようだ。
「いや、一年だから勝てなくて当然、と思ってたんだが、チェコは勝つんだからな…」
カイの顔色は血の気が失せて、白い。
六年のタロツと四年のアロの戦いは、終始六年がリードし、勝ち切った。
そしてカイの相手は、三年のバァドだった。
「強いが、まだ三年だ。
勝ち目は、きっとある」
タランは無責任に言うが、三年は、まだまだ小柄とは言え、体の骨格は、一年とは全く違う。
身長も頭二つ分は高いが、それよりも全身を覆った筋肉量が、天と地ほど違うのだ。
それは、スピードや力と、直結する。
バァドは、カイより早く、強い。
それは物理的な現実だった。
ただし、カイとバァドは、似たような勝ち残りかたをしていた。
人とは違う武器を使い、勝ったと言うことだ。
すなわち、テクニックの勝負になれば、一概に三年だからバァドが上、とはいえなかった。
だが、戦いのメンタルは全く違っていた。
バァドは、一年相手、とやや安堵の余裕が体全体からにじみ出ていた。
一方のカイは、前から青ざめていたが、相手がバァドと知って、より戸惑った。
相手は、針のような、曲がる俊速剣の使い手であり、怒涛の連続攻撃を繰り出す相手だ。
早ければ、一撃で戦いが終わる可能性もあった。
バァドの剣は、開始と共に素早い突きを放ち、逃げればどんどん踏み込んでいく。
攻められれば敏捷に避け、剣を弾けば、軌道を曲げた突きを放つ。
全てが俊敏であり、今まで全ての戦いは短時間で決着していた。
バァドの剣は独特で、まるで大きな針だ。
無論試合なので先にカバーをつけているが、実剣である。
木刀では、この動きは出せないための処置だが、製造法に秘密でもあるのか、バァドの意のままに自在に曲がる。
横に交わした、かに思えた対戦相手の脇腹を突いたり、一度は背中を襲った事もあった。
カイは、唸るようにバァドを睨むが、肌は真っ青だ。
この逃げても追いかけてくる剣を交わさない限り、いかにヨーヨーの名人でも、太刀打ちがかなわない。
だが連続攻撃と追尾能力により、バァドの剣は、今まで誰も交わし得なかった剣なのだ。
カイが、動かない体を無理に進ませ、相手の前に立つと、
「試合開始!」
号令がかかった。
同時にバァドは右足を大きく踏み出し、鋭い突きを放った。
カン!
カイは、ヨーヨー使いのため、今まで素手で戦っていたが、今回は手の甲までを守る手甲をつけていた。
それが、バァドの剣を弾いた。
が、弾かれてからがバァドの剣の本領と言っても言い。
空中でクニャリと曲がった剣は、鎌首をもたげた蛇のように、左に曲がりながら、即座にカイの横部を狙う。
カイは、ヨーヨーを放った。
バァドの顔面に飛んだヨーヨーだが、バァドはなお一歩踏み込む事で、カイのヨーヨーを交わした。
カイは、走った。
剣は基本摺り足であり、あまり走ることは無いが、それでは確かに、バァドの攻撃は思いのままだ。
バァドは、予想外の相手の動きに舌打ちし、カイを追って走る。
「ねぇ…!」
チェコが興奮する。
「今、あの剣、短くならなかった?」
フロルやタランは首を傾げるが、ブリトニーは、
「私にも、そう見えましたわ!」
「どう言うことだよ?」
タランの問いに、チェコは、
「ほら、正面からと、同じ長さの剣が、横から相手を突けるわけ無いだろ?
あの剣は、柄に仕掛けがあって、自由に延びるんだよ!
だから、一度の攻撃で何度も突きを打てるんだ!」
一瞬の攻撃なので判らないが、今、カイが走って逃げたことで、剣が遊び、チェコは剣が柄に収まる瞬間が見えたのだ。
「でも、だから反則というわけでもないし…」
とフロルは困惑する。
ヨーヨーだって長さの変わる武器だし、戦いである以上、剣を投げようが、伸ばそうが、それは武器の特性に過ぎない。
「でも、延びるのが判れば、およそ攻めてくる方向が判るじゃない」
確かに、自在に曲がる剣が、横や背後を襲うから戸惑うが、大きく伸ばせば背後、少しなら横、などが目算できるなら、戦いはかなり楽にはなる。
回避不能の魔法剣ではない、となれば、難しいものの戦いの糸口は掴める可能性があった。
カイは、走りながらヨーヨーを放つ。
ほぼ真後ろへの攻撃だったが、バァドの顔に見事にコントロールされた攻撃だ。
が、バァドはヨーヨーを剣で弾いた。
カイは、体を横倒しに倒れながら、もう片手のヨーヨーを投げた。
バァドはヨーヨーを横から弾こうとするが。
ヨーヨーが不意に上に跳ね上がった。




