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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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スペルランカー

カイの対戦相手は、四年のエンクだった。

先がハンマーのようになった槍使いで、テクニシャンだった。


カイもヨーヨー使いだったから、かなり変わった戦いになりそうだった。


エンクの槍は、重いハンマーに揺られてしなる。


この、しなりが、不測の動きを生み、またエンクの幅の広い、固太りの体型が、しなりを読みきった人間凶器となって、対戦相手を幻惑した。


エンクの鎧には大量のトゲがついていて、兜も腕当ても、武術の達人でもあるエンクの強力な武器だった。


到底、エンクは、チェコがイシに仕掛けたような膝十字固めなど不可能な形だった。


また、エンクは裸で組み合う相撲でもチャンピオンであり、六年でも、弾丸のようにぶつかってくるエンクに、皆、吹き飛ばされた。


またレスリングでも、多彩な関節技を操り、逆にエンクに技を決めようとしても、腕力だけで持ち上げられ、投げ捨てられた。


しなるハンマー槍は、だから武器というよりは、エンク得意の相撲やレスリングに持ち込む道具、の意味合いが大きかった。


とはいえ、人の頭を三つ並べたほどの巨大ハンマーを誰も無視することはできない。


対戦相手は、ハンマーに吹き飛ばされるか、ハンマーを交わしてエンクの肉弾戦に散るかの二択だった。


ククク…、とエンクは笑い。


「六年の優勝候補は壊滅、五年のイシは山の英雄に倒された…」


目をギラつかせて、エンクは笑った。


「ヨーヨー使い、か?

確かに戦った事の無い相手だが、俺にそんな小さな物が通用するかな?

次に当たる事があるなら、倍の大きさにするのだな」


確かに。

全てが大きいエンクに比べると、カイは小さく、ヨーヨーもカイの拳に収まる大きさだった。


格闘技の鬼であるエンクに、カイは拳に隠れる武器だけで挑もうとしていた…。


だが、カイは微かな勝算を抱いていた。


相撲やレスリングには、出てはいけないフィールドがある…。

だが、この武道大会は、限度はあるにしても、広い芝の上の勝負だ。


広さをうまく使えれば、おそらくエンクは小回りは不得意なのではないか…?


「試合開始!」


審判の号令と共に、カイは低く走った。


エンクは、大きなハンマーを肩に担いだまま、ずしり、と前進する。


カイのヨーヨーは、チェーンの長さを変えられる。


遠距離から投げることも可能だったが、おそらくエンクには効かないだろう。


最悪、狂暴なハンマーでヨーヨーに傷でもつけられたら、カイの痛手の方が大きい。


カイは、右側に回る、と見せかけ、左に急角度に曲がった。


エンクの体は右を向いた。


が…。


ハンマーが、カイの背後に撃ち落とされた。


よし、落ちたな…!


カイは、ほくそ笑む。


が。


ハンマーは、芝を捲って、飛び上がった!


しまった、しなる槍か!


エンクは、わざと地面にバウンドさせ、カイの隙を作ったのだ。


方向転換を図ったカイが見たのは、ハンマーの回転を利用し、空中でエンクが向きを変える情景だった。


巨体だが…。


このハンマーであれば、エンクは一瞬で向きを変えられるのか…。


唸りを上げて、ハンマーがカイの背後を襲う。


カイは、地面を蹴って、エンクの懐に飛び込んだ。





見ていたチェコが悲鳴を上げる。


「駄目だよ、エンクは格闘技のチャンピオンだよ!」


タランは、


「いや、面白いかも知れない。

エンクはカイほど小柄な相手と戦うことは無いだろうしな」


小柄は、非力ではあったが、肉弾戦で不利なだけではない。

捕まえにくく、すばしこい。


しかも、カイにはヨーヨーという毒針も持っているのだ。





エンクの巨大な手のひらが、カイの顔面に迫る。


エンクは関節技の天才であり、捕まったら六年でも逃げ出せない。


(確かに、六年では逃げられないな…)


カイは呟き、巨大な親指にヨーヨーを巻き付けると、ひらり、とエンクの胸に飛んだ。


エンクが、ニヤリ、と笑った。


カイの革のブーツがエンクの頬を蹴る。


が、その蹴りはダメージを与えるための蹴りではない。


跳ね返り、左脇に向きを変えるための蹴りだった。


が、相撲の名手でもあるエンクは、鋭い膝蹴りをカイに撃ち込んだ。


カイは、得意のスライディングでエンクの足の下を滑り抜け、ヨーヨーを放った。


鎧の、上着と腰当ての隙間。


背骨を狙った一撃だった。


だが。


カイは、手応えで、攻撃の失敗を理解した。


エンクには、分厚い筋肉が背骨を守っていたのだ。


相当の修練を積んでも、この部分を筋肉が覆うことは難しいのだが、おそらく、血統的にもエンクは筋肉に恵まれた体格だったのだろう。


だが、背骨の後ろが人体の急所の一つ、な事には変わらない。


そこを攻められたエンクは、怒りの声を上げた。


あらんかぎりの力でハンマーを振り、その回転で背中は一瞬で正面に入れ替わる。


(バカげた体力馬鹿だぜ…)


カイも呆れた。


この巨体で、こうも素早く動かれたら、カイの小回りも完璧に潰されてしまう。


「潰してくれるっ!」


エンクはハンマーを、カイの頭に撃ち落とした!


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