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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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ハサミ男

フロル・エネルの対戦相手は、四年だが、好んでフロルが近づかないような太ったボサボサ頭の男だった。


恐らくは、男同士で喧嘩をしている方が、女子と歓談するより好きなタイプなのだろう。


近づくと、男臭い匂いが、ツン、と鼻につく。


無論、本当の戦いの場であれば、何日も体など洗わないのも当たり前だし、フロルとて、そんなものに何のこだわりもない。


ただ、男の、フロルを撫でまわすような視線は、不快だった。


だが、無論、それは剣でお返しすることになる。


「試合開始!」


号令と共に、男はなんと、巨大なハサミを左右に広げて、フロルに突進してきた。


武器は、戦場では、勝てさえすれば、特に形も流派も問わない。

特に、状況によっては、槍は不向き、とか、脆い剣ではすぐ壊れてしまう、など戦場は千差万別なものだ。


巨大バサミが有用な状況があるのかどうか、判らなかったが、しかし、フロルの細身の剣は、分厚い鉄の塊には苦戦しそうだ。


剣で防ぐにも、へし折られそうだし、四年の体力で体に当たれば、鎧を着ていても、潰されてしまいそうに思える。


筋肉質で硬太りの大柄な体型も相まって、巨大ハサミは、とてつもない驚異に感じる。


突進してきたハサミ男を回転受け身で交わし、フロルは男の側面を突いた。


男は、ハサミをジャキンと閉じながら、体をひねる。


閉じたハサミも、頑強な鉄の棍棒と思うと、迂闊に剣で受けることは躊躇われる。


足を攻めよう…。


男の機動力を封じてしまえば、ハサミの脅威も半減する。


フロルは低く踏み込んで、男の関節部を強く叩いた。


「うおぅ!」


と、男は叫ぶが、フロルは男の背後に回り込む。


正面からの戦いは、武器の差もあり、部が悪い。


いかに死角からの攻撃が出来るか、が勝敗を分けるだろう。


男は、フロルに打たれた膝裏を気にしつつ、巨大ハサミを振り回した。


そうか…。


フロルは気がついた。


巨大ハサミは、重く、扱いも煩雑なため、男の力をもってしても、雑に、力一杯振り回すのが精一杯になってしまう。


それならば、相手をたくさん動かし、どんどんハサミを振り回させれば、振りも鈍くなり、フロルの攻撃も通りやすくなるだろう。


乱雑に振った男の一撃を交わし、フロルは男の脇腹に正確な突きを入れる。


そのまま背後に回り、背中の鎧と腰当の間に、また突きを入れた。


男は怒り、


「ちょこまかと!」


野太い声で叫びながら、斜めにハサミを振り下ろす。

が、フロルは背後に跳んで、これを交わした。


あえて正面に逃げたのだ。


ただ棍棒のように使うより、ハサミを広げれば、余計に腕の筋力を使うことになる。


相手が疲れれば疲れるほど、フロルには有利だった。


フロルがあえて、剣を構えると、男は再び、ハサミを開いた。


フロルが剣を振りかぶると、男はフロルに向かって突進した。


そこでフロルは横に跳び、男の側面を突く。


今度は、小手からはみ出した、腕の裏側に、下から切っ先を切り上げる。


狙いたがわず、男は痛みで、ハサミを放してしまう。


そのままフロルは、男の顔に突きを入れる。


が、男はハサミを放り出し、フロルに抱きつこうとした。


無論、組つくのは正当な戦術だが、男の目はいやらしい思惑でギラついていた。


…しかし、私とて小娘ではない…!


不細工が、猥褻な眼差しで組み付いて来たとしても、悲鳴を上げて逃げ回るような無様は、貴族の女として、できなかった。


フロルは冷静に、飛び込んでくる男の眉間に、木刀を突き入れた。


真剣ならば、男は即死なはずだ。


が、木刀なので、剣は眉間に入ってはいるが、男はパワーと体重でフロルを押し退けていく。


下賤な…!


フロルは、歌壇でも名を上げる英才だったが、十三で大人顔負けの詩作をするのは、単に資質だけの問題ではない。


負けず嫌いなのだ。


そして、こういう、力で男をごり押ししてくる輩は、胸が悪くなる。


フロルは剣を捨てると、男の首宛を持ち、そのまま地面に叩きつけた。


抱え投げ、と言えばいえるが、かなり強引な技である。


が、下手に腕をとったりすれば、男の腕力に勝てないのは明らかだった。


男は、首を押さえられていたため、受け身がとれずに、失神した。


チェコたちは、熱狂して喜んでいる。


フロルは兜を脱ぎ、長い黒髪を、さらり、と影にほぐして、捨てた剣を拾うと、スタスタ自陣に帰っていった。


一年が三回戦に三人登場するのは、前代未聞だった。


「山の英雄にヨーヨー使い、そして詩姫か…。

それぞれ、手強いな」


五年、六年はささやくが、しかし、どちらにしろ、上級生と当たるよりは、一年の方がマシに決まっていた。


勝ち残った全ての選手は、一年に当たるよう、祈っていた。


一方のチェコたちは、踊り出すようにお互いの健闘を称えていた。


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