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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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カイの戦い



ブリトニーの突進は、五年生には受け止められ、十五分の善戦の末に、へとへとになってブリトニーは倒れた。


「ちょっと体重オーバーよ」


フロルは無表情に語るが、ブリトニーは、


「いいえ!

あと十キロ重かったら、あんな男子、弾き飛ばしていたわ!」


と増量を心に誓った。


カイが向き合ったのは、二年で唯一勝利した、天才と謳われた少年ユリヤだった。


ユリヤは、特に大柄ではない。

一年でもタランよりも、少し大きいぐらいだ。


ユリヤは、その完成されたテクニックと運動神経で天才の名を欲しいままにしていたのだ。

去年は、ベスト六であり、大会には出れなかったが、控えで王宮には上がっていた。


「君の試合は見ていたよ。

悪くない動きだった」


涼しく語る。


カイは、ただ頭を下げた。


試合前の舌戦等は、控えたかった。


「ただ、君は何かを隠しているね。

秘密兵器を持っているだろ?

僕相手なら、使えるものは、全て使った方がいいよ」


読まれていたらしい。


それなら、思う戦いをするまでだ。


カイは、思い定めた。


「試合開始!」


審判の掛け声と共に、カイはヨーヨーをユリヤに撃ち込んだ。


ほう、とユリヤは、薄く笑った。


剣の柄で、ヨーヨーを弾く。


やはり…。


鉄の薄い板である剣は、容易に歯こぼれを起こす。


気にしないで打ち合うパワーファイターもいるが、おそらく、天才と謳われたユリヤは繊細なタッチを好むのではないか…、とカイは考えていた。


そして…。


そういうものに、ヨーヨーは多彩なテクニックを誇るのだ。


ユリヤが柄で弾こうとしたヨーヨーが、ユリヤの手に向かって、柄を走り登った。


ヨーヨーは、空回りをさせることで、こうした技がいくつも使える武器なのだ!


ユリヤは横に数歩、走るようにヨーヨーを逃れた。


そこに…。


カイの左手から伸びた第二のヨーヨーが、三メートル以上伸びて、カイの顔面を脅かす。


一度、柄走りを見せられていたユリヤは、鎧の肘でヨーヨーを弾いた。


が…。


変化球、等という概念の無い中世の世界で、ヨーヨーだけはカイの手元で、鮮やかに曲がった。


左手からの、カットボール気味の横変化だった。


無論、指のタッチではなく、糸の操作で、繊細な変化が可能になる。


ユリヤが剣の天才であったらなら、カイのヨーヨーの技術もまた天才の域に達していたかもしれない。


ヨーヨーは、ユリヤの腕に巻き付いた。


さすがに天才の顔に狼狽が走った。


「こんなもの、糸を切れば!」


片手で剣をうち下ろすが、糸は剣を受け止めた。


「戦闘用のヨーヨーですよ。

鉄を編んだワイヤーです」


語ったときには、右手のヨーヨーがユリヤの太ももに突き刺さる。


鎧は、防御と共に動きやすさを追求しなければならず、特に天才剣師の足の鎧は、股関と関節から下を金属で覆っていた。


太ももは、薄く綿を縫い込んだタイツだ。


そして、ヨーヨーは鋼鉄で作られており、重さが二キロあった。


ユリヤが痛みを飲み込んだのは、天才としての矜持だろうか。


呻くユリヤの太ももから、ヨーヨーは素早くカイの手に戻り、糸で片手を塞がれたユリヤの顔に、ヨーヨーは鞭のように突き刺さった。


が、ユリヤは高速の鉄塊を、剣の柄頭で叩いた。


と、同時に、ユリヤはカイに走り寄る。


太ももへ打撃は食らっていたが、ユリヤとて、無傷で天才を名乗るような男ではなかった。


この程度の痛みなど、奥歯で噛み殺し、全力疾走ぐらいはする。


「なめるなよ!」


組み付けば、ヨーヨーなど無力だった。

そして、天才ユリヤ・ウェーバーは、無論、寝技、投げ技、打撃も天才だからこその天才の誉れなのだ!


突進するユリヤの足元を、カイが滑った。


…しまった…、

こいつ、これは得意だった…。


一回戦も、スライディングからの足切りでカイは勝ちを拾っていた。


しかし、あのときは剣での戦い。

今は、ヨーヨーの戦いだ。


たぶん…。


ユリヤは、背後からのヨーヨーの打撃を想像した。


が…。


足に激痛が走る。


カイは、腰に指していた木刀を、抜き切りに切っていたのだ。


居合い…。


それは、新しいテクニックと思う人が多いが、実は現在の両手剣の確立より、ずっと以前からあるテクニックだった。


当時、槍や長柄を付けた長剣が主流だった時代、剣とは、このように不意打ちに放たれるものだったのだ。


「勝利、カイ!」


天才ユリヤが一年に倒されたことに、会場は静まり返った。


チェコたちだけが、ギャーと叫び、喜び合った。


やがて会場からも、カイを称える拍手が沸き上がってきた。


よし…。


カイは小さく拳を握って、会場に一礼した。


「やったね、カイ!」


とチェコははしゃぐが、フロル・エネルは、やや緊張して唇を舐めた。

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