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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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勝利

勝った!


その喜びは、デュエルより大きいかもしれない。


ドラルは最初、唖然とした顔でチェコを見ていたが。


「そうか。

君は本当に戦争に行ったんだもんな。

油断だったよ」


確かに…。


最後に、チェコの剣を交わしながら回転して打つ、技は頂けなかった。


「戦争では、スペルカードでしか戦ってなかったんです…」


チェコは、自分でも驚くほど正直に語っていた。


「だから、本当に怖かったんです…」


ドラルは一瞬、チェコを見つめ、笑いだした。


「怖かった、か。

恐らく、それが俺に足りていなかったんだな」


ドラルは手をだし、チェコは、ドラルを立ち上がらせようとしたが、鎧を着た男は、ことのほか重く、持ち上がらなかった。


ドラルは自力で立ち上がり、チェコの肩を叩いて。


「いい成績を残してくれよ」


と言って、青の入り口に帰っていった。




次のブリトニーは二年の男子に圧勝した。


突進し、吹き飛ばしたのだ。


カイは三年生相手に苦戦した。


剣の上では負けていた、と言ってもいい。


攻撃は全て相手の剣に弾かれ、カイの攻撃を弾いた直後に襲ってくる剣に、カイは避けるのが精一杯だった。


カイが屈んで相手の剣を、また、交わした。


会場は一年の思わぬ避けっぷりに歓声が上がった。


三年生は、恐らく苛立った。


屈んだカイに体を回転させると、己の踵をカイの胴体に撃ち込んだ。


回転回し蹴り。


なかなか見ない大技だ。


カイは倒れ込むように横にスライディングし、剣を三年生の太ももに撃ち込んだ。


片方の足を使っていた三年生に、カイの剣を避ける術は無かった。




タランは二年生と互角の勝負をした。


相手の剣を弾いて、そのまま間合いを詰め、剣の柄で兜を殴打した。


よろけた二年生の肩口にタランの剣が打ち下ろされる。


だが…。


ふらり、と相手はよろけるようにタランの剣を避けた。


「え、今の、絶対避けられないよね?」


チェコは、叫んだ。


だが大きく振り下ろしたタランの隙に、相手の剣が背中を突いた。




「普通の避け方じゃ無かった…」


タランは唸った。


「まるで、二人に一瞬、分裂したかのようだった…」


釈然としない敗けを、タランは喫した。


最後にフロル・エネルが、黒い鎧に赤の剣を差して現れ、三年生の女子と戦った。


この女同士の戦いは熾烈を極め、激しい技の応酬だった。


ほとんど無呼吸の連続打撃を相手は続け、フロルは受け続けた。


「頑張れフロル!

もう、続かないぞ!」


チェコたちは柴の端に座って応援した。


敵の攻撃が限界に近いのは、チェコたちにも判った。

防いでいれば、きっと勝機が訪れる。


だが!


三年は、不意にフロルに抱きつくと、足をかけて、倒した。


武道大会では、現実の剣技と同様の戦いを旨とするので、組み付いて、寝技勝負に持ち込むのも反則ではない。


むしろ、鎧の結び目などは、そのために容易には外れないように水で濡らすのだ。


鎧兜を装着した同士の肉弾戦では、顔面など、ほんのわずかな隙間以外は打撃は通らない。


下手をすれば、己の手が傷ついてしまう。


小刀で鎧の隙間を刺すか、間接を狙うか、という勝負だ。


肩や肘、手首、足などの間接と並んで、本当の戦いでは股や尻も攻撃対象になる。


男の場合、前はしっかりガードしているが、動きを阻害するので、尻の防御は薄いのだ。


中世、男色も多かったが、一つに戦うものは、尻をも鍛えるためでもあった。


農村に育ったチェコは、この訓練は泣いて嫌がったが、しかし命がけなのだからしないわけにもいかない。


尻穴を攻撃されれば、耐えられなければ死、あるのみ、なのだ。


チェコたちは男子で集まって、寝技の授業も受け、男の弱点をヒーヒー言いながら習ったが、しかし…。


まさか女同士の寝技を、こんなに間近に見ることになるとは…!


一年だけでなく、会場じゅうが言葉を飲み込んだ。


鎧武者の寝技はエグいのだ。


鎧の隙間に手を入れようとし、股に手をかけようとし、上になり、下になり、首を狙い、また、ひっくり返った。


力は互角のようだった。


相手は、フロルの首を執拗に狙った。


鎧には首宛もあるのだが、寝技になれば、めくって指を突っ込む。


指二本入れば、相手の呼吸を阻害できる。


三年生の指が、フロルを攻める。


と、フロルはその手の甲を取り、ぐいと捻った。


きゃあ、と悲鳴を上げ、フロルは相手を肘折りの形に追い込んだ。


「勝者、フロル!」


だが十分に近い寝技の応酬に、フロルも大の字になって、息を荒げていた。





「よーし、一年で四人残ったね!」


チェコの声も弾む。


体力でも技術でも劣る一年が、四人も一回戦を勝ち抜くのは、とても珍しい事だった。


「しかし…」


とフロルは、まだ息を荒げながら、


「まさか寝技で来るとは思いませんでしたわ…」


黒いストレートヘアが、汗で濡れている。


「立ち技では不利だと思ったんだよ」


カイが、教えた。


「あれだけの連続打撃を受けきるとは、さすがのテクニックですわ!」


ブリトニーも興奮気味に語った。


「それもそうだし、寝技で三年に勝つなんて、フロル以外には不可能だよ!」


まず、男子では体力敗けをするだろうし、女子とは言え、大変なテクニシャンだ。


フロルはしかし、顔を赤くして、


「こんなに観衆の前で、恥ずかしかった…」


と涙ぐみ、ブリトニーに慰められた。





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