デュエル
チェコはパトスに呼んできてもらい、ブルーをキャサリーンに預けた。
「ふーん、貴族にしては歯並びの悪いやつね?」
チェコは、少し意図的に、ブルーを不細工にしていた。
それから、馬車で待っている老ヴィッキスにヒヨウを紹介すると、
「おお。
エルフの方が、坊っちゃまの従者になってくれるとは!
早速、衣装を整えましょう!」
と、町に馬車を走らせた。
採寸され、仕上がりを待つ間、春風亭に寄る。
「なるほど、デュエル用のデッキをどう組むか悩んでいるのか」
ふむ、とヒヨウはチェコの話を聞き、
「一つ作ろうとしても難しいだろう。
幾つか、おそらく使えない色のデッキも考えてみればどうだ?」
「え、使えないデッキ?」
「そうだ。
赤のデッキを組めば、赤の長所と短所が判る。
青や白も同じだ」
なるほど…。
ただ、組むだけなら、カードさえあればデッキは組める。
ベッドの上でカードを動かすぐらいなら、全く問題ないし、白は、いずれ教会へいくつもりではあった。
赤や青も、今、スペル無効化を使っている程度なら自分のデッキに投入を考えてもいい。
チェコは春風亭で、闇の消去やキノコになーれ、すんどめ、と共に火球や溶鉱炉、二度目の対象、カスバの僕、ミカも使っていた浮遊する壁、等を買って、ヒヨウの衣装が仕上がると屋敷に戻った。
ベッドの上で、チェコは唸りながらデッキを考える。
赤は、火球や雷を備え、溶鉱炉で召喚獣を再生させるデッキだ。
マイヤーメーカーは攻撃力のある戦車を使っていたが、チェコはブリキの兵士、を買ってみた。
二/二の兵士で、好きなときに赤のアースに変換できる。
アースを使うと、兵士は死んでしまうのだが、溶鉱炉で、同じ二/二の兵士トークンになる。
爆撃機という飛行召喚獣が五/五だったので、一枚投入した。
溶鉱炉を利用するデッキなので、他にいくつかの機械召喚獣を入れてみた。
また火走りやかんしゃく玉、軍事スペルかと思っていた地雷なども使えるようなので投入した。
「パトスは青のデッキを使って。
赤はりぃんね」
白のデッキも考えたのだが、カードが高すぎた。
一万リンを越えるようなカードもざらであり、天使などは小物でも十万近くするのだ。
チェコの全財産を、使えないカードに投資する訳にはいかなかった。
改めて自分のデッキを考える。
が、負けたらどう、とか考える必要はないので、まず気になっていた黄金蝶やしゃれこうべを並べ、闇と森の修験者を出し、雷やスペル無効化も使うデッキを組んでみた。
「じゃあ、やってみようか!」
チェコは張り切り、黄金蝶を出した。
「…スペル無効化…」
あっさり落とされる。
しゃれこうべ、は出せた。
チェコは、闇と森の修験者、を出してみる。
パトスは尾を振っている。
「…もう、終わりか…」
「うん、アースが無いからね…」
「…では、俺のターン…。
…いさな、を出す…」
いさな、は六/二という偏ったパワーバランスの魚だ。
絵から察するにサメのように見える。
海を見たことはないチェコだが、サメというのが獰猛な魚なのは知っていた。
パトスは、自分のデッキと聞いて、かなり思い切ったデッキを作ってきた。
「…忘れられた地平線…」
まずはこれを張り、自分は強力召喚獣で殴り勝とう、というデッキだ。
「スペル無効化!」
無論、チェコは落としに出る。
「スペル無効化!」
チェコの手をパトスは叩き落とした。
「くうっ、出ちゃったか!」
チェコは悔しがる。
「…ケケケ…、手の内は知ってる…」
パトスはご機嫌に尾を振り、
「終了…」
と宣言する。
チェコとしては、難しいカードを出された。
「よーし俺の番だな!
ハンザキ」
まずしゃれこうべと闇と森の修験者をタップしてハンザキを出す。
六アースで七/七は破格のオーバーパワーであり、再生もただの再生ではない。
本人が野生の生物をトレースしたからこその強さだ。
「そして黄金蝶!」
「…スペル無効化…!」
黄金蝶は、絶対阻止の構えらしい。
「以上」
「…俺は、ドレイクの召喚…!」
ドレイクは小型のドラゴンだ。
青にドラゴンはほとんどいないが、ドレイクは水棲なのかけっこうな数がいる。
パトスが召喚したのは、波打ち際のドレイク。
水に潜る、を選択する事で赤の火力をノーダメージにできる三/三の飛行召喚獣だった。
「くそう、雷で焼けないのか…」
単純だが、けっこうメンドクサイ召喚獣だ。
「以上…」
カードを守るため、アースは常に余らせておく。
飛行召喚獣が出ると、ハンザキでは、止められない。
チェコは、
「スズメバチ」
と自身も飛行召喚獣を出した。
パワーは二/二なのだが、毒の効果で、戦うと相手を殺す。
ドレイクの防御には充分な戦力だった。
「ハンザキで攻撃!」
忘れられた地平線があるにもかかわらず、チェコが攻撃を選択した。
「…ドレイクといさな、でブロック…!
…忘れられた地平線の効果で、ダメージは忘れられた地平線に流す…。
そしてダメージ九をハンザキに…!」
「ハンザキ再生。
そしてハンザキ二号再生!」
チェコはハンザキを、戦闘ダメージの度に二体に増やし、七体持っていたが、デュエルでは煩雑になるので再生体を二号と呼ぶことにしていた。
「…そう来るか…」
と、パトスは唸った。