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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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武術大会

チェコはりぃんを体に入れ、髪を伸ばして夜空を急いだ。


パトスが、臭いを追ってヒヨウや、ラクサク家の兵士を連れて走ってくる。


「なんでアフマン先輩まで襲われるんだ?」


チェコは疑問を爆発させるが、りぃんは、


「知ラナイ。

俺、帰リガケニ、上ヲ通ッタダケ!」


二軒ほどの豪邸上空を通過すると、アフマンは、壁を背に、五人の男と相対していた。


グレータが背中を切られたのは、アフマンもさすがに知っていた。


チェコは五人の背後に音もなく着地すると、小柄な一人に背後から切りかかった。


敵は五人なのだし、戦争を経験しているチェコに、卑怯等という騎士道精神は全く無い。


小柄、と言っても大人の男だったが、首をめがけて剣を横に振り抜くと、カーマ神の特訓の成果もあり、男は動脈を切断され、血を吹き上げて倒れた。


即死だった。


四人は。


こいつ! とチェコに剣を向けるが、包囲が解けたアフマンが一人と剣を交えた。


そこに、どこからか口笛の音がして、四人の男は即座に逃げ去った。


すぐにパトスたちが駆け寄ってきた。


「チェコ君か!

助かったよ」


アフマンもチェコの事は知っていた。


一年の内で一番のチビで、金髪で、山の英雄なのだから、そこに不思議は無かった。


「先輩。

こんな夜道を、どうして一人で?」


そこには、チェコならずとも疑問を感じる。


「ああ。

ちょっと女性とね…」


と、アフマンは言葉を濁した。

チェコも、いくらチビで田舎者でも、雰囲気は判った。

そして、未経験な分、取り乱した。


「あ、そ、そうなんですね…」


顔が赤くなる。


ヒヨウたちはパトスと、逃げた四人を追っていたが、敵は馬車を用意していた。


「…用意周到な…」


パトスは悔しがった。


アフマンは、


「俺が夜道を歩いていると、いきなり包囲されたんだ。

気配などは感じなかった」


とチェコたちに語り、すぐ近くの実家に帰った。


「この辺、お屋敷街だから人目が無いんだよね」


チェコは周囲を見回すが、こんもり木の繁った庭園が多く、チェコたちが騒いでも、誰も気づかない様子だった。


ヒヨウは、チェコが討ち取った男を調べる。


「特に、身分が判るような物は身に付けていないな。

剣も市販の安物だし、衣服はダウンタウンで揃えたのだろう、雑な品だ」


もし返り討ちにあったときの事も考え、しかも逃げ足まで用意していた。


「だけど、何の意味があって学生を襲うんだろ?」


大人なら仕事の恨み、とか色々あるかもしれないが、チェコたちは武術大会があるくらいで、それも、ドリュグ聖学院の内部大会に過ぎない。


「チェコ、相手に何か特徴は無かったのか?」


兵士は聞くが、成績優秀なアフマンも見落とすことを、チェコが記憶するはずもなかった。


憲兵が呼ばれ、遺体は引き渡された。





翌日は、明日に控えた武術大会のため、清掃や飾りつけが行われた。


貴族学校なので、おおむね外注の業者が行うのだが、生徒も、自分の使う武具は磨き、革にはワックスを塗って見苦しくないようにする。


「しかし、グレータ先輩とアフマン先輩が襲われた、となると、やはり優勝を狙っての闇討ちなんだろうな」


アドスは結論付けた。


「でも、優勝したらなんだって言うのさ?」


チェコは聞いた。


「いやいや。

貴族であれば、優勝はやはり箔がつくだろう」


レンヌは軍の紋章の入った胴当てを念入りに磨きながら、アドスに同意する。


「頭のよいアフマン先輩は、およそ察して、決勝では勝ちを譲る可能性もあるぞ」


とタラン。


「あの人は大学に進み、文官になるのだから準優勝でも充分なはずだしな」


「ということは、武官を目指す人が犯人って事?」


チェコは聞いた。


「まー百パーセントとは言えないけれど、ある話だね。

優勝の二文字がついたら、士官の階級も一つくらい上がるかもしれない」


と、パトリック。


「どうかな?」


と反対意見を述べるのはカイだ。


「たぶん秋にはコクライノ武術大会が王宮で開催される。

この大会は、そのメンバー選考を兼ねているはずだ。

つまり、自分より強い相手を蹴落として、今は勝てても、王宮で負けたのでは元も子もない」


「へぇ、秋に王宮で大会をするんだ!」


チェコは驚いた。


「まあ、メインは大人の戦いだが、昼の部では学校対抗の戦いもある。

メンバー五人と控え二人を選ぶのが今回の武術大会の目的だ」


タランは武人の家系なので、詳しいらしかった。


男子たちが無駄口を叩きながらのんびり雑な仕事をしている頃、女子はブリトニーやフロルを中心として、


「革紐が毛羽立ってますわ!

交換しないと!」


「鉄部の艶出しには油は使わないのよ、リリア。

手で持ったとき、滑って地面に落としたら、余計に汚れるでしょう!

ワックスを使いなさい!」


と、男子とは全く違う気合いで、武具の手入れを行っていた。


エズラ・ルァビアンは金の装飾のついた鎧を新調し、


「あー、リボンはピンクにしようかしら?

それとも深紅の方が映えるかしら?」


そもそも、勝つ気はない。


「たぶん天気にもよるのよねー」


カーシャが言うと、


「そうそう。

曇りなら深紅では黒く見えてしまうかもしれないわ。

ピンクにすべきよ!」


「でも晴れれば、ピンクはぼんやりしないかしら」


悩みは尽きない。




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