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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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闇討ち

「船でなにかを運んでる?」


りぃんの報告に、チェコは首を傾げた。


何しろコクライノの丘の端で、陵墓の隣なのだ。

売れるような作物が育つとは思えない。

しかもバイロン卿の領地はアドスの領地より、もっと田舎で、もっと痩せた土地が僅かにあるだけなのだ。


「…船で運ぶ、ということは密輸…。

…密輸するものは、禁止されているものに決まっている…」


パトスはベッドに潜り込みながら、欠伸がちに語った。


「禁止されているもの?

禁止カードとか?」


チェコは平和な田舎に育ったので、何が禁止なのか、あまりよく判らない。


「…国によって禁止物は違う…。

確かドルキバラでは麻の実が禁止なはずだ…」


「え、麻って、痛みを押さえたりするのに、よく使う奴でしょ?」


中世、麻の実は薬として広く使われていた。

麻の茎は衣服を織る糸になるので、当時は普遍的に栽培されていた植物だった。


「先のバビストとの魔王戦争のとき、敵のバビストはドルキバラに麻薬を密輸し、内部から崩そうと画策したのだ。

それ以来、ドルキバラでは麻の衣服も国内生産はしていない、ほど徹底して禁止薬物にしている」


とエクメルが教えてくれた。


「へー、良い薬なのになぁ…」


現在でも医療目的としてなら、麻も使われている。

全面的に禁止とは、ドルキバラらしい苛烈さかも知れなかった。


「ケシなんかより、ずっと安心だよね?」


同じような効果を得る薬物にケシの汁があるが、これの危険性はチェコでも知っていた。


「でも、その程度の酩酊感だったら、スペルでも出せるんじゃ無かったっけ?」


チェコは呟いた。


相手を酔わせたようにするスペルや恐怖させるスペル、混乱させるものは、ほぼ禁止カードだったが山ほどあった。


現在の麻酔などは、一般のスペルランカーでは扱えないが、ほぼスペルでなされている。

薬物よりは安全で、後遺症もほとんど報告されていなかった。


「へへへ、欲しいか?」


不意に天井から声がし、へ、と見上げると、天井板をずらして、パックが顔を覗かせた。


「パック!

忍び込んだの?」


「こんな屋敷、俺にとっちゃ貧民窟と変わらねーよ!」


ひらり、と床に音もなく降りてくると、カードを見せる。


全身麻酔、や局所麻酔、などの医療カード、それに禁止カードの恐怖や混乱、酩酊などが揃っていた。


「え、くれるの?」


無論、デュエルでは使えないが、実戦であれば絶大な効果は保証されたカードだ。


「ま、話によっちゃ、だな」


黒猫の顔に、狡猾な人の表情が浮かぶ。


? と無言でパックを見つめるチェコに、パックは。


「マタタビと交換だ!」


チェコは、無言でパックを見ていたが、我慢しきれなくなり、ブッ、と吹き出して笑い転げた。


「パックって、見た目だけじゃなくて、マタタビが好きなんだ!」


パックは毛を逆立てて!


「うるさいっ!

中毒じゃないぞっ!

ただ、気持ちよくなるから、たまにリラックスしたいだけだっ!」


「リラックスッ!」


チェコはベッドの上で、転げ回って笑う。


一日中、ハッピーホルモンが過多に分泌されているチェコにとっては、人がリラックスしたい、という気持ちも、ほとんど判らなかった。

ほぼ、人生で緊張したことが数えるほどしかないのだ。

それは、リコ村でハブられている時も変わらなかった。

野うさぎたちと、けっこう楽しく遊んでいた。


「判った!

交渉決裂だ!」


パックが激怒してから、チェコは慌てて、マタタビを手に入れる約束を交わした。


 

 


翌日、学校では殺伐としたムードが漂っていた。


なにしろブルー弟のような、絶対関係無い者たちまでが、青くなって剣を振っている。


「えっ?

一日で空気、違ってない?」


昨日までは、それなりに、もう少し穏やかなものも流れていた気がする。


「あー、どうやらさ…」


とレンヌが肩をすくめた。


「昨日、闇討ちが行われたらしいんだ…」


「闇討ちって、なに?」


チェコは、聞いた事も無い言葉だった。


「つまりだな…」


とアドスがもったいぶって。


「昨日の夜、優勝候補のグレータが、五人の覆面の剣士に襲われ、卑怯にも背中から切られて、大怪我を負ってしまったんだ」


「大怪我ってことは、もしかして真当の剣が使われたの!」


そのようだ、と背後に歩いてきていたタメク生徒会長が重々しく語った。


「優勝候補のグレータは前の相手に気をとられていた隙に、背後から背筋を切られた。

骨までは達していないらしいが、武道大会には出られないだろうな」


なんて卑怯な! とチェコは怒るが、ヒヨウは。


「戦いの定番だ。

相手の隙を作り、背後を襲う。

おそらくグレータは相手を侮ったのだろう」


とヒヨウが教えた。


「まあ、そうなんだろうけど、このドリュグ聖学院の生徒が闇討ちに屈した、等というのは、とんでもない不名誉な事だ。

チェコ。

君も立派な山の英雄なんだ。

夜道を一人で歩いたりしないでくれよ」


タメクはチェコと、おそらくその後ろのヒヨウに言って、去っていった。


「でも、学校内の大会でしょ?

何で血を見るような事になってるの?」


チェコは首を傾げた。


「ま、そこら辺が不明だから、みんな不気味なんだよ」


と、まともなことをアドスが語った。

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