商売
「そうか。
こういうオモチャを売れば、稼げるかな?」
チェコは、歯車や手足のパーツを作りながら、閃いた。
パトスは、
「…忘れたか。
百個作って、売れたのは十一…」
そういえば、そんな感じだった、とチェコも三年前の事を思い出す。
「んー、完成品を売るんじゃなくて、パーツを箱詰めして売ったらどうかな?」
買った子供が、自分で組み立てるのだ。
錬金術の勉強にもなるし、親も乗り気になりそうじゃないか?
「…商売は難しい…。
色気を出すな…、
髪染めと脱毛薬で充分…」
パトスは、余剰在庫の山を思いだし、うんざりしていた。
その年の、冬場の薪は、チェコの作った木の人形だった。
それよりは、チェコの美容薬は、完全オーダーメードなので余剰は出ず、少しづつファンを増やしていた。
なんと言っても薬屋のルーンの髪染めは、みんなルーンの色になってしまうし、肌は脱毛薬のせいでピカピカになっていた。
チェコは美容薬を配合し、望む髪色に、自然な脱毛を売りにしていた。
ニキビ薬も結構売れる。
ニキビは、ダウンタウンの子達にも売りさばけたから、パトスにしてみれば、堅実な商売だった。
チェコは、今は山の英雄を気取っているが、根はチェコなので、商売の手を広げたくてウズウズしているのだ。
必ず失敗する、チェコのいつものパターンだった。
準備室にも、新たな顧客が、チェコに薬のオーダーに来た。
チェコは、男だけでなく、女子にも脱毛薬が売れるのを、驚きつつも、
「女の子って、うぶ毛でも気にするんだな」
と勘違いしたまま、商売をしていた。
と、パーカー先生は、
「ほう、脱毛薬かね。
君は薬も得意なんだね?」
覗きに来て、感心した。
「あー、薬屋の友達がいて、話に聞いて作ってみたんですよ」
チェコは正直に答える。
「髪が生える薬もあったら、買うがねぇ」
チェコは、大事な部分に毛を生やしたくて色々研究はしていた。
「髪なら、これでいけるかも…」
賢者の石を操ると、パーカー先生の頭頂部に、毛が戻ってきた。
「驚いた!
まさか錬金術でこんなことができるとは!」
要はうぶ毛を黒くするスペルと、毛を太くするスペルの組み合わせ、だった。
後にチェコは、これで一財産を成すことになる。
その週の末日、武道大会は行われる。
もう数日、となると、誰も一年の練習など見てはくれない。
優勝はもちろん、腕に自信のあるものは、せめてベスト十に入ることを願っていた。
放課後の学校は、熾烈な上級生の戦いの場になっていた。
チェコはバトルシップへ向かうが、
「俺も、毎晩カーマに鍛えられてはいるけどさ、この前のパックの戦いで、練習と実戦は違う、って気がついたんだよね…」
ヒヨウに語った。
「そうだ。
何万回練習しても、真剣の一度にかなわない、とよく言われる。
だが、お前の歳で真剣の勝負などはなかなかできないだろうな。
パックと戦えただけでも幸運だった、と言うことだろう」
チェコは、いくら山の英雄、と言われても十三歳の子供に過ぎず、その中でもチビだった。
そー言えばアドスも生えてる、って言ってたな…。
同じ一年でも、タランなどは三年と言っても通るぐらいの体つきだった。
アドスは細いが、背はチェコより高い。
実戦の一回は、何万の練習に勝るのか…。
考え込むチェコだが、おお、と戦っている生徒たちから歓声が上がった。
見ると、六年のグレータとアフマンが、木刀を打ち合って、火の出るような激しい戦いを繰り広げていた。
みな、グレータとアフマンを見ている。
たぶん二人は、優勝候補筆頭と言っていいだろう。
ヒヨウは従者なので大会には出ないし、タメクは、大会で本気は出さない、と言っていた。
「チェコ!」
タランがグランドの端から走ってきた。
「俺と一勝負してくれ!」
一年は、ほとんど練習になっていなかった。
何しろブルー弟でさえ、ゴリラと練習しており、タランは今までブリトニーと戦っていたようだが、ブリトニーは、チェコがいないとテンションは下がる一方で、帰ってしまったようだ。
チェコはパーカー先生の助手をしていたため、すれ違ったのだ。
「まあ、一度ぐらいなら」
チェコも木刀を手にした。
服は制服だが、練習着を着ないでもやれる、と思った。
タランは、ブリトニー顔負けの、猪突猛進の立ち会いでチェコに襲いかかった。
チェコは、横に交わしながら、一瞬、左手を剣から放した。
まるで燕が虫を追って直角に空を曲がるように、チェコの剣はタランの小手を叩いた。
「おお!
なんだ、今の技は!」
一年生たちは大騒ぎをし、チェコはしばらく、皆の練習に付き合う羽目になった。
夕日が空を染める頃、チェコは汗もかかずに帰宅した。
バトルシップは諦めないと、いけなくなってしまった。
その頃、ジモンは荒れ野の果てに作られた菜園を見つけていた。
奴隷が、ある植物を作らされていた。
その植物は、臭いにより、麻薬であることはジモンも判った。




