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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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パックは戦うことが好きだった。


昔。

見世物小屋から逃げたばかりの頃は、何の力もなくて、ずいぶん痛めつけられた。

倒れて泥の味を知った。

自分の血の味も、傷の味も知っている。


だから、戦い方を知るのは、いい。


今度、獣人と馬鹿にされても、言ったやつをコテンパンに叩きのめす事ができる。


ガニオンの大砲をヒラリと交わし、パックは考えた。


でも、あいつは強かったな…。


チェコを思う。


一瞬でナイフを奪われ、喉に当てられた。


次はヘマをしない!


とパックは思い、またチェコと戦いたい、と熱望した。





金髪の山の英雄は、いつものようにアドスとゲラゲラ笑っていた。


皮肉屋で友達のいなかったアドスだが、山の英雄は、アドス程度の皮肉など気にもとめずにジョークと感じるものらしい。


フロル・エネルは、自分の漆黒の髪を、微かに舐めた。


ちょっと酸っぱい。


やっぱり…。


フロルは、自分が恋したときの変化を知っていた。


少し、髪が酸っぱくなる…。


金髪の山の英雄は、フロルの中で、少しづつ大きな存在になってきていた。





ブリトニーは、今朝、父と交わした会話を思い出していた。


「あたし…。

チェコ様のお嫁さんになりたいの!」


将軍は、口に含んだコーヒーを、思わず吹き出していた。


少し動揺しながらも、将軍は、


「ははは。

ブリトニーは相変わらず惚れっぽいな。

だが、いくら山の英雄と言えども、それだけではいかん。

次の武道大会で、せめてベストスリーにならないと、パパは認めんよ、ハハハ」


ブリトニーは、爽やかに笑うチェコを見つめた。


チェコ様。

きっとベストスリーに入ってくださいね…。





と、多くの者たちから熱い思いを注がれているチェコだが、隣の席のアドスと無邪気な会話をしていた。


「なーアドス。

お前、チンチンに毛、生えてる?」


アドスは飛び上がって驚いた。


「な、何、急に変なことを聞くんだよ!」


声をひそめる。


「だって気になるんだもん」


まー、アドスも気にはなる。


「お前はどうなんだよ…」


自分から墓穴を掘るほど、アドスは馬鹿ではない。

こういうデリケートな問題は、答えに失敗するとスクールカーストにも大きな影響を与えるのだ!


「んー、生えてないけど、脱毛した」


アドスはこけて。


「なんだ、そりゃ?」


「だって、脱毛した方が、生えてるっぽく見える、って言うんだもん…」


一応、チェコも恥ずかしがっているらしい。


ほら、と腕も見せる。

ツルツルになっている。


「あー…」


アドスも困り。


「脱毛したり、剃ったりだな。

うちはお金がないから、常に脱毛、って訳にはいかなくってさ」


正直な事を囁いた。


「そうなんだ。

脱毛薬なんて原価は安いから、作ってやるよ」


そー言えばチェコは上級生に薬を売ったりしていた。


「まー、ただでくれると言うなら、ありがたいね。

貴族で貧乏って言うのは、ホント大変なんだ」


それでさ…、とチェコは顔をつけてくる。


「ハイロンって知ってる?」





ジモンは昨日から、ドリアン憲兵を追跡している。

昨日は欠伸が止まらないほど退屈な一日を送っていたが、人間の日常の九九パーセントなどは退屈で当たり前だ。


今日はドリアンは、柄にもなく早起きをして、野原に入っていった。


畑にするには日当たりも悪く、土も良くないので放置された場所だ。


この先に進むと銀嶺山脈があり、ドルキバラに出るのだが、少なくとも徒歩で道も無い中を歩くのは到底無理だ。


だから怪しい。


ジモンは、トカゲのように草の中を這って進んだ。


一時間以上、ドリアンは藪を掻き分け歩いていく。


「こりゃ、歩き慣れてるな…」


本当の荒野の藪では、肥満したオッサンがそうそうは歩けまい。

道と判らない程度に、あらかじめ手を入れてあるのだ。


隠し畑とか、人に言えない趣味だとか、これだけの労力を費やしているのだ、何かあるはずだった。


俄然興味が湧いてくるジモンだが、決して焦りはしない。

人は秘密に近づくほど、用心深くなるものだ。

焦らず、気を抜かず、ジモンは藪を進んだ。





「さー、助手君。

今日は動く人形を作ってもらうよ!」


「動く人形…!」


チェコは驚愕し。


「あの、俺…、機械系は苦手なんです…」


パーカー先生に断った。


「いやいや、そんなに難しく考えることはないよ。

ここに見本がある」


パーカー先生は、ガラクタの山の中から子供のオモチャみたいなのを出してきた。


木の板を使って作った人形で、簡単な歯車で、足につけた車輪が回り、前進する。

腕にも、似た仕掛けがあって、剣を振り回す、と言うものだ。


「あー、このくらいのオモチャなら…」


ダリア爺さんの錬金兵は、自分で考え、頑丈で、話しもする。

そんなレベルと思われた、と思って焦ったが、さすがに、そこまで期待されてはいなかったようだ。


授業で五年生が組み立てるので、チェコの仕事は、歯車や兵隊の大ざっぱな形などを、板からくり抜けば足りるようだ。


「おー、さすがにダリア先生の愛弟子だね。

手際がいい」


愛弟子などと言う上品なものでは無かったが、こんなものなら町に売りに行ったものだ。

他愛もなかった。

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