表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
102/197

ハイロン卿

「ここはゴブリンの陵墓の敷地なんだよ。

だから憲兵も手を出せない場所なんだ」


「ち、胡散臭い貴族だと思ったぜ!」


ジモンが唸る。


ハイロン準爵は、今まで、単に臭いなどが気になるからドリアンを買収して嫌がらせをしていたのか、と思ったが、大金をガニオンに出していたことを知ると、何か怪しい、とチェコも考えた。


「この木はしなの木だな。

表皮を剥いて中の柔皮を蒸せば、糸になる。

今着ているボロよりはいいんじゃないか?」


ガニオンが、お礼のつもりか、貧民窟の皆に話した。


「へー、どうするの?」


チェコは乗り気になった。


「ああ。

織り機ならエルフの村から調達できるな」


ヒヨウも、しなの木の服を知っていたみたいだ。


織り機は後日運んでくるとして、ガニオンの指示のもと、皆は木の皮を剥いだ。


表皮はかなり硬く、線維になる部分はほんの少しだ。

だが、しなの木はそこら辺に大量にあるため、軌道に乗れば冬場の衣装は自給できるかもしれない。


蒸してほぐした木の線維を、糸にしてまとめる。


皆で働くと、結構な量の糸になった。





「なに?

傭兵はしくじったか…」


バイロン準爵は絹のパジャマとナイトガウンで、ドリアンから報告を受けると、


「ならば、この国から、さっさと追い出せ。

砂金を見られている」


砂金か…。


ドリアンも思い出した。


砂金は、ハイロンの秘密の事業によってもたらされているものだ。

有り体に言えば、密貿易であり、規模が小さいためにドリアンで揉み消せているが、バレればハイロンの立場は危うくなる。


ただし…。


砂金など、現実には、腐るほど流通しているのであり、それ自体であまりドタバタすると、余計な嫌疑も買いそうだ。


いつものように、ドリアンが世慣れた分別を発揮してうやむやにするのが、世間知らずのハイロンにとっても一番良いだろう…。





「はいろん準爵ヲ見張ルノカ!」


りぃんはベットの上で跳び跳ねた。


「うん。

何か悪いことをしているんだ。

何をしているのか判ったら、もしかしたら軍資金になるかもしれない…」


チェコはお金が必要だった。

カードもそうだし、貧民窟の皆にも、もっと良くしてあげたい。


それが、同時に、現時点での敵であるハイロンの資金力を弱める事にも繋がれば、文句はない。


チェコは学校で忙しい自分の代わりに、りぃんにハイロンを調べてもらうことにした。


どうせ、そんな悪い事は夜間にしているのだろう、と見当をつけ、りぃんに見てもらう。

その代わり、昼間はりぃんはチェコの体の中で寝ているから、りぃんの力は当てに出来ない。





「へー、さすがに金持ちだな。

砂金はやるから、この町から出ていけ、か?」


ガニオンは、ダウンタウンの外れの安宿でドリアンと会っていた。


「ハイロン卿と繋がっている、などと話すなよ。

それが条件だ」


ドリアンは尊大に語った。


「その辺は、しっかり守ってるよ、なぁ?」


奥のソファーに寝転んだパックは、フサフサの尾を振り、窓辺に座ったジモンは、美形の顔で笑顔を見せた。


ドリアンが去ると、


「ちぇー、もう引っ越しかぁ!」


パックは起き上がって残念がるが、ジモンは、


「俺は、ちょっと、あの憲兵をつけてくるぜ。

あいつら、羽振りが良すぎる!」


と、身軽に窓から壁を伝って路地へ降りた。


ガニオンは肩をすくめて、


「貴族といさかいはメンドクサイが、今は様子を見るか」


と宣言すると、部屋で、パックに格闘訓練をつけ始めた。


獣人の兵を持ちたいと、ガニオンは前から思っていたのだ。

浮浪児のパックを見つけたときは、魔眼のジモンを拾ったときよりも、興奮した。


パックがジモンぐらいになれば、ガニオンも本格的な傭兵仕事に復帰するつもりだった。


狭い室内で格闘戦の訓練をしながら、ガニオンは、どうドリアンの目をくらますか、考えていた。





りぃんはハイロン屋敷の、貴族の館にしては、それほど広くない庭の木に乗って、様子を探った。


と、奥の古い小屋に、馬車が隠されていた。


古ぼけた荷馬車であり、荷台にはボートが乗っている。


丘の上の屋敷にしては、不自然な形だった。


近づいて調べると、どうも普通の荷馬車ではない。


ハイロンの屋敷から、高い崖を木製のウィンチを着けて、目立たない細道を荷馬車は下り、丘の麓の小川に降りる仕掛けのようだ。


ハイロンは、人に見られずに大変な労力を使って川に下り、船を出しているらしい。


崖の麓には簡単な船着き場があったが、今は水没している。


貧民窟の水量が増えたため、被害を受けたものらしい。


フーン…。


りぃんはハイロンの裏仕事を察して唸ったが、同時に、何かの臭いを感じた。


知っているような臭いだ。


だが、これだ、とは判らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ