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スペルランカー2  作者: 六青ゆーせー
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募集

ホームルームが終われば、生徒たちは帰宅するが、今は、


「一年生の諸君!

剣闘部に入らないか!」


とゴッツイ先輩が叫んだり、


「スペル研究会です。

一緒にスペルを研究し、トーナメントに備えませんか!」


など、様々な午後の活動の誘いがある。

着飾った少女もチェコをいざなう。


「なに、ティールームって?」


チェコが言うと、アドスが。


「まぁ、社交界の練習さ。

優雅な会話とか、必須の教養とかを教え会うような場所だ」


「ドッククラブに入らないか!」


「…俺は、精獣だ…!」


パトスが憤慨した。


「そういえば、レンヌとタランは?」


チェコが周囲を見回すと、


「タランは剣闘部、レンヌはスペル研究会だよ」


とアドスが肩をすくめる。


が、


「君は山脈の英雄チェコ君だね!」


と一人の上級生が近づくと、


「なに、小さくって判らなかったぞ!」


勧誘の生徒たちが色めきたち。


「君、ぜひ我々エルフ同好会に入ってくれ!」


「私たち、スイーツ研究会です。

味見だけでもOKよ!」


「狩りは好きかな!」


「水泳部は君を待ってるぞ!」


チェコの周囲には、何十センチも背の高い人たちが殺到した。


「うわっ、なに?

判らないよ!」


と、取り乱すチェコだが、


「こっちだ…」


誰かがチェコの袖を引っ張った。


チェコは、するり、と人混みを抜けて、人気の無い建物の北側に出る。


雑草の、すえた臭いが立ち込めた、行き止まりの場所だった。


「あ、ありがとう、助かったよ…。

えっと…」


「その者の名前は知らないのである」


とエクメルがささやく。


それは、一目でかなり上級生だと判る、筋骨のしっかりした男だった。


ふふん、と男は笑い、


「俺様の名を知る必要は無い。

お前の、英雄の看板さえブチ壊せれば、それで良いからだ」


男は、がっしりした顎を反らせて、チェコを見下ろした。


「えっと、それは俺と戦う、ってこと?」


チェコは、ぽかん、と男を見上げた。


「そう言うこった。

なに、ちょっと顔が腫れ上がれば、良いんだ。

大人しくしてりゃあ、すぐに済む…」


言って男は、チェコに近づいた。


男も腰に剣は下げているが、素手で殴る構えのようだ。


ふーん、とチェコは男を見上げ。


「じゃあ、殴り合いなんだね?」


と老ヴィッキスに習った拳闘のポーズを取った。


「おいおい小僧。

下手に反撃なんてしない方が身のためだぜ!」


男は忠告するが、


「うん、大丈夫」


ニカ、とチェコは笑った。


男は舌打ちし、


「舌を噛むなよ!」


言いながらパンチを打ち下ろした。


その男の、さらに懐深くチェコは踏み込み、遠投のように体をしならせ、拳を突き出した。


小さな的を殴るため前に踏み込んだ男の顎に、チェコのパンチがパチンと当たった。


しまった…。


男は、不意を突かれていた。


反撃など無いとたかをくくっており、チビの拳が自分に届くとも思っていなかった。


チビのパンチは、予想外に強烈で、男の口の中に、血の味が広がる。


男は、膝がくだけて、倒れていた。


「あーあ、大変だねぇ。

たぶん顎が砕けたよ」


チェコは、男の前に立って、自分の拳を広げて見せた。

そこには、いつの間にか、小さな金属片が握られていた。


「お兄さん、俺がスペルランカーだって知ってたよね?」


男は、顎から血を吹いており、意識も失いかけていた。


「…チェコ…!」


パトスが、アドスを伴って走ってくる。


「心配しなくても顎は治してあげるよ。

ただ、俺はプロじゃないから、失敗しても怒らないでね…。

歯並びまで保証できないけど…」


言いながらチェコは、男の腕を、後ろで縛っていた。


ロープもカイザーナックルも、カードで持っていたものだ。


「アドス、彼が誰か知ってる?」


「ああ、この人は、グレて素行が悪いので有名なカラー準爵の三男、ブルーだ」


ほほう、と男の傷を治そうとかがんだチェコに、


「動くな!」


と、十メートル先で弓を構えた男が、木立から立ち上がった。


「あれ、組織的だね…」


チェコは呟く。


が…、男は、すぐに首の後ろ側を捕まれて、倒れた。


「うわっ、ヒヨウ!

どうしたの!」


急にチェコは叫んで、髪を肩に付かないほどに伸ばした少年に駆け寄った。


「やあチェコ、ちょっと久しぶりに寄ってみた」


と、ヒヨウは涼やかに笑った。


「おいおい、この学園は一般人は入れないんだぞ!」


と、エルフのアースカラーの着物姿のヒヨウを、アドスは見とがめた。


ヒヨウは、ふむ、と考え、


「チェコ、それは困った。

このままでは俺は怒られてしまうので、俺を従者にしてくれないか?」


「従者?」


チェコは、貴族のシステムなど、なにも知らない。


「ああ。

従者なら、学校に入れる上に、お前のクラスに入ることも出来る」


「え、でも俺たち一年だよ?」


ヒヨウは、確かタッカーより一つ下とかだ。


「まー、山で勉強は済ませているんだが、都会の学歴があれば困らないからな、名門校に入りたいんだ」


チェコは顔を輝かせ、


「そんならOKだよ!」


と叫んでいた。


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