ロザリタについて
ロザリタ
貴族ではないので、名字はない。情熱的な真っ赤な髪に、理性的なグレーの瞳。腰には剣を差していて、聞けば用心棒のようなことをしていると返ってきた。
人間なのでもちろん魔法が使え、火の魔法が得意とのこと。
「やられたね」
ロザリタは長い髪をかきあげ、垂れた水滴を拭う。
その行動は色っぽく、それであり男性的。ミチルは思わず見とれ、目が合う。目を細め笑うロザリタに赤面だ。
「夏前だというのに今日は冷えるね、大丈夫?」
ミチルの隣に腰掛け、肩に手を回す。香水だろうか?ほのかに香る。指をパチンと鳴らすと、そこに火が灯った。その火はロザリタの髪色と同じで、真っ赤だ。
「あったかい……」
火を見てぼぅとするミチルの髪に、キスをする。
ロザリタはスキンシップ過多のようだ。
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エリンは用事があるとかで、薬草取りには来なかった。一人で山に入ろうと用意している時に現れたのがロザリタだ。
一人では危ないと言うが、ミチルにとっては村人の方こそ危険。
しかし考えてみれば何が出てくるかわからない山だ、用心棒のようなことをしているロザリタの方が安全だろう。
薬草取りは捗った。しかしそれは最初の内だけで、山の天気は変わりやすい。ざんざん降りに見舞われて、髪から服までびしょびしょ。
ロザリタが見付けた洞窟に入り、寒さに肩を抱く。
薪に火をつけ暖をとる。魔法の火は濡れた髪や服をじんわりと乾かしている。ロザリタが密着しているので、もう寒さは感じなかった。
「ミチルの魔法はなんだろうね」
老若男女問わず人には皆魔法が使えるが、得意魔法というものがあるらしい。
ロザリタは火、エリーティカは風だとエリンが言っていた。
もちろん魔法など使えるはずのないミチルは、曖昧に笑って見せた。
激しい雨音が、洞窟に響く。
立てた膝に顔を埋める。まぶたの裏に広がった光景は、仲の悪い家族だった。