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おかしいのは私?それとも、


 エリン。

夢の中で、女性に抱かれていた男の子。

その子が今どこにいるかと言えば、ミチルのベッドの中だ。

そしてミチルはと言うと、硬い床の上にタオルケット一枚で寝転んでいる。


「どうして私が床で、あんたがベッドなのよ!」


エリンはふんと鼻を鳴らすと、これだから馬鹿はと嘲る。


「どこの馬の骨かもわからん奴と一緒に眠れるか!」


「今すぐ出てけ!」


「忘れたか!これは王命である!」


この繰り返しだ。

エリンが来て一週間、ベッド争奪戦は毎晩の恒例行事となりつつあった。

礼儀知らずで口は悪く、おまけに目付きの悪いエリンはミチルの天敵であった。

しかし力ずくで家から追い出しても追い出しても、エリンは帰ってくる。

この一週間で、両者の体は傷だらけだった。



 昼夜問わず喧嘩する二人に、本当に仲が良いねぇと笑う村人たち。

彼らは言う。二年前に人間の国から二人で、この村にやって来たと。ベルもロザリタも、同じことを言う。

キリキリする胃を擦りながら、ふんぞり返っているエリンを見やる。どうせエリンも、村人と同じことを言うだろうと。


「ストレスでおかしくなったのかも……」


「おかしいのは村人だろう、あいつら何で俺のことを知っているんだ?」


「あんた、おかしくなってないの!?」


「つくづく無礼なやつだ、このバカ女!」


顔に枕をヒットさせられようがなんだろうが、この時ばかりはエリンがここに居てくれてありがたかった。











◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「今のこの状況、どうなっているのかはわからんが、生活するには都合がいい。お前だって、簡単に村人に迎えられたんだろう?」


 山に入り、薬草を摘む。薬師であるベルに売れば、お金になる。これは素手で触ってはいけない葉だったと、彼の言葉を思い出した。

エリンはと言うともちろん手伝う気など一切なく、川に足をつけて涼んでいる。


「確かにそうだけど、それが心地いいかは別だよ。気味悪いし……」


 赤い実を手に取り、ミチルはそれを見つめる。この赤い実はイチゴのような味で、粒々の種がたくさん入っている。

そのまま食べてもうまいが、調理した方がよりうまい。


「ふん、わがままを言うな。お前はこの村から出て生活などできないだろう。ならば気味が悪かろうが受け入れるしかない」


   あ、また……


 革の紐でできた、ネックレス。ペンダントトップは服に隠れて見えないが、エリンはその紐をよく弄っていた。

そういう時は大抵、なにか考え込んでいるような顔をしている。きっと、癖なんだろう。




 この世界に梅雨は存在しないのだろうか。

もうすぐ夏だと聞いたが、湿度は全く感じられない。風が木葉を揺らし、陽光はエリンの不思議な色の瞳をより輝かせた。

ミチルはその色をきれいだと感じていたので、思わず見入った。




 二人は気づいていなかった、それほど彼らは、二人きりの世界だった。男にはその世界に入る余地はなかった。それはあまりにも憎らしく、男の歯がギリリと鳴る。


男は、そっと篭を置く。

中には、ミチルが美味しいと言った赤い実がたくさん入っている。

男は懸命にミチルの声を思い出す。

お前が言ったんじゃないか。お前が、僕を一番の友達だと言ったのに、どうして――









こんばんは、カズソウソウと申します。

ブクマ評価してくださった方がいたようで、とても嬉しいです、ありがとうございます。

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