おかしいのは私?それとも、
エリン。
夢の中で、女性に抱かれていた男の子。
その子が今どこにいるかと言えば、ミチルのベッドの中だ。
そしてミチルはと言うと、硬い床の上にタオルケット一枚で寝転んでいる。
「どうして私が床で、あんたがベッドなのよ!」
エリンはふんと鼻を鳴らすと、これだから馬鹿はと嘲る。
「どこの馬の骨かもわからん奴と一緒に眠れるか!」
「今すぐ出てけ!」
「忘れたか!これは王命である!」
この繰り返しだ。
エリンが来て一週間、ベッド争奪戦は毎晩の恒例行事となりつつあった。
礼儀知らずで口は悪く、おまけに目付きの悪いエリンはミチルの天敵であった。
しかし力ずくで家から追い出しても追い出しても、エリンは帰ってくる。
この一週間で、両者の体は傷だらけだった。
昼夜問わず喧嘩する二人に、本当に仲が良いねぇと笑う村人たち。
彼らは言う。二年前に人間の国から二人で、この村にやって来たと。ベルもロザリタも、同じことを言う。
キリキリする胃を擦りながら、ふんぞり返っているエリンを見やる。どうせエリンも、村人と同じことを言うだろうと。
「ストレスでおかしくなったのかも……」
「おかしいのは村人だろう、あいつら何で俺のことを知っているんだ?」
「あんた、おかしくなってないの!?」
「つくづく無礼なやつだ、このバカ女!」
顔に枕をヒットさせられようがなんだろうが、この時ばかりはエリンがここに居てくれてありがたかった。
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「今のこの状況、どうなっているのかはわからんが、生活するには都合がいい。お前だって、簡単に村人に迎えられたんだろう?」
山に入り、薬草を摘む。薬師であるベルに売れば、お金になる。これは素手で触ってはいけない葉だったと、彼の言葉を思い出した。
エリンはと言うともちろん手伝う気など一切なく、川に足をつけて涼んでいる。
「確かにそうだけど、それが心地いいかは別だよ。気味悪いし……」
赤い実を手に取り、ミチルはそれを見つめる。この赤い実はイチゴのような味で、粒々の種がたくさん入っている。
そのまま食べてもうまいが、調理した方がよりうまい。
「ふん、わがままを言うな。お前はこの村から出て生活などできないだろう。ならば気味が悪かろうが受け入れるしかない」
あ、また……
革の紐でできた、ネックレス。ペンダントトップは服に隠れて見えないが、エリンはその紐をよく弄っていた。
そういう時は大抵、なにか考え込んでいるような顔をしている。きっと、癖なんだろう。
この世界に梅雨は存在しないのだろうか。
もうすぐ夏だと聞いたが、湿度は全く感じられない。風が木葉を揺らし、陽光はエリンの不思議な色の瞳をより輝かせた。
ミチルはその色をきれいだと感じていたので、思わず見入った。
二人は気づいていなかった、それほど彼らは、二人きりの世界だった。男にはその世界に入る余地はなかった。それはあまりにも憎らしく、男の歯がギリリと鳴る。
男は、そっと篭を置く。
中には、ミチルが美味しいと言った赤い実がたくさん入っている。
男は懸命にミチルの声を思い出す。
お前が言ったんじゃないか。お前が、僕を一番の友達だと言ったのに、どうして――
こんばんは、カズソウソウと申します。
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