三日前まで14歳、二年後も14歳
村人が言うにはこうだ。
ミチルは二年前、人間の国からやって来た人間の女の子。人間のくせに魔法は一つも使えず、金もなけりゃ生活能力もない。
年の近い獣人のベル、そしてロザリタに助けられながら、今では薬草を売って生計を立てている。
水面を覗きこむ。そこに映った姿は紛れもなく、三日前に髪を切りすぎたばかりのミチル。しかし村人は二年前に村に来たのだと言う。
もちろんミチルには、この村に来たという記憶はない。
二年前14歳だったと言うなら今現在私は16歳なのかと尋ねれば、そう言うならそうなんだろうと、村人はそっけなかった。
そもそも日本はいつから人間の国と言うようになったのか、人間はいつから魔法が使えるのが普通になったのか。
水面を跳ねる川魚にミチルの姿は揺れ、空白の二年間について考えるのはやめることにした。
ここは、山奥だ。山奥にある小さな村、名前はない。なんともいい加減。
住民票や保険証、名字もない。名字は王族貴族にしかないらしい。
医者はというと、山を下れば町があるらしく、そこにいるとのこと。じゃあ体調が悪ければ山を下らなければならないの?その質問には、だから僕がいると返ってきた。
「もちろん、急患だったら町に行くか医者を呼ぶしかないよ。でも軽いものなら僕の薬でちゃちゃっとだ」
目当ての薬草を見つけ背負っていた篭にポイと投げ込んだベルは、二年間の記憶をすっぱりなくしたと診断されたミチルに、二年前と同じことを言うんだねと笑った。
「この葉は素手で触っちゃあいけないよ、爛れてしまうからね」
そう言うと、話も聞かずにその葉を触ろうとしたミチルの手をそっと包み込む。
その手は暖かく、大きい。
ベル。16歳の、ウサギの獣人。
たれ目の下にあるほくろが、その甘いマスクに拍車をかけている。村での生活三日目で、彼の印象は大分よくなった。
親切、顔が良い。それに、同級生と違って立ち振舞いが美しいし、ぎゃーぎゃー騒がない。
この村には他にも違う種の獣人や、もちろん人間も住んでいるが、それは別に普通のこと。
同じ種だからって特別に親切にすることなどない。愛想の悪い村人も少なからずいる。
親切な獣人だということが、ここ三日での彼の印象。
深い緑色の目が、こちらを見つめる。
「ミチル、僕の一番の友達。ずっと仲良しだよ」
そう言うと、彼は幸せそうに微笑んだ。