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始まりは湿気と共に
その日、ミチルはどうにもこうにも調子が悪かった。
梅雨特有の湿気の多い雨で朝の目覚めが悪ければ、中学生の少ない小遣いでこっそり買って戸棚に隠していたドーナツは弟に食べられていた。
それに加え、いつものことだが親の仲も悪い。昼に作った料理は家族に不評だし、午後に行ったカットサロンでは肩くらいの長さでと言ったのにこれじゃスポコン少女ではないか。
はぁ、大きなため息が漏れる。
なんとなく家に帰るのが嫌で、近くの商業施設にウィンドーショッピング。ガラスケースに反射して映るミチルは思っていた以上に短くなった髪に、いやいやしかしよく見ればうんうんと、
「あの美容師、やるじゃない」軽口を叩けるほどには調子も回復していた。
元来、くよくよするタイプでもない彼女は、好物の甘いものを前に上機嫌になっていた。
それは全国展開のソフトクリーム屋で、本社は名古屋にあるとテレビで見たばかりだ。
店の外に立て掛けてあるメニューを吟味し、よし決めたと自動ドアを潜る。
そこは、冷房のよく効いた店内……ではなかった。
「……えっ?……あのぉ、はい?」