第3話 マリー・コバルト
学院を出て、ぶらぶらと寄り道をしながらレンガで舗装された道を家に向けて歩いていると、突如街中にサイレンが響き渡った。
このサイレンは街に異形の怪物、クリーチャーが出現した時、闘う力のない住民への避難勧告。
それとクリーチャー出現場所付近及びそこの地区の部署に所属する剣士と魔導師の人たち(エージェントと呼ぶ)への緊急要請をする物。
因みに、クリーチャーというのは歴史の授業で習った気がするけど、あんまり覚えてない。
大昔に俺たちが暮らす世界、ルワードの様々な場所に突然現れた、神出鬼没の異形の怪物。
それらから民を守るためにルワードの全種族が協力して組織されたのが剣士・魔導師育成学院である。そのルワードには大きく分けて3つの種族が存在する。
俺たち人間族と、人間とは似て非なる者たち亜人族。それと天使や精霊と言った存在その物が魔力の神精族。
そしてクリーチャーはそのどれにも属さない怪物たちのこと。
見た目は様々で大きな鳥型もいれば、泥の塊の様なものまで。
今、俺の眼前にいる2メートルを超える1つ目骸骨とか……。
「はぁ!?」
おいおい。何で俺の近くで沸いて出るんだよ!! ふざけんな!!
近くに剣士や魔導師はいない。ついてねぇ。
帯刀や抜刀は自衛手段のため禁止されていない(魔法も含む)が俺は帯刀なんかして無いし、魔力判定も0の雑魚だから、この状況を自力で切り抜けるには逃げの一手しか無い。
その場からさっさと退散しようと、踵を返し走り出した直後。
赤や黄色、緑に紫と言った色の魔法の球が複数個、前方から放たれ、俺とすれ違い後ろにいるクリーチャーに当たる。
「君、早くこっちまで逃げるんだ!」
魔法を放った一団の1人が俺に向けて大声で言う。
俺は言われた通り、声の元へ急いで駆ける。
魔法を放ち俺を助けてくれたのは、青色を基調とした制服を着た一団だった。
「ありがとうございます。助かりました」
一団に感謝の意を唱える。
「なに、気にするな。これが我々の役目だからな」
振り返りクリーチャーを見ると、数人の青色の剣士たちが斬りかかっていた。そしてこっちに一団も各々で魔法を唱えて、近接と遠隔の波状攻撃を1つ目骸骨に仕掛けていく。
ものの2分程度でクリーチャーは討伐され、街にその旨を伝えるアナウンスがされる。
俺は再度助けてくれた青色のエージェントたちに感謝の言葉を口にする。
「あれ、レーンじゃない」
そう声を掛けてきたのは、幼なじみのマリー。マリー・コバルトだ。
マリーは気の強そうな鮮やかなスカイブルーのツリ目と栗色の髪を後ろに結ったポニーテールが特徴的な女の子。
全体的に均整の取れた身体付きに、鼻筋の通った非常に整った顔立ち。
マリーは俺とタメで同じ学院に通いながら、ここを担当とする部署に所属している。そこの名前が確かウェイブルだった……はず。
マリーや周りのエージェントたちが今着ている、青を基調としたジャケットに中は白のブラウスで明るい青色のリボンタイをしている。
下は濃紺のフレアミニスカートでそこから伸びる白い美脚には青と黒のボーダーニーソに覆われている。そして腰には帯刀された一振りの刀剣。
俺の天使リーンちゃんには遠く及ばないが、マリーは幼なじみの贔屓目抜きにして、可愛い容姿をしている。
性格は自分にも他人にも厳しいが、結構面倒見が良く、友人や後輩の練習にも嫌な顔1つせず付き合ってくれる。
「怪我とかしてない?」
マリーは尋ねてくる。運悪く現場に居合わせた国民が負傷していないか確かめるのもエージェントの仕事だ。
彼女の心配そうな空色の視線が俺に注がれる。
いくら仕事とはいえ、そこまで心配そうな顔するなよ。一目見れば大丈夫なことくらいわかるだろ。
「どこも怪我なんかしてないし大丈夫だよ」
「良かったぁ」
心底安堵したのか、マリーは盛大に息をつく。
「そんなに心配することじゃ無いだろ」
「何言ってんの」
俺の言葉を聞いて、元々ツリ上がった空色の瞳をさらにツリ上げて怒る。
「レーンは、私たちエージェントや他の学生と違って、闘う力の無い一般市民なのよ!」
「わか」
「わかってない!!」
先回りして、否定する幼なじみのマリー。
未だ、彼女の鋭い空色の眼光が俺を捕捉している。
「いくら魔力0の落ちこぼれでも、大事な幼なじみなんだから」
落ちこぼれ。俺より先に実力を認められウェイブルに所属した幼なじみは、俺にそう告げる。
本当のことだから、仕方ない。
「ちょっと待ってて」
マリーはそう言って、事後処理をしている人たちの方へ小走りで向かっていった。
マリーが向かった所に目をやると、彼女は隊長らしき雰囲気を放つ30代前半の男と何やら話している。
数秒して、話が終わったのかマリーがこっちまで駆けてくる。
「話は終わったか?」
戻ってきたマリーに尋ねると。
「ええ。隊長にアンタを送っていく許可を取ったのよ」
「何で、わざわざ送られないといかん?」
疑問がそのまま口から出る。
「そりゃ、怪我はしていないとはいえ、クリーチャーと遭遇した市民を送るのも私達エージェントの仕事なんだから」
「それはご苦労なことで」
という訳で俺は幼なじみのマリーに家まで送られることとなった。