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嫌われ者と英雄の孫  作者: 初洞 四季
第1章
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第1話 告白、そして玉砕

 審判が試合開始の笛を吹き、その音が訓練場内に響き渡る。


 互いに訓練着である、上は白のシャツに下は緑のジャージ。手には木刀を持っている。


 相手が一足一刀の間合いを詰め、持っている木刀で突きを仕掛けてきた。


 俺はそれを右にステップしてギリギリ回避する。だがその動きが読まれてた様で対戦相手の木刀が突き出してから横一文字に振るい、俺の胸を切り裂いていた。


 俺は数回のバックステップで相手の間合いから脱出を試みるが、次に来た袈裟斬りを受けて脱出は失敗する。


 相手の猛攻を受け、大きく後ろに吹き飛ばされて俺は……


「リザイン!!」


 持っていた木刀を手放し、敗北宣言をする。


 そして審判が試合終了の笛を鳴らし、今日の模擬戦も俺のリザインによる敗北で終わった。試合時間、僅か29秒。


 模擬戦が終わり更衣室で、訓練着から剣士・魔導師育成学院ディランパの夏制服に着替える。


 ここの夏服はディランパの校章が胸に刺繍された白の半袖ワイシャツに緑のラインが側面と裾に走った空色長ズボンだ。


 制服に着替え、訓練着をナップに詰め込んで更衣室を出た所で校内アナウンスが流れた。


『剣士クラス1年のレーン・アイボリーさん。至急指導室まで来て下さい。繰り返します――』


 アナウンスは俺の呼び出しらしい。面倒くさ。でも行かないともっと面倒くさい事になるのは目に見えているので、仕方なく、不本意ながら指導室まで向かう。



   ◆ ◆ ◆


 指導室に到着し、数回ノックをする。


「どうぞぉ〜」


 中から若い女性の声がして、入室時の挨拶を口にしてドアを左にスライドさせて開ける。


 指導室の真ん中には折りたたみ式長テーブルが2つ長い面をくっつけて横に置いてあり、そのテーブルを挟んでパイプ椅子が向かい合わせに置いている。


 右側の椅子に白のワイシャツと黒のタイトスカート。さらに白衣を着たディランパの剣士クラス実技担当の女性教諭ヒノコ・ラディ。


 ラディ先生は艶のある黒い長髪を邪魔にならい様に後ろで結い上げている。


 目は切れ長でどこかクールな雰囲気を感じさせる。


 ラディ先生はその切れ長の目を俺に向け対面にある椅子を顎で指す。それに従い俺は先生の対面に腰を下ろす。


「何で、ここに呼ばれたかわかるかな? レーン・アイボリー君」

「わかりません」


 即答するとラディ先生は呆れた口調で述べる。


「君ねぇ、今日の模擬戦も散々だったじゃない。これで、5日間連続でリザイン負け。正直に言って単位、ヤバいわよ?」

「そんなにヤバいんですか? 俺の単位」


 俺の質問に対し、ラディ先生は首肯する。


「そうよ。次落としたら剣士資格は剥奪の上に退学よ」


 ふーん、そうなんだ。


「何、関係無い様な顔してんのよ。それじゃ、次は一応魔力判定をするから、この水晶玉に手をかざしてみて」


 先生が取り出したのは青い水晶玉が嵌め込まれた黒曜石で出来たチェス盤の半分くらい板だった。


 これはマナプレートと言い、水晶玉に手をかざして、その人の魔力の系統や量、レベル等を判定する学院や企業には欠かせない魔道具の1つだ。


 水晶玉に手をかざして魔力判定を行う。そして数秒後に水晶玉が淡く輝いた。判定が終了し結果が黒曜石の板に表示される。


 黒曜石に表示された文字はエラー。


「またエラーなの?」


 そうなんだ。俺の魔力判定の結果はいつもエラー。何回試してみてもエラー。


 何回か魔導師クラスの教師に診てもらっても、皆口を揃え魔力反応が一切無いと言うのだ。そしてマナプレートの判定結果を合わせると……。


 俺には魔力が無いんだ。


 だから俺は剣士クラスに入ったのだが、成績は最下位。


 まぁ、やる気が無くて、適当にしてるから当たり前なんだけど。


「何で英雄様の孫がこんな魔力もやる気も無い、落ちこぼれなのかしら」


 ラディ先生は頭を抱えて大きなため息をついた。


 英雄というのは俺のジィちゃんことで、何でそう呼ばれてるかは興味が無いのから覚えてない。



   ◆ ◆ ◆


 指導室を退出して廊下に出てみると、窓から夕焼けの光が差し込んで廊下を夕色に染め上げる。


 下校のため、夕色の廊下を生徒玄関に向けて歩いていると向こうから1人の女子生徒が歩いてきた。


 その子は青みがかった銀色のゆるふわミディアムヘア。可愛らしい目鼻立ちで瞳の色は濃い桃色。


 白磁の様なキレイな白い肌。


 胸は控えめだが、それちベストマッチした小さな身体を空色の半袖ワンピースに服の側面と裾に緑のラインが走ったディランパの女子制服(夏)が包んでいる。


 スカートから伸びる魅惑的な細い脚は黒のタイツが包んでいる。


 俺はその子を見て、身体中に電流が走った様な感覚を覚え、立ち止まってしまった。


 俺は前から来る天使に、一目惚れした。


 思い立ったが吉日。愛の告白をしようと一目惚れした銀髪で桃色の目をした女生徒に伝えようと彼女に近づき口を開こうとした途端彼女は言った。


「お断りします」


 鈴を転がす様な涼しげで可愛い声で、彼女は拒絶の言葉を口にする。


 見事に俺は玉砕した。

 あれ? でも俺、まだ何も言ってないよな。じゃあ彼女の言葉は一体……? 


 困惑していると彼女はまるで、俺の心を読んでいるかの様に口を開く。


「あなたの告白をお断りします。と言ったのです。それと様にでは無く、私はあなたの心が、相手の心が読んでいるんです」


 そんな信じられない言葉が脳に響き渡る。


 俺の心を読んだのか彼女は幼子を諭す様な声音で自己紹介する。


「私のこと、知らないみたいですね。私はリーン・アップル。相手の心を覗き、盗み読む醜悪なゴ族の生き残りで」


 そして最後にこう付け足す。


「皆の嫌われ者です」


 嫌われ者? なんで?


「当たり前でしょう。心を勝手に盗み読む行為は相手のプライバシーの侵害になりますからね。ウソや秘密、隠し事も全部筒抜けになりますからね。それに、今もこうしてあなたの心を読み、それが口から出る前に先回りして喋られるのは気味が悪いでしょう?」


 そんなこと思わないけど?


 そこで初めて彼女、リーンちゃんは驚きの表情を見せる。その表情も抜群に可愛いなぁ。

 すると今度は頬を紅潮させて、わかりやす過ぎるくらいに照れた。うん、その照れた顔もべらぼうに可愛い。


「わた、私が、か、かわ、可愛いなんて。そそそそ、そんなウソつかないで下さい」


 可愛らしく顔を真っ赤に染めながら抗議して来る。ウソじゃないし、本音だし。


 するとリーンちゃんは俺の心を読んで、ウソじゃないと分かったのか、両手で紅潮した顔を覆い隠して黙っている。


 客観的に見たらその仕草はあざといのだろうけど、めっちゃ可愛い。


「好きです」


 思わず愛の言葉が口からこぼれた。


「!! お、お断りします」


 再び玉砕。


 そのショックで俺は膝から崩れ落ちた。夕色の廊下が目に眩しい。


 どうして、どうしてダメなんだ……。


「だって私たち初対面ですし、あなたの名前を知りませんし」

「俺、レーン・アイボリーって言います。一応剣士クラスに通っています」


 少し落ち着いたのか、可愛いらしい天使は手で顔を覆い隠すのをやめている。


 そんなリーンちゃんの最もな言葉に俺は電光石火で顔を上げ、立ち上がり自己紹介を開始すると共にリーンちゃんに愛の告白。


「君を愛しています。俺と結婚を前提にお付き合いをお願いします」


 俺の直球過ぎる告白に尚も顔を赤くしている。その表情も抜群に可愛いぜ。


 数秒リーンちゃんは深呼吸をして落ち着きを取り戻して口にする。


「私は、あなたとは付き合えません」

「な……ぜ?」


 無意識の内に口から出た疑問にリーンちゃんは律儀に教えてくれる。


「私は相手の心を勝手に盗み読むキラワレ者なの。そんな私に隠し事やウソは一切通じない。だけど逆に私はあなたにそれが出来る」


 リーンちゃんは夕日に染まった空間の中、真っ直ぐに俺をその桃色の目で見つめて、続ける。


「そんなアンフェアな関係は長くは続きません。直ぐにあなたも私を嫌いになって、言葉の刃物や物理的な暴力を振るう様になる」


 そんなこと無い。


「今はそうかも知れませんけど、付き合えばわかります。今の私の言葉が真実だと」


 そこでリーンちゃんは自虐的な笑みを浮かべて告げる。


「だって私は、正真正銘の心を読む嫌われ者だから」


 その時、一瞬だけリーンちゃんの目元で何かが光った。それは夕日の光を反射した彼女の涙。

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