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閑話 ベルフィアス家の長兄と妹

今回は閑話です。久々ですね。

 

 王立学園の創立記念パーティーは、今年の卒業生だけでなく在校生を含め大勢の学生が参加する。学園祭に次いで大きな行事の一つといえるだろう。今年入学したばかりのラナリスにとって、初めての記念パーティーとなる。公的な行事ではないとはいえ、社交界の一つだと考えて行動せよというのは父であるラクウェルの言葉だ。今年社交界デビューしたばかりのラナリスにとって、場数を踏むのは大事なこと。学生たちばかりなので、気を張る必要はないのだが、程よい緊張感を持てということだろう。

 ラナリスに婚約者はいない。そのため、エスコート役は長兄のマグリアにお願いをすることになった。ラナリスとしては、こういう状況でもなければアルヴィスに頼みたかったところだが、もうアルヴィスにラナリスのエスコートを頼むことは出来ない。妹であってもアルヴィスの立場は、王太子。気軽にエスコート役を頼める立場ではないのだから。

 そんなラナリスは、学園に向かうためマグリアと共に馬車に乗っていた。


「不満そうだな?」

「そういうわけではありません。それに、お兄様こそお義姉さまの元にいたいのではありませんか?」

「そういう訳にもいかない。父上が行かない以上、私が行くのが当然だろう。それに、他に誰がお前をエスコートする? まさかヴァレリアに頼むつもりか?」

「それができないことくらいわかっています」


 パーティーということで、誰かしらエスコートをする相手は必要となる。マグリアとアルヴィスの他に、ベルフィアス家で男兄弟といえば、残るは異母弟であるヴァレリアだけだ。だが、学生でもなく成人もしていない以上エスコート役を頼むことはできない。ラナリスとてわかっている。とはいえ、マグリアもここにいるよりも領地にいたいはずだ。生まれたばかりの子どもがいるのだから。それが故の言葉だった。しかし、マグリアにとってはラナリスのエスコート役をするのは決定事項であったようで、それが当然という態度だ。


「全く……お前の気遣いは有り難いが、ここでミントの元に戻ってみろ? 間違いなく、どやされて終わりだ」


 そう話しながらため息を吐くマグリア。マグリアとミントの兄夫婦は、政略結婚。政略結婚の間柄では、夫婦仲が冷めている関係も珍しくない。だが、少なくともラナリスから見た兄夫婦はとても仲が良いように見える。初めてミントを紹介された時には、大人しそうな貴族令嬢で、見た目はお堅いマグリアとは気が合いそうには見えなかったのだが。


「お義姉さまが出来た方で本当に良かったですね」

「他人事のように言っているが、お前も学園在籍中にそうなることは覚悟しておけよ」

「……わかっています」


 学園在籍時に婚約者を決める。それは、父であるラクウェルからも言われていたことだ。多少、気後れを感じてしまうのはやはり昨年の事件が尾を引いているからだろう。

 ラナリスにとって、ジラルドという従兄は身内という印象が薄い。どちらかというと、兄に全てを押し付けたということしか残っていない。加えて、貴族令嬢にとってはある意味で最悪な人物となりつつある。ラナリスの評価もそれと大差なかった。

 婚約者を蔑ろにしただけでなく、義務を怠った王族。後者の方が罪は大きいだろうが、令嬢としては蔑ろにされただけでも最悪なことだ。政略であればある程度の冷え切った関係は我慢できるが、結婚前から蔑ろにされ続けては堪まったものではない。よくエリナは耐えていたものだとラナリスは思う。もし、ラナリスであれば文句の一つや二つを言っていたかもしれない。

 婚約者の関係に割り込む令嬢も令嬢だが、それを認める男性側にも問題はある。だからこそ、ジラルドを始めとした関係した子息たちへ罰が科せられたのだから。家同士の婚約という意味を軽く考えすぎていた彼らは、貴族として生きる道を閉ざされた。

 そんな彼らと婚約していた令嬢たちは、エリナを除いた全員が未だに婚約を結んでいない。幼き頃から結んだ婚約というのは、想像以上に令嬢たちを傷付けていたのだ。その結果、結婚せずに人生を歩むことが出来ないかという考えを令嬢たちが持ち始めていた。流石に高位貴族では許されないだろうが。それに、全ての子息たちが、例の彼らのようになるという訳ではない。逆に、反面教師となってくれるはずである。

 考えながら俯いていると、ポンと頭に手を乗っけられた。マグリアだ。


「余計なことを言ったな。悪い。そんなに考えすぎるな。今は、パーティーを楽しむことを考えろ」

「お兄様」

「来賓としてだが、アルヴィスも来るはずだ。今回は、公式な場ではないのだから兄妹として話もできるだろう」


 マグリアも、ラナリスが一番慕っていたのがアルヴィスだということは知っている。同じ母を持つ兄妹。ラナリスにとって、一番特別なのがアルヴィスだ。乗せられているとわかっていても、気分は上がってくる。それと同時に幼い異母妹のことが頭を過った。


「……マグリアお兄様」

「どうした?」

「アルヴィス兄様が、屋敷に来ることは出来ないのでしょうか?」

「ラナリス……」


 呆れたように名を呼ぶマグリアに、ラナリスはやはり出来ないかと肩を落とす。ラナリスとて、理解はしている。だが、学園を卒業して以来屋敷に戻ってくるのは年に一回あればいい方だったアルヴィスが、全く帰ってこなくなったことで異母妹は大層寂しがっていた。言葉にすることはないのだが、異母弟もそうだろう。二人は、かれこれ一年半以上会えていないのだから。


「それは出来ないだろう。王太子が移動するなら、近衛が動かなければならん。調整も必要になってくる。ただでさえ忙しいあいつに負担をかけるだけだ」

「そう、ですよね」

「……アルヴィスの前でそういうことは言うなよ。会いたいというなら、王都に連れてくることを考えればいい。どうせ、直ぐに会える」

「え?」


 ラナリスは、思わずという表情でマグリアを見上げた。そこには、いつも以上に優しい笑みを浮かべたマグリアの顔がある。あまり見たことのない表情に、ラナリスは驚きを隠せなかった。

 そんな視線を無視して、明後日の方を見ながらマグリアは続けた。


「結婚式がある。王太子の結婚だが、身内として参加は出来るからな」

「ヴァレリアたちも、ですか?」

「あぁ。今回は、全員を参加させると父上が言っていた。安心しろ」

「はいっ」


 生誕祭では、全員が揃うことは出来なかった。それができる。嬉しい知らせに、ラナリスは満面の笑みで頷くのだった。



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