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第四章 記念となる日 1話

サブタイトルは変更するかもしれません。また、章構成を変更しました。

 

 建国祭が終わってから数日経ったある日。アルヴィスは国王の執務室を訪れていた。

 向かい合って座る国王の顔には、疲労の色が濃く出ている。否、正確には疲労ではないのかもしれない。二か月後に開催される、学園の創立記念パーティー。それを思い出しているのだろう。


「伯父上」

「いや、すまん。もう一年が経つのかと思ったのだ……いよいよ近づいてきたのだとな」

「そう、ですね」


 まだ一年しかとするか、もう一年とするのかは人によって違うだろう。アルヴィスにとっては、王太子という立場になってから一日一日が早い。どちらかといえば、まだ一年しか経っていないのかと感じていた。それでも創立記念パーティーというものは、今の王族たちにとっては特殊なものだろう。王族の歴史において、近年の中では最大の汚点なのだから。


「けじめをつけなければと、考えておる」

「創立記念パーティーに出席されるのですか?」

「いや、そうではない」

「では、一体何を?」


 昨年の創立記念パーティーは、ジラルドの不始末により台無しになってしまった。これにより、昨年度の卒業生はパーティーを中断されたまま学園を卒業していった。通常ならば、大切な思い出となるはずのものが無くなったのだ。それも当時の王太子の所業によって。

 今回のパーティーには昨年の卒業生も招くことになっている。一年遅れとはなるが、心残りだという意見が多く聞かれたため特別配慮として認められたのだ。ここに、今年は王族代表としてアルヴィスも参加することになっていた。国王が参加する予定はない。創立記念パーティーを台無しにしたけじめというのだから、これを変更するのかと考えたアルヴィスだったのだが、すぐに否定されてしまった。


「アルヴィス、余は数年のうちに退位するつもりだ」

「……そ、れは」

「子の不始末は親がつけなければならん」

「ジラルドは既に成人しています。責任を取るならあいつだけで十分ではありませんか?」


 未成年ならば、子がしでかした責任は親が取って当然だ。しかし、成人した以上は己が責任を取るもの。それが常識である。


「無論、その通りだ。だがな、あいつは王太子であったのだ。国を、民を導くはずの次期国王がしでかしたこと。その責任が余にないとは言えまい」

「……」


 ジラルドがただの貴族の子息であったならば、常識の範囲内で収まったかもしれない。しかし、ジラルドは王族で王太子だった。そういう訳にはいかないのだと言われてしまえば、アルヴィスにこれを否定できるものはない。


「お前が王となるには、まだまだ足りないものがあるだろう。隠居した身となっても、助けとはなれるはずだ。これはお前のためでもある」

「伯母上は……王妃陛下は承諾しているのですか?」

「無論、既に話は通してある。あれはむしろホッとしていたな。ちゃんと、リトアード公爵令嬢が妃になるのを見届けたいと言っておった」

「そうですか」


 エリナが幼い頃、ジラルドの婚約者と決まった頃から教育係として、エリナの成長を見守ってきたのが王妃だ。娘のように見守ってきたエリナが妃として王家に入ってくるのを何よりも楽しみにしていたらしい。王妃には娘がいない。側妃が生んだ娘、リティーヌとキアラはいるものの彼女たちは側妃の傍にいる。仲が悪いわけではなくても、娘として可愛がるようなことはなかった。だからこそ、息子と結婚することで娘になるエリナを可愛がっていたのだろう。今となっては、エリナが娘となる将来はなくなってしまったが。

 王妃の想いを知っているからこそ、エリナの結婚式のドレスや装飾品にはアルヴィスの母は口を出していない。主導しているのは、王妃だ。リトアード公爵夫人も了承している。王家に入るのだから、王妃が主導するのが当然だと。


「それもこれも、せめてお主たちに子が出来てからだとは考えておるがな」

「っ⁉ 善処、いたします……」


 国王の発言に、アルヴィスは言葉を失う。

 王族として、王太子として世継ぎを作るのは大事な仕事の一つでもある。当たり前のことを言われただけなのだが、改まって告げられると反応に困るというものだ。どのような顔をすればいいのかもわからず、アルヴィスは困惑するしかなかった。




 その後、アルヴィスは国王の執務室を後にした。外で控えていたレックスとディンに目配せをすれば、彼らはアルヴィスの後ろをついてくる。


「ん? アルヴィス、何かあったのか?」

「殿下、具合でも悪い―――」

「何でもない。気にしなくていい……」

「ですが」

「戻るぞ」


 目ざとくアルヴィスの変化に気が付く二人は優秀だ。だが、そんな二人にも知られてしまうような自分にアルヴィスは舌打ちしそうになる。今のアルヴィスはそれほどまでに困惑が抜け切れていない。これ以上顔を見られないようにと、首を傾げている二人を他所に早歩きで足を進めるアルヴィスだった。




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