15話
カリアンヌの元へ向かったアルヴィス。そこには、姿を認めて微笑むカリアンヌと、不機嫌なガリバースがいた。
「お待たせしました、カリアンヌ王女」
「はい、お待ちしておりましたわ。ですが、エリナ様はご一緒ではありませんのね?」
共に来るものと思っていたのだろう。カリアンヌは、頬に手を添えて首を傾けた。それは予定が外れたという意思を映しているようにも見える。
「すみません。疲れていた様なので、少し休ませています」
「そうでしたか」
仕方ないという風に言葉では話しているが、それは納得しているということではないようにアルヴィスには感じた。言葉に出すことはしないが。
苦笑しながらアルヴィスはカリアンヌへと手を差し出す。
「そろそろ次の曲が始まります。踊りますか?」
「うふふ。踊りませんか、ではありませんのね」
「……気に障ったのなら申し訳ありません」
「気になさらないでください。社交辞令としてでも、アルヴィス様から手を差し出して貰えるだけで、私は嬉しいですわ」
そう話すとカリアンヌはアルヴィスの手に重ねるのではなく、その腕へと絡み付いた。一瞬、身体を退きそうになるのをアルヴィスは耐える。
「カリアンヌ王女」
「さぁ、参りましょう。お兄様も、頑張って下さいませ」
「ふん」
そっぽを向いて移動するガリバースを余所に、カリアンヌはアルヴィスを引っ張る。然程力があるわけではないものの、拒絶することも出来ずにされるがままアルヴィスも移動した。
立ち位置を中央に定めて、立ち止まる。先までエリナと踊っていた位置だ。敢えてここに来たということは、アルヴィスにもわかった。
腕を離したカリアンヌは、アルヴィスの肩に手を添える。ダンスの体勢を取るようだ。少しばかり距離は近いものの、作法に違反している訳ではない。
「王女」
「何でしょうか?」
「はぁ……少しばかり近づきすぎだとは思いませんか? 如何に婚約者がいない立場だとしても、変に誤解を与える行動は控えるべきです」
音楽が始まる。カリアンヌからの返事はないが、留まっていることも出来ない。アルヴィスは、音楽に合わせて身体を動かした。周囲の目もある。笑みを張り付けて、踊りに集中するしかなかった。
暫くすると、カリアンヌは踊りながら少しだけ顔を近づけてくる。思わずアルヴィスは、眉を寄せてしまった。
「カリアンヌ王女」
「私を、妻にするつもりはありませんか?」
「……何を」
「聖国からの提案は、はね除けるおつもりなのでしょう?」
スーベニア聖国が打診していることは、他国も周知のものだった。他国を味方にして事を運ぶために、シスレティアが広げたのだ。世界の為に、国内での婚姻よりも他国との繋がりを作るべきだというのが、スーベニア聖国の主張。加えて、シスレティアも未婚ではあるのにも関わらず、己との婚姻ではなく他国の貴族令嬢を相手に薦めている。聖国ではない国との結び付きを薦めることで、他国からの共感を得るつもりなのだ。
「他国なら良いというのでしたら、私でも構わないと思いません?」
「……」
「かの令嬢とアルヴィス様よりも、令嬢には別の他国の殿方を。そして、アルヴィス様にも他国の令嬢の方が、より良い関係を示せると私は思います」
その一人として、カリアンヌが名を上げるというのだろう。確かに、シスレティアの提案を受け入れるつもりではない。内容だけを聞けば、シスレティアよりは許容できるものだろう。
「それは、マラーナ宰相からの入れ知恵ですか?」
「ご想像にお任せしますわ。それに、私は妻として楽な方だと思います」
「どういう意味ですか?」
「……私は子どもを一人授かれれば、それで良いのです。愛して下さる必要はありません。側妃を何人召し抱えて頂いても、許容しますし……エリナ様を妻としても気にしませんわ」
正妻の地位は譲れない。アルヴィスとの子どもは一人でいい。それ以外を求めるつもりはないと、カリアンヌは話す。典型的な王女としての考え方だ。本来、王族の婚姻はそういうもの。アルヴィスも理解できる考え方だった。
「尤も、愛して下さるならそれにこしたことはありませんが」
「私がスーベニアの女王の提案を受け入れたならどうするつもりですか?」
「それは、とても困りますわ。マラーナとしても、アルヴィス様の血を引く子が欲しいのですから」
「はぁ……」
行き着くところは同じ。ただ、カリアンヌの方が嘘は少ない。どちらも受け入れ難いことではあるが、それはアルヴィス個人としてのもの。王太子としてどうするかは、別の話となる。
話をしていると音楽が終わってしまった。内緒話も終わりだ。足を止めたまま、アルヴィスは考える。そうして出た結論をカリアンヌへ伝えた。
「先ほどの話、考えさせてもらいます」
「色好い返事を期待しますわ、アルヴィス様」
展開的に、色々と思う人もいるかもしれませんが、どうか見守って下さい!




