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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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14話

 

 国王にシスレティアとの会話を報告していると、エリナが戻ってきた。アルヴィスの指示で王妃の相手をしていたのだが、その王妃自身が下がってしまったらしい。


「すまぬな、エリナ嬢。あれも、随分と弱くなったものだ」

「いいえ。お気持ちは、わかりますから」

「感謝する」


 目を伏せてエリナに礼を伝える国王だが、エリナは困ったように笑って首を横に振っていた。


「伯父上、エリナが困るだけです」

「それもそうか」

「いえ……」


 挨拶等は終えたようなので、王妃が席をはずしても失礼には当たらない。尤も本来なら国王と共にいることが良いに越したことはないのだが。

 そうこうしていると、音楽が奏でられ始めた。ダンスの時間がきたらしい。国王に目配せをして、アルヴィスはエリナに手を差し出す。


「エリナ」

「はい!」


 己の手に重ねられたエリナのそれを、アルヴィスは優しく握った。そのまま中央へと連れ立って向かう。他にも踊る者たちはいるが、アルヴィスの歩みを遮るような者はいない。アルヴィスは真ん中で立ち止まり、エリナと向かい合った。


「今は楽しもう。余計なことは考えなくていい」

「はい、アルヴィス様」


 腰を抱き寄せて、音楽に合わせ踊る。こうして踊るのは、生誕祭以来だ。

 あの時は御披露目を兼ねていたこともあり、エリナも緊張が見えていた。しかし、今のエリナは生誕祭の時よりも表情が柔らかくなっているように思える。


「アルヴィス様?」

「いや……こうして踊るのは2回目だが、あの時より踊りやすいなと感じたんだ。それに……」

「それに、何ですか?」


 シスレティアとの会話後だからか、エリナといるのが楽に感じる。想像以上にシスレティアとの会話が、疲労を与えていたのだろう。権力者という以上に、宗教人との会話。大聖堂とも無関係ではないのだから、慎重にならざるを得ない。精神的な疲労感が、アルヴィスを襲っていた。

 そんなことをエリナに告げるわけにはいかないので、アルヴィスは少しだけ肩を竦めて誤魔化す。そうして微笑んでしまえば、エリナは何も追及してこない。

 案の定、エリナは顔を真っ赤にして下を向いてしまった。小さく名前を呼べば、上目遣いでアルヴィスを見る。エリナにしては珍しい仕草だが、それもアルヴィスへと心を開いてくれているからなのだろう。アルヴィスも馬鹿ではない。エリナが己を慕っているということは、わかっている。

 エリナに対して、同じような気持ちがアルヴィス自身にあるのかはまだ判断できていない。微かに過るのは、過去の記憶。一瞬浮き上がりそうになったとある感情に、アルヴィスは苦笑する。今更だと。

 そんなアルヴィスの内心には気付くことはなく、エリナは顔を上げた。


「ずるい人ですね」

「悪い……」

「でしたら、もう少し一緒に踊って下さいますか?」


 誤魔化していることには気付かない振りをする代わり、ということだ。その程度ならお安い御用だろう。一つ目の音楽が終わったが、そのまま躍り続けた。婚約者同士なのだ。文句を言う者はいない。

 二曲目が終わり、少し疲れを覗かせたエリナを国王の所へ連れていく。この後、アルヴィスはカリアンヌと踊ることを約束しているのだ。国王の元には、アルヴィスの父と兄がいた。


「父上、兄上もこちらにいたのですか」

「あぁ。久しぶりのダンスに、あれも疲れたようでね。ミントと奥に下がらせた」

「そうですか」


 公爵夫人であるオクヴィアスは兎も角、ミントは久しぶりの公式行事だ。疲れるのも無理はない。


「兄上がいるのでしたら、エリナをお願い出来ますか?」

「エリナ嬢を? 別に構わないけれど、アルヴィスはどうするんだい?」

「俺は、マラーナの王女と約束をしているので」

「マラーナ王女……というと、ガリバースの妹姫か。外交の場では仕方ないことだね。他の来賓とも踊るのだろう?」


 マグリアの問いに、アルヴィスは頷いた。だがまずは、カリアンヌの相手が先。視線で探せば、ガリバースと共にいるのが見えた。まだダンスは踊っていないようだ。


「すみませんが、俺は行ってきます。エリナをお願いします」

「わかった。行ってきなさい」

「じゃあ、エリナも」

「はい」


 後方に待機していたレックスとディンにも目配せをする。二人はアルヴィスの専属だ。前回のこともあり、出来る限り近くでアルヴィスを守ることを強く言われていた。アルヴィスがその場を離れると、レックスがその後ろに付く。一方のディンはというと、念には念をということでエリナの側に控えていた。これもアルヴィスの指示によるものだった。



 離れ行くアルヴィスの背を見送るエリナの背中を、マグリアがポンと軽く叩く。叩かれたエリナは、驚いてマグリアを見上げた。


「心配かい?」

「マグリア卿……いえ、わたくしは」

「そのように不安そうな顔をしていては、説得力はないよ」

「……申し訳ありません」

「それで、何か心配なことがあるのかい?」

「それは……」


 エリナの態度が、心配でたまらないと告げている。マグリアは黙ったまま待っていると、エリナは小さな声でぽつりと溢した。


「学園の友人が、話していたのです」

「友人?」

「……マラーナ王女は、アルヴィス様との婚姻を望んでいると」

「穏やかじゃないね……全く、誰かな。漏らした連中には少しお仕置きが必要だ」

「え……?」

「ん? あぁ、こっちの話だよ」


 エリナにはちゃんと聞こえていたのだが、マグリアは気にしないようにとにっこりと笑って首を横に振った。その笑顔に、少しだけ黒いものを感じたのは気のせいなのだろうか。


「あの――」

「ただ……そうだね。アルヴィスは自分よりも優先順位が高いものが多い。その点は、私も心配かな」


 そう話すマグリアはとても悲しげで、エリナはそれ以上のことを追及することは出来なかった。



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