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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第一部

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12話

 

 パーティーが始まった。エリナを伴ってアルヴィスも会場内へと入る。会場へ足を踏み入れれば、視線を痛いほどに感じた。視線を向ければ、それはスーベニアの女王シスレティアだった。

 グラスを片手に笑みを浮かべている彼女と視線が合うと、僅かに口を開かれる。何事か言葉を発しているようだ。その言葉の意味を知り、思わずアルヴィスは眉を寄せる。


「信奉者はそれしか見ないのか……」

「アルヴィス様?」

「悪い。何でもない。気にしないでくれ」

「……わかりました」


 エリナが知る必要はないことだ。シスレティアの視線からエリナを隠すように、腕を引く。身体を密着させるように寄せた。アルヴィスの身体が盾となり、シスレティアからはエリナの様子が見えなくなる。そのままパーティーの開始の音頭を取る国王へと顔を向けた。

 簡単な挨拶が終われば、後は懇談会のようなものだ。アルヴィスも警護の立場ではあるが、参加したことがあった。見ていれば良かった去年とは違い、今回は来賓らと積極的に関わらなければならない。

 エリナを伴って来賓らの元へ足を運ぶ。ルべリアの王太子としての顔見せも兼ねているので、これは立派な仕事のひとつだ。社交用の笑みを張り付けて、言葉を交わす。

 何人かの後にマラーナ王国の二人の元へ向かった。


「楽しんでおられますか、ガリバース殿」

「おぉ、これはこれはアルヴィス殿。先ほど振りですね。お陰様で楽しませて頂いてますよ」

「それは何よりです。カリアンヌ王女も」

「お気遣いありがとうございます、アルヴィス殿下」


 挨拶を交わすと、アルヴィスはエリナを紹介する。エリナが建国祭のパーティーに参加するのは、実はこれが初めてであった。成人前ということで、他国との公式行事は不参加だったのだ。ジラルド自身は参加していたのたが、エリナをきちんとルべリア王太子の婚約者として他国へ紹介するのは、今回のパーティーが初めてとなる。

 何度目かの挨拶にも嫌な顔せずに、エリナは対応する。


「エリナ・フォン・リトアードでございます。お見知りおきくださいませ」

「マラーナ王国第一王女、カリアンヌ・ギルティ・マラーナです。宜しくお願いしますわ。今後とも……」

「? はい、勿論でこざいます」

「私はガリバースだ。マラーナの王太子でもあるので、アルヴィス殿とは同じ立場になる。宜しく、エリナ」


 カリアンヌよりも前に出たガリバースが胸元に手を当てて挨拶をしてきた。僅かに身体を引くエリナだったが、令嬢としての教育がそうさせたのか微笑んで挨拶を返した。


「アルヴィス殿、この後のダンスだが是非妹とも踊ってもらえないか?」

「勿論、構いません。宜しくお願いします、カリアンヌ王女」

「こちらこそ、宜しくお願いしますわ」


 招待している側として、来賓側の女性たちとは全員とまでいかなくともある程度の人数とアルヴィスは踊るつもりだった。マラーナ側の申し出を断ることはない。


「代わりといってはなんですが、エリナ様もお兄様と踊られては如何ですか?」

「私が、ですか?」

「ええ。どうでしょう、お兄様?」

「勿論、異論はない。可憐な令嬢と踊れるならば光栄だ。如何かな?」


 ガリバースはアルヴィスに問いかける。婚約者の了承を取るというポーズだ。他国であっても王太子の立場にある相手だ。例えアルヴィスであっても、何の理由もなく断るのは失礼に当たる。貴族令嬢でしかないエリナが断ることもない。わかった上での誘いなのだろう。


「エリナ、頼めるか?」

「はい、アルヴィス様」


 エリナに選択させるのは良くないと判断したアルヴィスは、あくまで頼まれたという体を取ることにした。マラーナ王国が例の事件に無関係ではない以上、エリナに何かを仕掛けてくる可能性はゼロでない。それに加えて、親しげな態度を取るガリバースに対して、アルヴィスは僅かながら不快感を感じたのも事実である。


「宜しく頼むよ、エリナ」

「……お手柔らかにお願い致します」


 再び名前を呼ぶガリバースに、エリナは困惑した様子を隠せないようだった。

 通常、名前を呼ぶのは親しい間柄だけだ。エリナからすれば、ガリバースもカリアンヌもそれには当たらない。呼ぶとすれば、ガリバース王太子殿下、カリアンヌ王女殿下と呼び掛けるのが正しい。逆に、ガリバースらがエリナを呼ぶならば、リトアード公爵令嬢もしくはエリナ嬢と呼ぶのが普通だ。当初のアルヴィスの様に。

 エリナから指摘することはできない。不快だと伝えることも同様だ。しかし、エリナの様子から喜んでいないことだけは一目瞭然だった。気がついていないのは、呼び掛けたガリバース本人だけ。

 エリナと同じように不快だったのか、そこへ介入者が現れた。白いドレスを纏った女性だ。扇で口許を隠しながら、アルヴィスの横に立つ。


「マラーナ王国の王太子殿は、礼を知らぬようです。淑女に対して名を呼ぶことが出来るのは、家族か友人のみ。初対面の淑女へ許可なく名を呼ぶことは、かの婚約者殿に対しても無礼だとは思いませんか?」

「スーベニア女王」

「それとも、マラーナでは許されることなのでしょうか? 如何ですか、マラーナ王女?」


 視線だけを向けた先には、カリアンヌだ。ガリバースでは相手にならないと判断した様な態度だった。しかし、向けられたカリアンヌはにっこりと微笑む。


「申し訳ありません。エリナ様がお美しいから兄もつい口が滑ったようです。非礼をお詫びしますわ、エリナ様。それに、アルヴィス殿下」

「王太子ともあろう者が、口を滑らすとは嘆かわしいことです。かの国は宰相殿が優秀だとか。なれば、多少の弱さも可愛いのかもしれませんね」

「ええ、宰相のお陰で国も良い方向に進んでおりますから。スーベニアの女王様にまで優秀だと称されれば、宰相も喜ぶことと思います」


 笑顔で話す二人。アルヴィスはエリナを背に隠すと、側に控えているレックスに共に離れるよう指示を出す。飛び火してエリナへ矛先が向けられないとも限らない。既にほぼ全員へ挨拶は終えた。目の前のスーベニア女王を除いて。

 何とも言えない舌戦を繰り広げている女性二人。カリアンヌの隣にいるガリバースを見れば、口元を少しひきつらせているのが見えた。それは当然だろう。シスレティアは遠回しにガリバースを馬鹿にしているのだ。そして、カリアンヌも否定していない。これで何も感じないならば、ただの愚か者だ。

 この場の収拾をどうするか。アルヴィスは頭を抱えた。




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